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具の多いヤキソバの日記 [全326件]

2008年7月21日楽天プロフィール Add to Google XML

  荒野、桜庭一樹著
[ 文芸評論 ]  

少し幻想的な第三部

荒野というのは、主人公の、思春期の少女の名前だ。
作家の父親を持つ、などの、少しだけ変わった境遇であるが、取り立てて、特異という程ではない家庭。
この家庭と、学校などで、この年代らしい独特な感性で、実際に眼鏡を通して、世の中を眺める。

「ハングリー・アート」という、人を動かす衝動について、考える下りは、面白い。
第一部では、ジャズや作家に対して、第三部では、さらに包括的に、この言葉の意味を問う。

三部構成の、この作品の、第三部のみが、書き下ろしらしい。
第三部では、文学賞授賞式、夏祭りの喧噪、義母の失踪などの下りが、少し幻想的に描かれる。
特に、夏祭りの喧噪の中での、主人公の孤独感の描写が独特で、特筆したい部分だ。

主人公は、眼鏡をコンタクトに変えた。
コンタクトを通して観る世の中は、よりクリアーだ。

この年代の主人公が、人生を、どんな風に眺めるのか?
こんな観点での、見所は多い。



最終更新日時 2008年7月22日 3時39分23秒
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2008年7月14日

  地の日 天の海 下、内田康夫著
[ 文芸評論 ]  

世の無常

下巻での、大きなトピックスは、信長の残虐性、光秀の信長に対する憎悪、秀吉の天運、
そして、何より、世の無常だ。

光秀が、信長に対して、憎悪を深めてゆく様が、克明に描かれている。
そこでは、多くの資料を駆使し、中国大返しの謎にも迫っている。

また、教養面では、圧倒的に秀吉をしのぐ光秀であるが、
それが、根底から、突き崩されると感じる下りがあり、
大変興味深いし、これぞ、真の下克上だ。

最後は、本能寺の変へと、突き進む。

相変わらず、信長の残虐性には、開いた口が塞がらない。
非戦闘員である女子供まで、容赦無く、大量虐殺するが、忠臣秀吉でさへ、嫌悪感を感じる様になる。
随風に至っては、信長は阿修羅か、と評す。

それにしても、歴史上、秀吉程の、天運を備えた人物は、珍しいのではないか。
秀吉の決断、および、行動のすべてが「当たり」なのだ。

しかし、印象的な下りがある。
天海が秀吉を評して、旭日そのものの秀吉が、いつか落日となる、と呟く。

かように、本書の、戦乱の世では、無常を強く感じさせる。
さらに、激動の昭和史、平成史もまた、無常である事にも、想いを馳せた。



最終更新日時 2008年7月15日 1時38分1秒
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2008年7月13日

  地の日 天の海、内田康夫著
[ 文芸評論 ]  

戦国の日輪

著者初の歴史小説は、驚く程、時代考証が緻密だ。
非常に多くの資料を駆使し、信長、光秀、秀吉らの所業を、正確に描こうとしている。
それらの人物に、ことごとく関わるのは、若い出家修行僧である随風(後の天海僧正)である。
随風が、後の武将達を見つめる眼は、本質的な部分で、確かだ。

この物々しい乱世の世を、著者は、学者肌的な、深い思慮をもって、冷静に描く。
そこには、メリハリがあり、先人が、あまり描かなかった事象を、深く突っ込んで描いている部分もあれば、
いくつかの、歴史的に有名な事柄が、案外、あっさりと、記述されていたりする。
こんな形で、歴史上の、謎に迫ろうとしている。

上下分冊であるが、上巻ではまず、それぞれの人物像が、多方面から描かれている。
そして、物語が佳境に入ってゆき、下巻もまた、非常に、興味深い内容だ。

ここで描かれている歴史は、我々が知っているそれとは、少し異なる印象がある。
それは、先人が描いたそれと、少々趣を異にするからであるが、本書には、最新の研究成果が、盛り込まれている。

それらを含めて、本書は、第一級の歴史小説だと言える。
そして何より、読むのが楽しい。



最終更新日時 2008年7月13日 22時12分47秒
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2008年7月8日

  超怖い話M、平山夢明編著
[ 文芸評論 ]  

実質的な著者は、平山夢明氏から、久田樹生氏と松村進吉氏に交代。
本書では、平山氏は、監修を行っているに過ぎない。

内容は、何も、幽霊話ではない。
それでも、背後に、霊的な所業を、少し想像してしまう。
実話であろうとなかろうと、ひしひしとした現実感は、あまり強くない。
ただ、どの物語も悲劇的ではあるが、まとまりの良い、可もなく不可もない内容となっている。

平山氏の筆の様に、ねちっこい嫌らしさや、えげつなさは、ほとんど無い。
ただ、これまでの、平山氏の筆は、生理的な嫌悪感が強すぎた。
それは、もうやめて!と叫びたくなる様な、場面の数々だ。

本書は、マイルドだ。
あまり猟奇的ではないが、適度に常軌を逸している。
刺激の強過ぎる物語はちょっと、、、というホラーファンには、丁度良い内容だ。

一時のホラーブームで、猟奇的描写の、暴走があった様に思う。
本書には、節度を取り戻した、一定の怖さがある。

落ち着くべき所に、落ち着いた感のある一冊だ。



最終更新日時 2008年7月8日 5時41分16秒
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2008年7月1日

  恐怖箱 怪医、雨宮淳司著
[ 文芸評論 ]  

新鮮だが

成る程と思わせられる内容だが、少し時代を感じる。
物語は、得体の知れない化け物の様なものを想定して、組み立てられている。
これはこれで、秀逸な怪奇談ではあるが、震え上がる程の恐怖感までは、感じない。
それでも、これまでには、あまり類を見ないタイプの物語ばかりで、非常に新鮮ではある。

ところで、平山夢明氏らの、東京伝説シリーズや超怖い話シリーズなどには、以下のコンセプトがある。
本当の恐怖とは、幽霊話や超常現象ではなく、今この時にも、現実に行われている、人々の営みの中にあると。
例えば、HIV感染者が、故意に風俗店で働いている、とか、行列の出来るラーメン屋の隠し味は、ヒトの胎盤抽出物だ、
という風な、非常に強い現実感を伴い、私は、こんな類の恐怖感とは、一線を画して考えてしまう。

本書は、物語としては、良く練られているが、一昔も二昔も前の、現実感の少ない恐怖しか、感じなかった。
この内容なら、深夜に自室で一人で読んでいても、何のためらいもなくWCには行ける。

なお、物語の舞台が、必ずしも、病院だという訳ではない。
登場人物が、病院医院で、治療を受ける下りが、あったりする。

切り込みが新鮮な、怪談集として、興味深い。



最終更新日時 2008年7月1日 23時54分41秒
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2008年6月30日

  夜の桃、石田衣良著
[ 文芸評論 ]  

バランス感覚

恋愛、と言っても不倫であるが、それらと、ビジネスとのバランス感覚が問われている。
この、なかなかリッチな主人公は、不倫に対しても、一定の価値観を構築している。
あまり共感は出来ないが、この価値観の中で、物語が進行するのが、面白い。

帯には、著者の作家デビュー10年目での、新境地と書かれている。
おそらく、これは綺麗事であって、作風を世間のニーズに応じて、変化させたのだと感じる。

もし、そうだとすると、その目論見は、かなりの部分で成功している、と思う。
楽しく、すらすらと読めたし、登場人物達の言葉には、印象的なものも多い。

ただ、希望を言えるとすれば、恋愛問題を重視するよりも、もう少し、企業小説的であって欲しかった。
その方が、サラリーマン受けが良いと思われるし、ネタの幅も広がると思う。

喪失感を伴う、終盤のゴタゴタも、なかなか秀逸。
この様な内容なら、次回作も、発刊されれば、買いたい。



最終更新日時 2008年6月30日 0時28分48秒
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2008年6月29日

  ツバメ記念日、重松清著
[ 文芸評論 ]  

想いの空回り、という観点

十二篇の短編集であるが、全作品とも、外れ無く非常に面白く、本書全体を高く評価したい。
そして、どの作品にも、「空回り」という観点が、大なり小なり入っている。

最初に配されている「めぐりびな」では、古い方の雛に対する想い、
二番目の「球春」では、プロ入りして、芽が出なかった先輩を慕う、後輩野球部員の想い、
三番目の「拝復、ポンカンにて」は、ダイレクトに空回りがテーマになっていて、魅力的なオチまである。

こんな風に、作品全体を、こんな観点から読んでも、味わい深い。

我々が一度は経験した事のある、少年または少女時代の思い出と、重なる部分が多くて、共感出来る。
それらは、それぞれが懸命に生きる姿であるが、ほうっという読後感だ。

本書は、私が最近読んだ数十冊の中でも、ピカ一だ。



最終更新日時 2008年6月29日 17時53分27秒
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