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少し幻想的な第三部 荒野というのは、主人公の、思春期の少女の名前だ。 作家の父親を持つ、などの、少しだけ変わった境遇であるが、取り立てて、特異という程ではない家庭。 この家庭と、学校などで、この年代らしい独特な感性で、実際に眼鏡を通して、世の中を眺める。 「ハングリー・アート」という、人を動かす衝動について、考える下りは、面白い。 第一部では、ジャズや作家に対して、第三部では、さらに包括的に、この言葉の意味を問う。 三部構成の、この作品の、第三部のみが、書き下ろしらしい。 第三部では、文学賞授賞式、夏祭りの喧噪、義母の失踪などの下りが、少し幻想的に描かれる。 特に、夏祭りの喧噪の中での、主人公の孤独感の描写が独特で、特筆したい部分だ。 主人公は、眼鏡をコンタクトに変えた。 コンタクトを通して観る世の中は、よりクリアーだ。 この年代の主人公が、人生を、どんな風に眺めるのか? こんな観点での、見所は多い。
世の無常 下巻での、大きなトピックスは、信長の残虐性、光秀の信長に対する憎悪、秀吉の天運、 そして、何より、世の無常だ。 光秀が、信長に対して、憎悪を深めてゆく様が、克明に描かれている。 そこでは、多くの資料を駆使し、中国大返しの謎にも迫っている。 また、教養面では、圧倒的に秀吉をしのぐ光秀であるが、 それが、根底から、突き崩されると感じる下りがあり、 大変興味深いし、これぞ、真の下克上だ。 最後は、本能寺の変へと、突き進む。 相変わらず、信長の残虐性には、開いた口が塞がらない。 非戦闘員である女子供まで、容赦無く、大量虐殺するが、忠臣秀吉でさへ、嫌悪感を感じる様になる。 随風に至っては、信長は阿修羅か、と評す。 それにしても、歴史上、秀吉程の、天運を備えた人物は、珍しいのではないか。 秀吉の決断、および、行動のすべてが「当たり」なのだ。 しかし、印象的な下りがある。 天海が秀吉を評して、旭日そのものの秀吉が、いつか落日となる、と呟く。 かように、本書の、戦乱の世では、無常を強く感じさせる。 さらに、激動の昭和史、平成史もまた、無常である事にも、想いを馳せた。
戦国の日輪 著者初の歴史小説は、驚く程、時代考証が緻密だ。 非常に多くの資料を駆使し、信長、光秀、秀吉らの所業を、正確に描こうとしている。 それらの人物に、ことごとく関わるのは、若い出家修行僧である随風(後の天海僧正)である。 随風が、後の武将達を見つめる眼は、本質的な部分で、確かだ。 この物々しい乱世の世を、著者は、学者肌的な、深い思慮をもって、冷静に描く。 そこには、メリハリがあり、先人が、あまり描かなかった事象を、深く突っ込んで描いている部分もあれば、 いくつかの、歴史的に有名な事柄が、案外、あっさりと、記述されていたりする。 こんな形で、歴史上の、謎に迫ろうとしている。 上下分冊であるが、上巻ではまず、それぞれの人物像が、多方面から描かれている。 そして、物語が佳境に入ってゆき、下巻もまた、非常に、興味深い内容だ。 ここで描かれている歴史は、我々が知っているそれとは、少し異なる印象がある。 それは、先人が描いたそれと、少々趣を異にするからであるが、本書には、最新の研究成果が、盛り込まれている。 それらを含めて、本書は、第一級の歴史小説だと言える。 そして何より、読むのが楽しい。
実質的な著者は、平山夢明氏から、久田樹生氏と松村進吉氏に交代。 本書では、平山氏は、監修を行っているに過ぎない。 内容は、何も、幽霊話ではない。 それでも、背後に、霊的な所業を、少し想像してしまう。 実話であろうとなかろうと、ひしひしとした現実感は、あまり強くない。 ただ、どの物語も悲劇的ではあるが、まとまりの良い、可もなく不可もない内容となっている。 平山氏の筆の様に、ねちっこい嫌らしさや、えげつなさは、ほとんど無い。 ただ、これまでの、平山氏の筆は、生理的な嫌悪感が強すぎた。 それは、もうやめて!と叫びたくなる様な、場面の数々だ。 本書は、マイルドだ。 あまり猟奇的ではないが、適度に常軌を逸している。 刺激の強過ぎる物語はちょっと、、、というホラーファンには、丁度良い内容だ。 一時のホラーブームで、猟奇的描写の、暴走があった様に思う。 本書には、節度を取り戻した、一定の怖さがある。 落ち着くべき所に、落ち着いた感のある一冊だ。
新鮮だが 成る程と思わせられる内容だが、少し時代を感じる。 物語は、得体の知れない化け物の様なものを想定して、組み立てられている。 これはこれで、秀逸な怪奇談ではあるが、震え上がる程の恐怖感までは、感じない。 それでも、これまでには、あまり類を見ないタイプの物語ばかりで、非常に新鮮ではある。 ところで、平山夢明氏らの、東京伝説シリーズや超怖い話シリーズなどには、以下のコンセプトがある。 本当の恐怖とは、幽霊話や超常現象ではなく、今この時にも、現実に行われている、人々の営みの中にあると。 例えば、HIV感染者が、故意に風俗店で働いている、とか、行列の出来るラーメン屋の隠し味は、ヒトの胎盤抽出物だ、 という風な、非常に強い現実感を伴い、私は、こんな類の恐怖感とは、一線を画して考えてしまう。 本書は、物語としては、良く練られているが、一昔も二昔も前の、現実感の少ない恐怖しか、感じなかった。 この内容なら、深夜に自室で一人で読んでいても、何のためらいもなくWCには行ける。 なお、物語の舞台が、必ずしも、病院だという訳ではない。 登場人物が、病院医院で、治療を受ける下りが、あったりする。 切り込みが新鮮な、怪談集として、興味深い。
バランス感覚 恋愛、と言っても不倫であるが、それらと、ビジネスとのバランス感覚が問われている。 この、なかなかリッチな主人公は、不倫に対しても、一定の価値観を構築している。 あまり共感は出来ないが、この価値観の中で、物語が進行するのが、面白い。 帯には、著者の作家デビュー10年目での、新境地と書かれている。 おそらく、これは綺麗事であって、作風を世間のニーズに応じて、変化させたのだと感じる。 もし、そうだとすると、その目論見は、かなりの部分で成功している、と思う。 楽しく、すらすらと読めたし、登場人物達の言葉には、印象的なものも多い。 ただ、希望を言えるとすれば、恋愛問題を重視するよりも、もう少し、企業小説的であって欲しかった。 その方が、サラリーマン受けが良いと思われるし、ネタの幅も広がると思う。 喪失感を伴う、終盤のゴタゴタも、なかなか秀逸。 この様な内容なら、次回作も、発刊されれば、買いたい。
想いの空回り、という観点 十二篇の短編集であるが、全作品とも、外れ無く非常に面白く、本書全体を高く評価したい。 そして、どの作品にも、「空回り」という観点が、大なり小なり入っている。 最初に配されている「めぐりびな」では、古い方の雛に対する想い、 二番目の「球春」では、プロ入りして、芽が出なかった先輩を慕う、後輩野球部員の想い、 三番目の「拝復、ポンカンにて」は、ダイレクトに空回りがテーマになっていて、魅力的なオチまである。 こんな風に、作品全体を、こんな観点から読んでも、味わい深い。 我々が一度は経験した事のある、少年または少女時代の思い出と、重なる部分が多くて、共感出来る。 それらは、それぞれが懸命に生きる姿であるが、ほうっという読後感だ。 本書は、私が最近読んだ数十冊の中でも、ピカ一だ。
無人島に渦巻く自己中心性 女性一人だけを含む、大勢の無人島への漂流者達の生活。 この島は、当初は、世間とは、完全に隔絶されているのかと思えば、そうでは無い。 一人、また一人と、裏切り者が出る毎に、島の状況が一変二変するが、その経緯が、大変面白い。 島の人間の行動に、時に、何とも投げ遣りで、かつ、自己中心性が、良く表れている。 清子然り、ワタナベ然り、ユタカ然りで、利己的目的のために、皆がのたうちまわっている。 そして、島の未来は、どんな風に変化してゆくのか? こんな興味を抱きながら読み進むと、意外な側面が多く、引き込まれる。 著者は、作品を書くにあたって、綿密なプロットは行わず、自由に書き進むタイプだと聞いている。 それなのに、これだけのまとまりを見せる、著者の作品を、下支えするのは、紛れもなく、著者独特の世界観だ。 その世界観は、どちらかと言えば、あまり爽快なものではない。 しかし、逆説的ながら、そこが著者の持ち味であり、読者にとって、楽しみでもある。 結末には、少々肩すかしを食らった感もある。 しかし、この物語は、結末よりも、プロセスが秀逸だ。
おおきにっ。 雨のため、数日間職員寮にこもって、本を読んだりしています。 しかし、もう限界です。 禁断症状です。 これから、カッパを着て、単車で走りまわってきます。 夜だけど。 近畿道から西名阪に入り、とりあえず天理出口から出ます。 ETCカードとガソリンは、万全。 とにかく、行ってきまっす。
納得の結末 本書は、2段組、400ページ近い長編で、たっぷりと楽しめる。 物語の展開は、心理戦あり、実戦ありで、硬軟多彩な内容だが、緊張の連続で、大変面白い。 この主人公は、当初記憶を失っている。 しかし、国家機密文書を持っている、とされている。 この、国家機密文書の内容とは何か?というのは、当初より、薄々想像出来る。 これをめぐって、いくつかの国家が、躍起になるという、インターナショナルな筋書き。 主人公は、傭兵ビジネスマンで、紛争を商売の対象としていたらしい。 さすがに、言動もしたたかだし、身のこなしも鮮やかだ。 このスケールの大きな物語は、意外な結末に収束する。 これで良かった、と感じ、深く納得した。 │<< 前のページへ │一覧 │ 一番上に戻る │ |