中年鉄砲撃ち

先月、16年連れ添ってきた愛猫がなくなった。

妻と結婚した年に、妻の友達から
”近所に子猫が保護されているけど、みにくる？”
と聞いて、見にいったら、骨太の、茶虎のオスの子だった。
何でも、子猫が数匹、溝に落ちていて、親猫が救出できなかった最後の一匹だったらしい。
二人とも、一目で、うちの子にする！！と決めた。

つれて帰っても、ペットフードを受け付けなかったので、白身魚を茹でてたべさせた。
娘が生まれても、いたずらすることなく、娘が泣いているのを教えてくれた。
2人の娘が始めてしゃべった言葉が、彼の名前だった。

彼にとって長女は、まるで兄弟みたいだった。
私が、長女を叱ると、彼はまるで娘を叱るように一緒になって
鳴いていた。
やっと歩いた長女と並んで、窓につかまり立ちして外を見ている事が良くあった。

次女は彼にとって、子供みたいな存在だた。
娘に、どんなにいたずらされても、決して本気で怒ることなく我慢していた。

”いやなら噛んでやれ！！”

私が言っても、本気で怒ることはなかった。
一度だけ、甘噛みして怒っていることを娘に知らしめた時、
娘が泣いてしまい、あわててすまなそうに、部屋のすみで、しょんぼりしている彼を見た。

テーブルの上に大好きな魚があっても、決して上にのったりせず、
近所の方から、置物と間違えられるほど静かに窓辺に座っていた。

そんな彼が、顔面を悪性リンパ腫に犯され、医者からは、半年ぐらいだと言われた。
抗がん剤の副作用にも耐え、再発を繰り返しながら、ガンを克服したかに思えたが、
リンパ腫発症から1年と半年後、鼻が感染症に冒された。、
食事を取れなくなり、水も飲めなくなり、体重は、半分以下に・・

法事で、2日間家を空けるため、動物病院に預かってもらっていた矢先、様態が大変悪いと連絡をうけた。
急いで、病院に行くと、とりあえず家につれて帰って安心させてくださいと言われたので、
息もたえだえの彼を家まで連れて帰った。
そして・・・
家に帰って1時間後、呼吸が荒くなり、痙攣の後・・

深い一呼吸をして、彼の体から、力が抜けた・・

まるで、家に帰るのを待っていたかの様だった・・

最近に無いほど次女も妻も私も泣いた・・
長女は、見るのがつらいと部屋からは出てこなかった。

そして、荼毘に伏して・・

彼の愛用の青い首輪と、牙と爪の骨と、思い出だけが残った。

家族に染み付いた、彼の通り道のために、部屋の入り口を少しあけておく習慣
外出から帰宅すると、無意識に彼を探してしまう習慣

私たち家族は、彼と暮らせて幸せだった。
彼は幸せだったのだろうか？