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紫色の月光

紫色の月光

第十二話「その名はポリスマン・グレート」

第十二話「その名はポリスマン・グレート!」



 狂夜とヒーロー警部(またの名を仮装警部)の睨みあいは続いている。
 二人の体勢は先ほどと全く同じ。
 どちらかが少しでも力を緩めたらその時点でアウトなのだ。

「むん!」

 しかし、此処で何故かどちらからでもなく二人の片足がまるで蟹の歩きのように横に走り始める。しかもテンポが一緒なんだから恐ろしい。

「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!」

「ののののののののののの……!」

 後者のヒーロー警部のこの「の」の連続は一体なんなんだろう、と横で二人のシンクロ蟹さん歩きを見ているエリックは思った。
 因みに、これがヒーロー警部独特の気合の入れ方なのである。勿論、そんな変な事はネルソンしか知らない。
 尚、どっちか加勢しろよ、と突っ込んでくれる親切な人はいなかったりする。

 二人の蟹さん歩きは止まる事を知らない。そのまま横一直線に、まるで新幹線のように突っ込んでいくそれは急ブレーキと言う物を知らないのだ。

 だが、次の瞬間。

 どういうわけかその体勢のまま二人は壁の中に突っ込んでいく。しかも簡単に、音もせずに壁の中に入り込んだのだ。
 しかも奇妙なのは本来なら派手な音をたててぶっ倒れるはずの二人がそのまま『壁の中に消えた』と言う事である。

「キョーヤ!?」

 流石にこの光景を見て黙ってなんかいられない。
 エリックは二人が消えた壁に走ると、軽く手を壁の中へ突っ込ませてみる。
 するとどうであろうか。壁が透けて、簡単に手が向こうに通ったのだ。

「立体映像………なのか?」

 館内でのこの位置は関係者以外の立ち入り禁止区域である。
 その為かここから先は館内の秘密のニオイがぷんぷんする。
 これで突っ込まない奴は泥棒じゃ無いだろう、と思ったエリックは思いっきり向こうに突っ込もうとする。

「おい、一つだけ聞かせろ」

 自らも突っ込もうとした瞬間、エリックは背後にいるネルソンに話し掛けられる。

「なんだよおい。これからダイブしようって時に……」

「先ほど貴様が言っていた『りったいえいぞう』とは何だ?」

「…………………」

 エリックは敢えて無視して立体映像の壁の中に飛び込んだ。

 そう、今のは幻聴なのだ。

 エリックは自分に言い聞かせながら壁を通り抜ける。

「おい、無視するな! 普通なら逮捕してやるところなのに!」

 後ろから何か聞こえてくるが気にしない。何故なら全部エリックにとっては幻聴なのだから。
 因みに、早いところ逮捕しろよとネルソンに突っ込んでくれる親切な人はやっぱりいなかった。




 地下のジョン刑事は信じられない一言を聞いて半ば放心状態だった。
 何故って言われたらそれは竜神館長が兵器と人間を融合させようなんて凄まじい事を言ってくれたからである。

「おや、これから始まる世紀の大実験の前に放心とは………」

「いや、普通は誰でも驚きますよ! 大体なんでこんな事するんですか!?」

「何故とは心外だね。君は見てみたくは無いのかね?」

 やっぱり神経の違いなのだろう。
 今の竜神館長は目からして危険だ。正気じゃ無い。

「あのー、もしかしてその実験にされるのってもしかして……」

 とてつもなく嫌な予感がしたジョンは思い切って竜神館長に聞いてみる。
 すると、彼はさも当然のように答えてくれた。

「当然君だよ。君は調べてみた所、あの超人警察官と比べても身体能力が一般的だからね。この方がいい結果が残せそうだし」

「えええええええええええええええええええええええええええええっ!!!?」

 次の瞬間、今度こそジョンは悲痛な叫びをあげた。最早可哀想レベルでは済まされない。

「では、早速スタートと行こうか」

 竜神館長は手馴れた動作で目の前のボタンを弄る。
 それと同時、ジョンはまるでクレーンゲームの商品のようにクレーンに持ち上げられる。
 そこからの移動先は大きめのフラスコだ。

 軽く人間が三人くらい入りそうな巨大フラスコの中に入れられたジョンは周囲を軽く見回してみる。

 すると、彼は一つの存在に気付いた。

 それは先ほど竜神館長が見せてくれた最終兵器の一つ。リーサル・ナックルである。

 しかも、よくよく見てみるとそれには何本ものわけのわからないコードが繋がっており、そのコードはこちらの巨大フラスコにも繋がっていた。


「あのー、これは一体?」

 巨大フラスコのガラスに手を這わせてジョンが言う。

「何、簡単だよ。そのフラスコの中にいる君とナックルを直接合体させるのさ」

 竜神館長はさらりととてつもない事を言ってきやがった。
 
「まあ、安心した前。君には………そうだね。電流が襲い掛かってくる激痛みたいな物しか感じないはずだから」

「安心できないですよ! つーか出してぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 竜神館長の眩しい笑顔に対してジョンは叫んだ。
 しかし、悲しいけどこれは向こうには伝わらなかった。

「では、すいぃーっち、おぉーん」

 最早ノリノリである。
 それはそれでかなりむかつく光景なのだが、ジョンはそれどころではなかった。

「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 すると次の瞬間、彼の叫びが天に届いたのか、横にある壁から凄まじい轟音が聞こえてくる。
 それは他ならぬ壁の破砕音だ。

 そして壁を破壊したそれは新幹線のようにノンストップで竜神館長に突進してくる。

「ぬ!?」

 竜神館長はその存在に気付くも、時既に遅し。
 彼は自分に向かって来る何かによって軽くぶっ飛ばされた。

 そして、ジョンは見ていた。
 竜神館長をぶっ飛ばしたその正体―――――シンクロして横一直線に蟹さん歩きを行っている狂夜とヒーロー警部(やっぱりまたの名を仮装警部と言う)を、だ。

「…………」

 そしてジョンは思った。
 
 最近、自分の身の回りで起きる事がどんどん非常識になってないかな、と。

「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!」

「ののののののののの……!」

 しかも何かよくわからないが片方が奇声を上げている。
 正直、助けられたのが情けなくなってしまった。

「おお、ジョン! お前は何故そんなところにいる!?」

 すると、そこに彼のよく聞く声、ネルソン警部の声が聞こえてくる。
 そしてネルソンは真っ直ぐにこちらに突っ込んできた。

「ジョン、ショッカーは何処だ!?」

「いや、何を言ってるのですか貴方!?」

 突然聞きなれない単語を聞いたジョンは困惑しながらもツッコミを入れる。

「何を言う。お前を連れ去った奴の事だ」

 それでも真顔で勘違いしてるんだからこの男は凄い。

「いえ、実は竜神館長に捕まってしまって……」

「何だと!?」

 その衝撃的な言葉を聞いたネルソンは思わず後ろで倒れている竜神館長を睨み、

「貴様、ホモだったのか!?」

 さらりととてつもない事を言ってくれた。

「違いますって警部!」

 必死になって否定するジョン。
 このままでは自分がどんな扱いを受けたのかをトンでもない形でネルソンが勝手にイメージしてしまうからだ。いかに勝手な想像とはいえ、それは気分が悪い物である。

 そしてこの光景を見たエリックは思った。

 何でネルソン警部は立体映像を知らなくてこういう変な言葉を知ってるのかな、と。
 そして彼はある結論に辿り着いた。

 それはネルソンがホモなのではないか、と言う事である。
 
 因みに、ネルソンの名誉の為にも言っておくが、彼は断じてホモではない。
 彼はこう見えても妻一筋と言う、凄い人なのだ。詰まる所、奥さんしか好きになれないわけである。例え若い娘が猛アタックを仕掛けてきたとしてもネルソンは妻一筋なのだ。

(ま、そんなわけないか)

 そしてエリックは軽く自身の結論を流した。ここにネルソンの名誉は守られたわけである。

「ぐっ……! くそ、折角の大実験なのに」

 意外に大ダメージを受けた竜神館長は静かに起き上がると、再びコンピュータを操作する。此処までやったのだから何としてでも成功させたいのだ。


 その時である。
 竜神館長は目の前にスイッチがあることに気付いたのだ。
 しかも、このスイッチを押すだけで実験は行われるのだ。このタイミングで目の前にスイッチを見つけるとはなんと言う幸運だろうか。

 しかも、幸いながらネルソンや怪盗は蟹さん歩きでいがみ合っている二人の騒ぎに気を取られてこちらに気を配っていなかった。

 正に絶好のチャンスである。

 竜神館長は力強くスイッチを押す。それこそ自身の指が折れそうなぐらいに。

 次の瞬間、ジョンが入っている巨大フラスコとリーサル・ナックルが光りだす。
 それ他ならぬ実験の合図だ。

「あれは!」

 その光により、エリックはようやくこの部屋に存在する二つの最終兵器の存在に気付いた。なぜそうかとわかるかと言うと、感じる事が出来るからだ。
 それは最終兵器の持ち主にしか分らない感覚なのだ。

 しかし、彼がニックから聞いた話によると最終兵器の数は10。
 そしてその内の8がイシュに奪われていると聞いたことがある。そして、残り二つがエリックのランスにマーティオのサイズなのだ。

 その最終兵器がこの場所にあると言う事は、結論は一つだ。

「あんた、イシュのメンバーなのか!?」

 エリックは竜神館長を睨む。

 しかし次の瞬間、ナックルの隣においてあったアックスが勢いよく飛んでくる。
 その矛先はエリックに向かって飛んでくるが、彼はそれを紙一重で回避する。

「……そうだよ。私はイシュのメンバーナンバー792。そしてこの最終兵器、リーサル・アックスの持ち主でもある」

 竜神館長――――いや、竜神の目つきが一瞬にして変わった。
 簡単に言えば、敵を見る目である。

「残り二つの最終兵器が何者かの手に握られているのは知っていた。オーストラリアでナンバー4735が倒された件でね」

 そのナンバー4735とは他ならぬあのディーゼル・ドラグーンに乗ったピエロの事である。
 
「正直に言うとね、最終兵器はとても恐いんだよ。敵に回ったら、だけどね。だから君達をおびき寄せる餌としてソードを展示したのだが………まさか持ち主が見つかるとはね」

 竜神の手にアックスの柄が納まる。
 それと同時、巨大フラスコが凄まじい発光を始める。

「うわ!?」

 中にいるジョンはあまりの眩しさの為、思わず目を閉じてしまう。

 しかし次の瞬間、ガラスの破砕音が響くと同時、何かが彼の身体を外に押し出した。
 それを行ったのは他ならぬ彼の上司、ネルソンである。

「警部!?」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」

 ジョンと入れ替わりでフラスコの中の光に包まれたネルソンは絶叫を上げる。
 そして次の瞬間、リーサル・ナックルが静かにその場から消え去った。融合が開始されたのである。

「な、何だ!?」

 いがみ合っていた狂夜とヒーロー警部もこの異変に目をやると、まるで閃光弾でも破裂したかのような眩しい光が彼等に襲い掛かる。
 
「私の目的は二つある。一つは残りの最終兵器を破壊、あるいは回収する事。そしてもう一つは人間と最終兵器の融合だ」

「融合!?」

 その脅威の単語にエリックは思わず叫びを上げる。

「そう。最終兵器が持ち主が選ぶと言うのは君も知っているはずだね。そして、我がイシュには8つの最終兵器があるが、実はその中で我々イシュのメンバーを持ち主に選んだ最終兵器は4つしかなかったんだよ」

 ネルソンを包む光が更に強まっていく。眩しくて眼を開けてなんかいられない状況なのだが、それでも竜神は話を止めなかった。

「君も知っての通り、最終兵器には様々な魅力が詰まっている。折角手に入れたのに4つもこれを使えないのは惜しい。そこで我等が指導者が提案したのが人間と最終兵器の融合だった。これが成功しさえすれば最終兵器に選ばれなくても最終兵器の素晴らしい能力を使用する事は十分可能だからね」

 その言葉の終わりを待っていたかのように光がやみだした。
 
「……そして、今此処に結果が出た!」

 その場にいる全員の視線がネルソンに集められる。
 しかし、今の彼の姿は目を疑うような光景だった。

 先ず、何故かヒーロー警部のように奇妙な格好をしていた。

 マスクを装着しており、逞しい筋肉の形が明らかに分るボディー。そして一番目立つのは胸に大きく『正義と愛』と書かれていることだ。


「な、何だあれは……」

 流石に竜神も予想外だったらしく、唖然とした表情でネルソンを見る。
 エリックも、狂夜も、ヒーロー警部も何がどうなっているのかよくわからなかった。

 しかしジョン刑事は知っている。

 この姿は、以前ネルソンがマジな表情をして話していた彼の妄想の塊。

 ポリスマンである。

 何と言っても特徴が殆どそのままなのだ。これをポリスマンと言わずに何をポリスマンと呼べと言うのだ、という感じである。

「………こ、これは……!」

 ようやく我に帰ったネルソンが自分の身体を見る。

「素晴らしい! 正に理想の姿!」

 かなりご満悦のようである。
 彼はフラスコの中で大きくガッツポーズをとると、すぐさまテストにかかる。
 因みに、何のテストなのかと言われたらやはり自身の理想に合うかどうかのパワーになっているかのテストである。

「鉄拳、ネルソンパァァァァァァンチっ!」

 ネルソン必殺の鉄拳が床に繰り出される、と同時。床が大きな音を立てて破壊された。

「げっ!」

 この破壊力を見て顔色が悪くなったのはエリックである。
 何故なら、ただでさえ破壊力抜群の彼の拳が更にパワーアップしたわけなのだから、これから追われるエリックが更にピンチになるわけである。

「うおおおおおおおお!! ジョン、やったぞ! 俺は遂に青少年達のハートを掴む為の正義の味方になれたぞ!」

 ネルソンはこの喜びをジョンに伝える。

「は、はぁ……」

 しかし余りの出来事なので、彼はもはや何がなんなのかわからなくなっていた。
 そんなジョン刑事の代わりにネルソンの喜びを受け取ったのはヒーロー警部だ。

「おめでとう、ナックル警部。これでお前もヒーローの仲間入りだ」

「有難う、ヒーロー警部。しかし、俺はこの姿の時はナックル警部でなければネルソン・サンダーソンでもない。ただの一人の正義の味方、ポリスマンなのだ」

 ネーミングが案外直球だな、とエリックは思った。

 しかし、ここでポリスマンはいや、と自身の言葉に付け足す。

「ポリスマンは俺の想像力の結晶。それならば今からの俺はそれを更に越えて見せる意味で、ポリスマン・グレートを名乗る!」

『グレート!?』

 ヒーロー警部以外の面子が揃って反応した。
 
「よし、ジョン。油性ペンを貸せ」

「え? あ、は、はい」

 ジョンは慌てながら油性ペンを取り出すと、それをポリスマンに手渡す。
 すると、彼は自身の両手の甲に大きく『G』と書き始めた。

 どうやら、グレートの意味らしい。

「よぉし! パワー全快、調子は良好! 明日の天気予報は晴れ! 俺の正義の炎は熱く燃えさかる! 覚悟しろ悪党達!」

 ハイテンションなポリスマンは早速バトルモードに入る。
 
 しかし、ここでエリックは心の中で思った。

(明日の天気予報は関係無くね?)

 しかも、当たるのかそれ。と彼は思ったのだが敢えて口に出さないでおいた。



 続く



 次回予告

 何と、リーサル・ナックルと融合したネルソンは本当にポリスマンに変身してしまった!
 果たして、グレートになった彼の実力は!?
 しかし竜神は此処で最終兵器の真の力を発動させる!
 その圧倒的な力の前に、果たして彼等は無事に生き残れるのか!?

次回『レベルの違い』




第十三話「レベルの違い」


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