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紫色の月光

紫色の月光

第十六話「敗北」

第十六話「敗北」



 マーティオとネオンは慎也の家へと帰ってきていた。しかし彼らの表情はやけに暗い。やはり猛の一件が本人なりに堪えているのだろう。

「さて、ベルセリオン殿。色々とお話願いたい」

 台所の食卓に着いた慎也がマーティオに話し掛ける。そして彼の隣に座っている棗も同様に問うた。

「そうね。先ず私としてはその女の子が誰なのかが凄い気になるんだけど」

 棗の視線の先には先ほどからマーティオの上着を掴んで放さないネオンの姿があった。どうやら落ち着いているらしく、表情は無表情のままだ。

「そうですな。私も先ほどから気になっておりました。ベルセリオン殿、ご説明お願いできますか?」

「いいだろう。こいつは―――――小さい時に狼に拾われて育てられた野生児、ウルフ子と言ってだな」

 其処まで言ったと同時、マーティオはネオンにグーで殴られた。最終兵器と融合したと言うだけあってかなりの威力である。

「………ネオン」

 蹲るマーティオの隣でネオンが神谷親子に自己紹介をする。まあ、これはマーティオが電子事典で勝手につけた名前なのだが。

「そうですか。ウルフ子だったら私が名前を付けている所でしたよ。……ではベルセリオン殿、失礼ですが貴方とこのネオン殿はどのようなご関係で?」

 慎也が聞いてきたと同時、今度は棗も色々と言ってくる。

「そうね、生き別れの兄妹とかじゃなさそうだし……かと言って恋人でもなさそうだし」

「そうだな。ぶっちゃけ、さっき出会ったばかりだ。まあ、瞳の色が同じってだけで懐かれちまったんだがな」

 だが恐らくは彼女と融合したアローがサイズの持ち主であるマーティオに助けを求めてきたと言う方が可能性としては高いだろう。
 生憎、助けにもなれそうにないというのが現状なのだが。

「そうですか……では、お二人はこれからどうするおつもりで?」

 慎也が問う。
 それに答えるのはマーティオだ。

「そうだな。……そろそろ出て行こうかと思う」

 棗はある種の衝撃を覚えた。マーティオは何かの術を会得してから帰るものだと思っていたからである。

「意外ね。あんたはもう少しウチの世話になっているかと思ったのに」

「そうだな。世話になったから早いところ離れるべきだと思ってるんだろう。世話になった恩としてはこれ以上あんた達に迷惑をかけないことくらいしか思い浮かばん」

 それはマーティオなりに精一杯考えた結果だった。

「説明する時間があまり無いが、簡単に言えば俺とコイツは今ある組織に追われている状態だ。……そして、ついさっき見つかっちまった」

「成る程、あの男はその追っ手ですか」

「そうだ。俺たちがこの山に居ると知った以上、奴は遅かれ早かれ此処に来るはずだ」

 そして、非常に情けない話だが自分はあの男と相対しただけで敗北感を味わってしまった。そんな嘗て無い相手に勝てる自信なんてこれっぽっちもないのだ。

「では、貴方達は逃げる、と?」

「悔しいがそうなる。早いところ俺の仲間と合流して守りを固める、それが今出来る最善の策だと思う」

 相手が最終兵器を使ってくるのならこちらも最終兵器で対抗するのが妥当だろう。正に目には目を、歯には歯を、最終兵器には最終兵器を、だ。

「頼りに出来る方は何名ほど?」

「そうだな…………」

 マーティオは簡単に数えてみる。
 やはり兄弟弟子ともいえるエリックと狂夜だろう。そしてもう一人、10年以上一緒に暮らしていながら本名も知らない先輩だ。

「簡単に数えて三人ほどいるが……一人は行方不明。一人も何処に居るか分らない状態だ」

 狂夜の場合は恐らくはそのまま青森で絵を書いているだろう、とマーティオは考えた為、彼は外されている。無論、そんな彼がソードの持ち主になってエリックと行動を共にしているなんてマーティオは知らない。

「先ず、一番頼りになる人物を探したいと思う………何処に居るのかはさっぱりなんだが」

「駄目じゃん、それ」

 棗が痛いところを突いてくる。確かに先輩は心強い存在だが、現在は何処に居るのかさっぱりの状態なのだ。
 何せ、突然霧のように消えてしまったのだから何も分らないのである。

「その方の名前は? 私の知る限りならば情報を与えましょう」

「……恥かしい話だが、十年以上も一緒に暮らしていて名前も知らないのだ。ずっと『先輩』で通してきたわけだからな。更には血液型も年齢も不明だ」

 今にして思えばあの先輩は本当に謎めいている。あまり自分のことを語ろうとはせず、マーティオ達弟分三人の面倒をちゃんと見てくれていたのだ。
 ただ、実の話翔太郎に引き取られた四人は先輩以外も経歴不明な人間ばかりなのだ。
 エリックの場合は両親の事までは覚えているが、そんな詳しい事まで知っていたわけではない。

 マーティオと狂夜に至っては自分が何者なのかは詳しくは知らない。何せ、物心ついたときから翔太郎に育てられていたのだから当然だ。
 ただ、マーティオの場合は親の手がかりと言う物がある。それが山賊が持っていたナイフである。
 柄の部分にドクロマークと刀が刻まれているそれは世界に一つしかない独特のマークなのだ。

「では、その人物にしかない特徴、と言うのはありませんかね?」

 確かに、人間と言う生き物にはその人個人の特徴と言う物がある。マーティオの場合はその青い瞳と長髪、そして鋭い目つきだろう。

「そうだな。先ず、髪の毛の色は赤だ。そして六角形の形をしたピアスをつけている。後は…………赤目に左目の下にホクロがあることかな」

「成る程……はて、赤髪に赤目、そしてホクロ。何処かで見たような……」

 慎也の一言を聞いた瞬間、マーティオが勢いよく身を乗り出してきた。その迫力の前に慎也も棗もネオンも驚くだけである。

「何処だ、何処で見た!? 日本か!? 中国か!? アメリカか!? 月か!? 火星か!? バルタン星か!? アトランティスか!? 王家の墓か!?」

 彼は慎也の上着を掴んでは彼を上下に激しく揺さぶる。と言うか、途中から人間が行ける所ではないような気がする場所もある。

「こら! 父上を放しなさい! そんな事やってたら何時までも話が進展しないでしょう! つーか半分以上ありえない候補を入れるな!」

 棗がマーティオに突っ込みを入れる。それだけで正気に戻った彼は申し訳無さそうに慎也の上着から手を離した。

「いや、申し訳ない。つい興奮してしまった……スペインの闘牛レベルで」

 それはそれでかなり危ない気がする。

「スペイン……ああ、そうです。確かヨーロッパでその人物を見かけましたよ!」

 しかしそのマーティオの発言でようやく慎也は思い出し始めたようである。しかし流石にヨーロッパだけでは漠然としすぎている。出来ればもう少し絞り込みたい所だ。

「慎也殿、申し訳ないのだが出来ればもう少し絞り込めないだろうか? ヨーロッパにはいろんな国がある。流石にそれだけでは……」

 しかし次の瞬間、外から村の女性の悲鳴が聞こえてきた。それと同時にマーティオとネオンは最終兵器の波動を感じ取る。
 何と言う事だろうか。あの男が――――猛がもうこの村に襲いかかってきたのだ。

「ちぃ! もう来たのか!」

 マーティオは舌打ちをすると、椅子から腰を上げる。それと同時に立ち上がったのは慎也だ。彼は真剣な眼差しでマーティオを見る。

「私も参りましょう。この村で暴れるとなれば私も黙ってはいられませんからね」

「………死ぬかもしれないぜ? 多分、奴はあんたが今まで戦ってきた敵よりも強い」

 しかしそれは自分にも言える。あのサイボーグ刑事や宇宙人と比較してもあの男は別格だ。しかも戦っていないのにこの判別が自然とできてしまうのだから尚更だ。

「しかしそれでも私はこの村で暴れる輩を許すわけには行かないのです」

「……いいだろう」

 マーティオはネオンの手を取ってそれを棗に押し付けるかのようにして手渡す。その行為に驚いたネオンは涙目になり、棗は驚きの表情に一変した。

「すまないが、コイツを頼む。奴の狙いが俺とコイツの二人だ。……二人とも捕まるのは何としても避けたい」

 それはマーティオの確かな意思だった。彼は真剣に考えた結果、この行為をしている。それはつまり今から猛と戦い、敗北するかもしれないと言う伝達だった。

「ネオン、もし俺が帰ってこなかったら青森にいる狂夜という男を頼れ。俺の名前を出せば後はソイツが何とかしてくれるはずだ」

 ただ、誤算としてはその狂夜が今はエリックと共に行動し始めたがために青森に居ない事だ。青森で幾ら彼を探そうが見つかるはずが無いのである。
 しかし、そんな事はマーティオは知らない。

「……あんた、良い所あるじゃん」

 不意に、棗がそんなことを言ってきた。
 棗のマーティオに対する印象としてはやっぱり『生意気』だった。そして暗い、性格悪い、馬鹿と酷い物ばっかりだ。

「ほう。ならば訂正しよう」

「人が折角褒めているんだから訂正するなぁ!」

 棗はやっぱり怒鳴った。
 そして彼女は激しく前言撤回した。やっぱりこの男は生意気で暗くて性格悪くて、そして何より馬鹿だと。






 村に辿り着いた猛がやることはとにかく『派手に暴れる』事だった。そうすれば自然とこの村に潜伏していると思われるマーティオとネオンを発見する事なんて容易い。自然と彼らが行動を取ってくれて居場所が掴みやすいからだ。

「……派手にやってくれた見たいじゃねぇか」

 すると、猛の標的の一人がやって来た。
 最終兵器の一つ、リーサル・サイズの持ち主。マーティオ・S・ベルセリオンである。

 彼の視界には猛の他に彼が崩壊させた家々が映しだされている。そしてそれを見て猛に敵意を燃やすのはマーティオの隣に居る慎也だ。

「よくもやってくれましたね………!」

「ふん。貴様に用は無い。俺が用のあるのはそこの青髪の小僧とアローだ」

 詰まる所、最終兵器以外に目が行っていないわけである。それは先ほど大量の影分身で猛に多少の脅威を感じさせた慎也でもそうだ。

「見たところ、俺に向かってくるのは貴様等二人だけのようだな……アローがいないのならば臆するに足らん! 貴様等二人揃ってあの世へと送ってくれる!」

 その言葉から判断する限り、ネオンには猛が恐れるある『物』があると分る。そしてそれがあの時猛が退いた最大の理由だったのだろう。

(ネオンも連れてくれば良かったかな……)

 しかし今更そんな事を言っても仕方が無い。
 今の状況ではマーティオと慎也の二人で猛と戦うしかないわけである。

「慎也殿、ぶっちゃけ言わせて貰うが奴の言っている事はハッタリなんかじゃないぞ」

 それは猛の目を見ていれば分る。
 その自信に満ちた目は嘘なんか一つもつかずに、真っ向から敵とぶつかって倒す男の目である。

「でしょうな……悔しいですが、私はどちらかと言うと怪我人の手当てに回ったほうがお役に立てそうですね」

「そうしてくれ」

 そういうと、マーティオは慎也の前に立った。

「ベルセリオン殿!?」

「悪いが、あんたが居ない方が思いっきりやれそうだ。……巻き添えを食らいたくなかったら、あんたは村の人の救助に回ったほうがいい」

 慎也は拳をぐっと震わせてからこくり、と頷く。

「分りました……では、お任せします」

 そういうと同時、慎也がまるで瞬間移動でもしたかのように一瞬にして消え去った。どうやら本当に手当ての方に回ったようだ。
 しかし、先ほども言っていたがその方がマーティオにとってはやりやすい。何故なら彼の攻撃方法は広範囲にわたるウィザード・ナイフや手榴弾と言った物が多いからだ。これで周囲への迷惑がかからないと言ったら嘘になる。

「ヘイ、白装束野郎。此処じゃお互いに思いっきりやれないだろ? 俺とサイズで相手をしてやる。ここから少しはなれた場所でやろうや」

「ほう、いいだろう。貴様の最終兵器も俺の標的には変わりない」

「よし、じゃあ付いて来い!」

 マーティオが大鎌を持って走り出すと同時、猛も大剣を持って走り出した。その行き先は人一人居ない、正に決闘の場なのだ。





「よし、この辺りならいいだろう」

 マーティオと猛の足が立ち止まる。
 この場所は二人が始めて会った場所に良く似た、木々が周囲を囲んでいる自然の決闘場である。人工物なんて何一つ無い山の中の決闘場だ。

「成る程、では貴様の墓標を立ててやるとしよう」

 猛が呟くように言うと同時、彼は大剣を振るい始める。
 しかし、そんな彼にある物体が急接近してきた。

 手榴弾だ。それも安全ピン抜きの。

「あの時ほうれなかった奴だ。――――遠慮なく喰らえ」

 マーティオは口元を不気味に歪ませると、猛の姿を再び確認する。
 しかし其処で彼が見たのは信じられない光景だった。

「こんな物で俺を止める事が出来ると思うか!?」

 猛は放物線を描きながらこちらに落ちてくる手榴弾を『斬った』のだ。
 しかも、どういうわけか手榴弾は爆発もせずに二つに断たれている。

「な―――――!」

 流石のマーティオもこれには驚いた。それもそのはず、手榴弾が爆発もせずに斬られるなんて予想だにしなかった事なのだ。

 しかし、何故?

 マーティオがぎり、と歯をかみ締めると、彼はあることに気付いた。
 それは先ほど二つに断たれた手榴弾が『石』になったことである。しかも断たれた断面ですら完璧な石となっているのだ。

「見たか、これが俺のリーサル・ブレードのレベル4。――――石化能力だ」

「石化……馬鹿な!」

 確かに最終兵器は恐ろしいまでの非常識兵器だ。それはマーティオだってよく知っている。しかし此処まで来ると流石のマーティオも驚くだけである。

「貴様は見た限りはレベル3までしか扱えないと見た。――――レベル4を使う俺の敵ではない!」

 それは屈辱だった。例えどんな事でもこの男は弱いと言われる事が大嫌いなのだ。だからこそ彼は懸命に強くなる事だけを望んだ。
 しかし目の前に居るこの白装束の男はそれを全て否定しようとしている。それだけは彼にとっては屈辱なのだ。
 自分で勝てない、と分っていても、それでも屈辱なのだ。

「ふざけんなぁっ!」

 サイズの柄が次々と分離していき、無数のナイフと化す。それは白装束で身を覆っている猛に一撃でも命中すればたちまち彼を血まみれにする凶器に他ならない。

「レベル2か。―――――ふ」

 しかし猛はこの無数のナイフの前にたじろぐ様子も無ければ恐怖する事も無い。何故なら、あれはまだ彼の脅威ではないからだ。

「分離しろ、ブレードよ!」

 猛は両手でがっしりとブレードの柄を掴む。
 と、同時。一つの大剣が一瞬にして二つの刃と化した。二刀流である。

「散れ! ウィザードナイフ!」

 マーティオの一言で無数のナイフの群れは問答無用で猛へと突進していく。止まる事を知らないそれは障害物である木を次々と切刻みながらも標的へと突き進んでいく。まるで暴走車だ。

「そんな物、俺の前では子供騙しに過ぎん!」

 猛が言い放つと同時、彼は両手に持つ刃で次々と襲い掛かってくるナイフを弾いていく。弾かれてたナイフは大地へと落ちていく。
 しかしマーティオはそのまま彼らを休ませる気は全く無かった。

「囲い込め! 360度で切刻んでしまえ!」

 その手がまるでオーケストラを纏める指揮者のように動くと同時、ナイフの群れは次々と浮遊しては猛を囲い込む。一言で言えばナイフでドームを作り出したのだ。

「散れ!」

 マーティオが上げていた右手を振り下ろすと同時、猛を囲い込んでいたナイフの群れは一斉に彼に襲い掛かってくる。
 だが、それでも猛はそれを脅威と感じなかった。

「俺の前では子供騙しと言っただろうがぁっ!」

 猛はまるで獅子のように吼える。
 すると同時、彼は360度で襲い掛かってくるナイフを次々と弾いていった。まるで背中に目でもついているかのように360度の攻撃をかわしていく彼の姿は正に一つの芸術である。

「ちぃ!」

 マーティオの手にサイズが戻っていく。それは一瞬にして元の大鎌に戻っていき、先ほどまでのナイフの姿は微塵も感じられない。

「………」

 サイズを構えたマーティオは猛を睨みながら思った。
 この男、確かに強い、と。
 それも冗談にならないレベルだ。あそこまで見事に360度の攻撃を防がれてはもうウィザード・ナイフは使えない。

「なら、コイツでどうだ!」

 マーティオは大鎌の曲刃に親指を押し付ける。それと同時に曲刃に塗られたのは彼の血液だ。真っ赤な液体をその矛に塗られた大鎌は、マーティオによって大地に突き刺される。

「コーリング! 最終兵器サイズ、降臨せよ!」

 その叫びに応じるかのようにしてサイズが突き刺さった大地に直径10m程の魔法陣が出現する。それは他ならぬ最終兵器のレベル3が発動した事を意味するものだ。

 魔法陣から漆黒の鉄巨人が出現した。右手に大鎌を持ったその姿は何処と無く死神をイメージさせる。
 そんな黒の巨人のコクピットの中にマーティオはいた。これを発動させるのは初めてだが、エリックから聞いた話で大体の操縦方法は掴んでいる。
 そしてコクピットの中にいる彼は大地を見下ろす。その先に居る人物はただ一人、ブレードを持つ猛だ。

「これなら、どうだ!」

 マーティオが足を浮かせたと同時、サイズも足を浮かせる。しかし数秒としない内にそれは一気に降ろされる。踏みつけと言う物だ。
 確かにこれをマトモに喰らえば生身である猛は一撃でペチャンコだ。それこそ最終兵器を持っていようが無かろうが同じである。

 しかし、

「ブレードよ。レベルの違いを見せてやれ」

 猛の持つ最終兵器の刃が不気味に光りだす。それは最終兵器のレベル4発動を意味するものだ。

 しかし次の瞬間。サイズの巨大な足が猛に襲い掛かってきた。だが、もう逃げられない距離にまで迫ってきたそれを前にして、彼は全く動じない。
 何故なら、やはりそれも猛の脅威ではないからだ。

 猛はブレードを構えて防御体勢に入る。だがそれでも同じ事だ。どちらにせよ、この巨大な足による踏み付けを避けることはできない。

 次の瞬間、激しい轟音と共にサイズの足が大地に叩きつけられた。

「――――――何!?」

 完全に勝利を確信していたマーティオ。しかしそんな彼の目に信じられない光景が飛び込んできた。

 猛がブレードの刃でサイズの足を受け止めているのである。しかも涼しい顔で、何事も無かったかのように。

「レベル4を甘く見たな。レベル3如き、敵ではないんだよ!」

 そう言うと同時、猛がブレードの能力を発動させる。その刃から放たれた光はあっという間にマーティオとサイズを包み込んでいき、サイズの――――マーティオの足を凄まじいスピードで石化していく。

「ぐ……あ、あああああ……!」

 痛いと思えるほどの冷たい感覚がマーティオに襲い掛かる。それは足から背中に、腹に、胸にと広がっていく。

 しかし次の瞬間、サイズはまるでマーティオを助けるかのようにして元の大鎌に戻った。
 どさり、と大地に倒れこむマーティオ。
 一瞬で石化から逃れたマーティオは、しかしそれでも精神的にも肉体的にも大きなダメージを受けていた。 

「くっ……!」

 先ほどまで石化した身体に激し痛みが残る中、マーティオは見た。
 ブレードを持つ猛がゆっくりとこちらに向かってくるのを、だ。

「この戦いにもそろそろ飽きた。遠慮なくトドメを刺させてもらおうか」

 猛がブレードを振りかざす。それはまるで処刑を行うギロチンのようだ。そしてそのギロチンによって首を叩ききられようとしているマーティオは身動きが取れない。このままでは確実に首をぶった切られてアウトだ。

「死ね!」

 猛がブレードを振り下ろす。それは真っ直ぐにマーティオの首に向かっていき、途中で方向転換する気配が無い。

 だが、次の瞬間。何処からか光の矢が猛の顔面目掛けて飛んで来る。
 その存在に気付いた猛はマーティオの首を切る寸前で跳躍する。それと同時、先ほどまで猛が居た位置を光の矢が貫通した。1秒でも行動が遅れていたら―――――マーティオの首を断ってから行動していたら間違いなく射抜かれていただろう。

「これは……アローか!?」

 猛が言ったと同時、茂みの中からネオンが姿を現した。彼女の右腕には光で構成された弓矢が装着されており、弦を引くだけで矢を発射できるようになっていた。しかしそれでもやはり恐いのだろう。彼女は震えながら矢を構えているのだ。

「悪いけど、彼女だけではありませんよ」

 すると、ネオンの背後から次々と手裏剣やクナイが猛目掛けて飛んできた。猛はそれらを一瞬で回避すると、声の主を睨む。

「また貴様か……!」

 其処に居たのは慎也であった。彼は不敵に笑うと同時、いえ、と呟く。

「私だけではありません。満足に動ける村の者全員です」

 慎也の言葉が発せられたと同時、周囲の木々や茂みの中から次々と武装した村の人間が飛び出してくる。その数は20だ。

「成る程、アローとこれだけの人数では少々分が悪い。ここは貰う物を貰って撤退させてもらうとしよう」

 そういうと、猛は左手を天に向ける。

「聞いているか、青髪の小僧! 敗北者にサイズは似合わん! よって、その大鎌はこの俺が貰い受ける!」

 猛が吼えたと同時、彼の左手に一瞬にしてサイズが納まる。それと同時、猛の身が突然光り始めた。

「小僧、サイズを取り戻したいのなら自分で奪い返してみろ!」

 それだけ言うと、猛は一瞬にしてその場から消え去った。まるで初めからその場にいなかったかのように。

「…………」

 そしてマーティオは大地に倒れたまま、サイズの感触が残っている右拳を強く握り締めた。わなわなと震えながらも、何も言う事の出来ないマーティオの精一杯の怒りの感情表現である。

(畜生! 畜生! 畜生! ちくしょおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!)

 完全な敗北。
 それに対してマーティオは自分への激しい怒りを抑える事が出来ずに居た。



 続く



 次回予告


 エリックと狂夜はある人物が中国に居ると聞いてひっそりとその人物に会いに行く事に。
 しかし中国に向かう飛行機がハイジャックにあってしまい、しかも時限爆弾なんか仕掛けられちゃってもう大変!
 しかも何故か同じ飛行機に乗っていたネルソンも黙って入られるはずが無くって………!

次回『大パニックな空の旅』



第十七話 前編へ


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