360934 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

紫色の月光

紫色の月光

第四十話「別れの時」

第四十話「別れの時」



 マーティオが得た手がかりを元に、エリックとフェイトの二人がアメリカの地で走り回ること早2ヶ月。
 協力者であるDrピートはそんな二人のやり取りに半ば呆れつつも、無言のうちに放つオーラに気圧されつつ話しかける。

「ど、どうだい二人とも? 問題の『動力源』の在り処は分かったかい?」

「ああ、分かった」

 すると、何とも予想の斜め上を行く返事が返ってきた。
 てっきりこの二人は場所が分からなくて色々と動き回っていたのだと思っていたのだが、どうやらその激しすぎる運動をさせている原因は他にあるようだ。

「問題はその『場所』なんだよなぁ……」

「うむ、正しく我々のグレイトな大仕事と言えるだろうな。ここから動力源を盗むのは……」

 悩ましい、とでも言わんばかりに頭を抱え込むエリックとフェイト。
 一体何処に動力源があるのだ、と思って情報を纏めたA4サイズの紙を手に取り、その内容を黙読する。

「……マガンダン家、だと?」

 マガンダン家。
 確か、エリックとマーティオが過去に女泥棒二人組みと盗み勝負をした際に進入したバンガードのカラクリ屋敷。
 オーストラリアの屋敷に保管されていた宝石『オアシス』は結局はエリックたちに盗まれた訳だが、ソレに続くようにして世界各地にあるバンガードの屋敷から次々とお宝を手に入れていった人物がいる。

 それが、

「マガンダン家……正確に言えば、たった一人の女の子だな」

 お宝ハンター、マラミッグ・マガンダン。
 先程エリックが呟いたように、年齢は僅か14歳の少女である。
 外見も可愛らしい少女そのものであり、若いくせに高い実績もある為、ファンクラブまで存在している始末である。
 因みに。オッドヘアーのツインテールで知られてることから、ファンクラブからは『オッド閣下』と呼ばれているらしい。何で閣下なのかは不明だが、そのファンなりの敬意なのだろう。

「職業としては泥棒とお宝ハンターって違いがあるが、純粋にお宝を求めている、と言う意味では俺と同じ人種さ。違うのは、性別と年齢と趣味と警官に追われているか否か、ってとこだけだ」

「随分と多くあるように聞こえるよそれは」

 エリックとの違いは置いといて、確かに厄介な相手だ。
 問題の動力源も、見た目は『ただの綺麗な宝石』にしか見えない訳だから更に困った物である。どう考えても話し合いで渡してくれるような相手ではないだろう。

「お宝ハンターとまで呼ばれる彼女が、わざわざ金を払ってまでグレイトに入手した代物だ。普通にやって入手できると考えては、グレイトに失敗するのがオチだろうね」

「まあ、俺の本職忘れてもらったら困るんだけどね?」

 エリックが半目でフェイトを見る。
 最近は色んなことがあった為、どうにもフェイトは彼が泥棒である、と言う認識が薄いようである。

「だが、あのバンガードの屋敷からお宝を入手した美少女ハンターさんの家からお宝を盗むってのも、燃える展開だぜぇ……!」

 エリックは常にチャレンジャー精神の塊である。
 今まで数え切れないほどのお宝をマジックハンドのように奪っていった両手を軽く動かすと、気合を入れるようにして胸を張り出す。

「犯行予告状も既に出してきた……さあ、どう出るハンターさん?」






 後日、犯行の下調べの意も含めてマラミッグ家の玄関前を通ってみたエリックたち三人は、唖然とした表情をしていた。
 何故かと言えば、まるで蟻のようにわらわらとマラミッグ家に広がる警官の群れがそこにあったからである。

 しかも更に唖然とさせるのはその面子構成。

 エリックを追い続けるネルソンとジョンの何時ものコンビ。
 色物警官集団である四天王のサイボーグ刑事、ヒーロー警部、エレガント警部にパンプキン警部。
 更には警官と言うよりは特殊部隊としか言いようがなかったサンディを初めとするメイド軍団。

 因みに、びびあんことダルタニアン・ニコレーはいなかった。

「何だこの豪華すぎる面子構成……」

 彼等とはいずれも交戦したことがあるが、いずれも碌な目に会わないことが分かっている。出来たとしても、精々逃げることだけだろう。
 そんな奴等が、この場にズラッと勢揃い。

「……これは流石に、我々もグレイトに対策を練らないとならんぞ。普段考えている以上に、な」

 フェイトの言葉に思わず全力で首を縦に振るエリック。
 普段はネルソンだけで苦労して、サンディで三倍疲れるというのに、それすら遥かに上回る警官軍団。

 流石の天下の大怪盗を自負するエリックも、このままでは駄目だ、と思い始めた。

「こうなったら、全面戦争の勢いで正面から殴りこむしかないな……」

「いやいや、何だいその不良学校の紛争みたいな展開は」

 Drピートも思わず突っ込みを入れてしまう。
 だが、流石の未来人代表である彼も、今回は役に立ちそうに無い。そもそもにして、彼がこの場にいる理由はアルイーターの宇宙船を、以前彼が作り出した海の怪物『リヴァイアサン』でサルベージするためである。
 サウザーがいない今、リヴァイアサンのコントロール権は完全に彼の物となっており、彼が命じればどんな可能な事でもしてくれるのだ。
 しかし、流石の海の怪物と言えど、敵地が陸地ではどうしようもない。
 と言うか、下手をすればネルソンに退治される予感がする。

「うーん、なんかねーかな。あの最悪な警官軍団に立ち向かう手段」

 エリックは腕を組んで悩むと、まるで電球が頭の上で点滅したかのような閃きが浮かんだ。この間、約10秒ほどである。

「アルイーターだ! 少なくともあいつがいれば、鉄砲は心配いらねー! 四天王とも十分に渡り合える人材だぜ!」

 成る程、とフェイトは納得する。
 確かにアルイーターはエルウィーラー星でも優秀な戦闘能力を持っており、鉄砲の雨嵐の中でも平気でその場に佇んでいられる男だ。参加させても損は無いだろう。

 ただ、この時アルイーターは既に団長軍団に取り入れられているのだが、その事実は未だにエリックたちは知らない。
 と言うか、拒否権すら既に与えられていなかったりする辺り、少し悲しい。

「後もう一人……マーティオたちは無理だとしても、『奴』がいればかなりいい感じになるはずなんだが……!」

 エリックの頭の中に浮かぶのは、このアメリカの地で一時期だけ供に戦った『最終兵器』の男の姿。
 恐らくは何処かにいると思うが、本人が『もう二度と会うことはない』と言ったことを思い出すと、がっくりと肩を落とす。

「エリック、『奴』とは何者だ?」

 フェイトが半目でエリックに尋ねると、彼はその人物のついて話し出す。

「前にも話した、量産型最終兵器――――俗に言うリーサル・ヒューマノイドって奴だな。今何処にいるのかは分からないけど、味方にくればかなりの戦力になる」

「ソイツの特徴は?」

「そうだな……外見は東洋系、少し長めの黒髪を後ろにまとめてて、ジージャンと黒ズボンをはいてる。あ、そういえば十字架のネックレスなんて洒落たモンもぶら下げてたな」

 そんなに昔の事でもなく、尚且つ過去に出会った様々な者の中でも特に印象に残った男だった為か、外見の特徴がぽんぽんと音が出るようにして口から飛び出していく。

「もしや、その男とは」

 すると、フェイトがマラミッグ家の庭――――正確には其処に植えてある巨大な木を指差した。

「あそこで木登りしている不審者のことか?」

「は?」

 指差す方向を見てみると、其処には先程の特徴が全て一致している最終兵器。
 何故か木登りをしてマラミッグ家を睨んでいる男、神鷹・カイトの姿があった。







「で、何してんだお前?」

 エリックが半目でカイトに問うと、木登りをやめてこちらに合流したカイトは無愛想な顔をしてから口を開いた。

「妹を救出しに来た」

「何?」

 この男の妹と言えば、以前アメリカで対峙した殺人ヨーヨー使いの車椅子電撃女。
 普段は優しく、微笑を絶やさない車椅子の少女。アウラ・エルザハーグである。
 しかし、彼女の恐ろしさを身をもって経験しているエリックは思わず疑問符をつけてしまう。

「あの殺人ヨーヨーがマラミッグ家に捕まったってのか?」

「あの時は変な男に操られた結果だ。そうでなければ、ただの車椅子に座った女の子なんだ。――――多分」

 多分って何だ。

 そう問いただそうとしたエリックだったが、この兄妹も色々とあったのだ。他人が首を突っ込む余地のない問題があるに違いないだろう。
 勝手に自己解釈したエリックは、うんうんと頷いてからカイトにもう一つの本題について話す。

「で、何でそんな普通の車椅子の女の子がマラミッグ家に?」

 正直、まるで接点が思い浮かばない。
 アウラの普段の人格からしても、恨みを持たれるような女性ではないと思う。

「実は、アウラとマラミッグは以前同じ病院で入院していた過去がある」

「え? そーなん?」

「ああ、アメリカのバンガードのカラクリ屋敷に挑んだ際、大怪我を負ったらしくてな。その際、妹と同室で入院。話も弾み、今ではお友達って仲だ」

「だとしたら、君の妹はグレイトに友人宅に遊びに行っただけなのではないのかい?」

 フェイトから当然過ぎる質問が発せられた直後、カイトの身体からどす黒いオーラが溢れ始める。
 気のせいか、彼を中心にして世界が歪み始めたような気がした。

「ただ遊びに行っただけなら確かに俺も来なかっただろう……だが、見ろ!」

 カイトがマラミッグ家を指差すと、そこには常識の範囲内では信じられない光景が存在していた。

 この豪邸に集まった警官!
 そしてパトカー群れ!
 仮装大会をしているかのような特殊警官!
 そして武装したメイドたち!

「アレを見て心配するな、と言えるかお前等!?」

 握り拳を作ってから力説するカイト。
 その瞳は嘗て『ハゲタカ』と呼ばれたことがあるだけあって、まさしく本能に従うハゲタカのソレにしか見えなかった。

「……まあ、確かに心配だよな。こんなに一杯警官がいれば」

 実際はエリックたちが犯行予告なんて出したもんだから、それに対応して警官が何時も以上の気合を入れて来た訳なのだが、そんな事を知らないカイトはある仮説を立てていた。

「俺の予想が正しければ……マラミッグの手に入れたお宝狙いで、恐らくは俺たちの想像以上の超凶悪犯が中に立てこもっているに違いない。この豪華すぎる警官どもを見れば、敵の戦力はそれほどまでに強大である、と言えるだろう」

 そこまで評価してもらえると、内心嬉しいと言えば嬉しいのだが、ちょっと複雑である。

「敵の武器……これほど豪華な警官軍団が待機していると言うことは、化学兵器でも持ち込んでいるのかもしれん。もしくは増援がディーゼル・ドラグーンでも持ってくるか? いや、下手をすれば国の戦争に発展すると言う、裏の奥深い事情が――」

 だが過大評価されても困る。
 と言うか、脳内仮説が発展しすぎだ。

「いかん、こうしてはいられん!」

 自分で仮説の世界を膨らませたためか、カイトの顔色に焦りの色が伺えた。

 今この場でカノンに続くようにアウラまで失ったら、あの世にいるカノンに顔向け出来ない。

 そう判断した兄の行動は迅速だった。いや、正確には迅速『すぎた』。

 流石にエリックが事情を話すべきだ、と思って今回の事態を説明しようとした瞬間、カイトは人間を遥かに飛び越えた跳躍力で門を一気に飛び越え、敷地内に着地。

 すると、周囲の警官たちの目も気にしないで巨大なマラミッグ家へと突撃を仕掛ける。

「…………シスコンという物なのか、あれは?」

 この光景を見たDrピートが呟くが、エリックは静かに首を横に振った。

「いや、流石に弟が死んだ分、神経質になってるんだろ。もしくは、アウラとの間に何かあったってトコだろうな」

 だがカイト。お前は一つ忘れてないか? 重要すぎることを。

 エリックは溜息をついてからそう呟くと、思わず叫んでいた。

「お前指名手配犯だろうがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 神鷹・カイト。
 
 指名手配犯『ハゲタカ』の名で有名な彼は、この数ヶ月何も法に触ることはしていなかったのだが、流石に警官に顔は知られている。
 故に、この警官たちの中に突撃していくと言うことは、敵軍の中に一人で突撃して行った事に等しいのである。
 
 そして案の定敷地内から次々と響いてくる警官たちの声。銃声。悲鳴。咆哮。
 
 正しく敷地内が戦場と化した瞬間だった。

「ええい、あの馬鹿!」

 そういうとエリックはどこに隠し持っていたのか怪盗シェルの仮面を顔に装着。
 軽い身のこなしで敷地内に入り込むと、フェイトとDrピートの二人に向けて言う。

「先輩、アルイーターに連絡を入れておいてくれ! Drピートは早めにサルベージを頼む! ここは戦場と化している!」

「OKだエリック。グレイトに健闘を祈る!」

 そういうと、フェイトとDrピートは親指を立ててからそれぞれの行動に移る。
 ソレを見届けた後、エリックもカイトの後を追うべく敷地内に飛び込むのだが、

「怪盗シェル発見! 予告状より早いが、逮捕しろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 誰かも知らない警官にいきなり見つかり、そのまま流されるようにして追いかけっこ状態になってしまったのだった。
 しかも、その先頭を切るのは、

「見つけましたわ、怪盗シェル様!」

 警官でありながらエリックのファンであるメイド巡査ことサンディの姿がある。
 それに続くようにして、どう見ても特殊部隊にしか見えないメイド軍団が怒涛の勢いと気迫でエリックを追いかけてくる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!? いきなりこいつ等かあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」

 エリックとしてはかなり苦手な部類に入る為(特にサンディは苦手だった)、出来れば回り道をして彼女等の担当ルートから離れようと思っていたのだが、カイトの突撃と名も無い警官との鉢合わせで完全に脳内予定の歯車が狂ってしまった。
 
「さあ、シェル様。今日こそ私が逮捕して、幸せな新婚生活を!」

「いや、あんた相変わらず話進みすぎだろ!? と言うか出来れば当時のお話は忘れてもらえませんかお願いですホントにー!」

 サンディは外見で言うと完全に完璧といえそうな美女で、大抵の男ならウィンクするだけでイチコロなのだが、生憎エリックは二次元に生きる男だった。
 心の中に何時までも存在し、尚且つ自分を裏切らない自身の妄想の塊である『マイスィートハニー』なる存在まである程である。

 相当重症だった。

「だが、心の『萌』の字に誓って、俺はメイドさんは傷つけることはできん! 何故ならメイドさんもまた、この世界が作り出した一つの『美』だからだ!」

 追いかけられながらもそんな事を言うエリック。
 兎に角、彼だって男の子なのだ。貫きたい意地は最後まで貫こうとする物である。
 例えそれがどんな物でアレ、だ。

「さらばメイドたち! 三次元のメイドは守備範囲外だが、二次元のメイドさんに免じてお前等とは争わんぞ俺は!」

 そういうと、エリックは右手にランスを出現させ、その能力で一気に飛翔。
 メイドたちを一気に引き離し、そのままマラミッグ家の屋上へと上がっていった。

「シェル様! あなたにこの身体の疼きを慰めてもらえるのなら、私は二次元にだってなって見せますわああああああああああっ!!!」

「いいから屋上に行くわよサンディ! グズグズしない!」

 涙を浮かべつつエリックの背中を見続けた彼女は、同僚の手により呆気なくその姿を見失ってしまうのだった。







(さて、これからやる事は二つだ)

 屋上から侵入したエリックは心の中で呟くと、その二つの内容を確認する。

(一つは動力源……アルイーターの宇宙船稼動にはどうしても必要だから、出来ればこっち優先だな)

 問題はもう一つ。
 突撃した後、何処に突っ込んでいったのか分からないハゲタカ兄貴である。

(でも、今あいつに誤解だって言ったら、俺が逆に殺されそうな予感するんだよなー……何気に量産型最終兵器だけあって、基本戦闘能力はこの前のカノン戦を見た限りだとスピードは警部を上回ってたし)

 そういえば、とエリックは思いつき、一旦足を止めて周囲を見渡してみる。

「もしかして家の中に警官がいない理由って、あいつが全員引き付けてるからか?」








 マラミッグ家で最も広い空間が一階の玄関である。
 一々無駄に豪華な飾り付けが施されており、綺麗な絨毯が幾つも敷かれている。恐ろしく思えるくらいにピカピカで、ゴキブリでも出てきたら一発で見付かってしまいそうなほどに輝いている場所だ。

 故に、カイトの様な不法侵入者が見つかるのは、時間の問題だったのである。

「警官ども、貴様等が俺の邪魔をするというのなら!」

 だが、見つかって警官に囲まれた状態でもこの男の闘志は消えなかった。
 寧ろ更に燃え上がった感じさえする。
 
「正面から全員粉砕してくれる!」

 武器は無い。
 強いてあげるなら、自身の拳と蹴り技と言った肉体関連の物だ。

 だがそれだけあれば十分だ。

 否、寧ろこんな雑魚相手では素手でも勿体無いと思おう。
 でなければ、

「この先にいる『敵』に対し、油断が出来る!」

 この男の脳内では、今正に全身黒尽くめの男たちがマラミッグとアウラを人質にとり、危険な武器を突きつけているという、アクション映画お決まりの展開が繰り広がられていた。
 そしてその人質になっている妹は、涙目になりながら呟くのだ。

『カイト兄さんの馬鹿……』


「………………」

 自分で想像しておいてなんだが、何か泣けてきた。
 そもそもにして事の発端は妹との喧嘩から始まったのだった。

 だが、この喧嘩は自分にとって、例え妹でも譲れないのだ。
 
 故に、もし彼女が最後まで自分を拒むと言うのなら、

(今日が最後の機会になるな……)

 カノンという兄を失い、その一件で責任を強く感じたアウラは強く生きようと決意し、そして自分はそれを支えてきた。
 だがそれも『カイト』と言う支え柱があったからこそ。

 何時までも自分に依存する形では、いけない。
 死んだカノンのことを思うと、思わずそう思ってしまう。

 それに、自分は何時までも『此処』にいられない。
 
 だから、

「時間が惜しいんだ……」

 迫る警官を蹴りの一撃で調理室の扉ごと吹っ飛ばしたカイトは、自分を囲む警官たちに対し、手招きをしてみせる。

「次々とかかって来い! 誰だろうがぶっ潰してやる!」

 その鬼気迫る迫力を感じ取ったのか、警官たちは動けない。
 まるで蛇に睨まれた蛙のような状態になってしまい、動きたくても恐怖が率先して動けなくさせてしまうのだ。
 
 自分たちは銃を持っていて、相手は素手なのにも関わらずに、だ。

「ほう、面白い。なら俺が相手になってやる」

 だが、そんな警官たちの渦の中心にやって来る男がいた。
 彼はカイトの威圧に怯まずにいた数少ない警官の一人で、『サイボーグ刑事』と呼ばれている男でもある。

「嘗てネルソンにエレガント警部、そしてパンプキン警部ですら逮捕できなかったと言うアメリカ犯罪者のSSクラス要注意人物『ハゲタカ』。このサイボーグ刑事が相手になってやる」

 外見がロボコップとしか言いようがない程に全身機械のサイボーグ刑事だが、それゆえに彼には勝算があった。

 ハゲタカといえど、素手でサイボーグ化されたこの鋼鉄の身体は傷つけられないだろう、という計算である。

「上等だ」

 目の前にいる犯罪者が呟くと同時、何の前触れも無く突然その姿を『消した』。
 それは余りにも突然すぎることで、サイボーグ刑事を含めた周囲の警官たちは、思わず目を擦ってしまう。

 だが、その直後。

「どうなっても知らないぞ」

 真下から恐ろしいほど冷え切った言葉を浴びせられる。
 まるで絶対零度のように凍えきったその言葉に反応するサイボーグ刑事だったが、気付いた時にはすでに『ハゲタカ』の餌食になっている。

 それは下から上に切り上げるようにして繰り出されたただの『手刀』。
 だが、その切れ味は最早通常の人間のソレとは別次元の切れ味を誇っている。

「え――――――?」

 突然、サイボーグ刑事の胴体が『分断』される。
 鋭利な刃物か何かで切裂かれたようで、一瞬にして機能停止に陥ってしまったのだ。

「ひっ……!」

「ば、化物だ!」

 手刀のみでサイボーグ刑事の銃弾すら弾く鋼鉄の身体を真っ二つにしてしまったその存在を見て、誰が驚かないだろうか。
 そして誰が恐怖しないだろうか。次に『アレ』を受ければ、『痛い』じゃすまないくらいに綺麗にスライドされてしまう。
 逆に言えば、サイボーグ刑事だからこそ機能停止程度で、後で修理すれば直るのだが、普通の人間が受ければ胴体真っ二つで『修復』なんて不可能だ。
 
 気付けばその光景のみで周囲の警官たちは殆ど戦意喪失、ただ唖然としてその場に立ち尽くすだけの木偶の坊と化していた。

「成る程、エレガントな程に鍛え上げているようだね。結構だ」

 そんな冷め切った空気の中、突然上品な笑い声が響いてきた。
 何事かと思って声のする方向に顔を向けてみれば、そこには嘗てアメリカの刑務所に現れたジェントルマンがいるではないか。

「サイボーグ刑事は目の前の常識に囚われてしまう傾向があるようだが、私は違うよ。全力で君を逮捕させてもらおう。我々四天王の意地に賭けてね!」

「その通り。悪に対し、ヒーローの鉄槌は下されるのだ!」

 すると、エレガント警部の横に突如として何処かの特撮ヒーロー物の格好をした仮装男が姿を現す。
 更にその横には、でっかいカボチャを頭に被った上半身剥き出しの半裸マッチョの男までいるではないか。

「だが、巨大な悪に対抗するためには多人数での攻略も止むを得まい!」

「覚悟せよハゲタカ! 貴様がどのような目的があってここに着たかは知らないが、我々の前に出てくるとはいい度胸だ!」

 パンプキン警部が叫ぶと同時、三人の特殊な男たちは他の警官たちを押しのけるようにしてカイトの正面に立つ。

「さあ、かかって来い! 警官四天王を嘗めるなよ!」

 中央に立つヒーロー警部がカイトを指で指すと、彼は自分の膨らみすぎた仮説に違和感を感じつつも、苦笑した。

「上等っ……!」

 神鷹・カイト。
 彼は基本的に目の前にある障害が高ければ高いほど燃える男だった。

 だが、同時に思う。
 
 お前、状況考えてないだろ、と。






後編へ


© Rakuten Group, Inc.