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紫色の月光

紫色の月光

第十一話「クリスタル・ナイト」

第十一話「クリスタル・ナイト」



 連邦軍カナダ基地。
 この近くの上空に、まるで水晶のように透き通ったブルーの機体がいる。

 その機体のコクピットの中に、連邦軍大尉、ゼッペル・アウルノートはいた。
 彼はアンチジーンナンバー1として脅威的な戦闘力を身につけており、その強さは他のアンチジーンに比べても圧倒的である。

 文字通り、ナンバー1なのだ。

 そしてゼッペルは此処でもう一人のナンバー1が来るのを待っていた。

「………」

 彼はコクピットの中で腕を組みながらカイトが来るのを待つ。

 指定した時間まで残り5時間もあるのだが、それでも彼はカイトが来るのを待っていた。

 すると次の瞬間。彼の黄金の瞳がかっ、と目を開いた。
 その視線の先に居るのは見間違える事の無い漆黒の機体、ダーインスレイヴ・ダークネスだ。

「待たせたようだな」

 通信でゼッペルの耳にカイトの声が聞こえる。
 するとゼッペルはいや、と言ってから、

「私が早く用意してしまっただけだ……気にする事はない」

 五時間も前に来るカイトもかなりの物だが、それよりも速く準備して待っているゼッペルもある意味ではかなり律儀だ。

「では、本人であると証明してやる。俺の名前はカイト・シンヨウ。能力は再生能力と電撃能力だ」

 ダーインスレイヴはシステムXを起動させると、レオナルド達の時と同じように放電能力を発動させて見せる。

 するとゼッペルは、

「分った、もういい。システムXは解除するといい」

「何?」

「システムXは身体に悪い。それに自身の能力を無駄に使うとそれこそ寿命が減る事になる」

 確かにそのとおりだ。

 ジーンと人間の一番の違いは心臓部にある。
 ジーンの心臓にはコアと呼ばれる六角形の金属の塊の様なものが使用されており、これがジーンの能力を発動させる元となっている。
 
 しかしそれはジーンの生命エネルギーをほんの僅か削る事を代償とする。

 その為、15年も戦い続けたカイトは若くして後3年しか生きられない身体となってしまったのだ。正に『塵も積もれば山となる』だ。

 しかしカイトは思う。
 何故ゼッペルは敵である自分の体のことを言うのか、と。

 疑問に思っていると、ゼッペルは自然体で答える。

「私は、君と一対一で勝負がしたいのだ。ジーンとアンチジーン、連邦なぞ関係なく、ただ純粋に君と決闘がしたい」

 カイトは未だ嘗てこんな男を見たことが無かった。
 似たような奴なら何人かいたが、自身の立場を無視してまで自分と決闘したいと言い出す奴はこれが初めてである。

「では私の自己紹介と行こう。名は、ゼッペル・アウルノート。能力は君と同じく再生能力に―――――」

 その瞬間、ゼッペルの機体の間接部分が光りだした。システムX起動の合図だ。
 
「簡単に言う所の、水晶能力」

「水晶?」

「そう、君が放電を出来るように、私はこのように水晶を作る事が出来る」

 そういうと、ゼッペルは右手に水晶の剣を作り出した。
 それを強く掴むと、ゼッペルはシステムXをカットする。

「お互いにシステムXはなしで行こうじゃ無いか。折角こういう機動兵器に乗っているんだ。今回はそれの操縦をどちらが上手いのか、でいいじゃないか」

「……いいだろう。確かにシステムXは身体に悪い」

 そういうとカイトはシステムXをカットする。
 それと同時、ゼッペルは自身が持つ水晶の剣を静かに破壊した。

「では、ゼッペル・アウルノート。クリスタル参る!」

「行くぞ、ダーインスレイヴ! コイツが一番の強敵だ!」

 ダーインスレイヴとゼッペルの機体―――――クリスタルは同じタイミングで迫る。それは戦いの無言の合図であった。

「私の騎士としての誇りをかけて言おう! 君との勝負においては何者にも邪魔させはしない、と!」

 不意に、ゼッペルはそんな事を言って来た。

「決闘において、邪魔は不要だ!」

「そいつぁ、納得だ!」

 カイトはコクピットの中で同意すると、ライフルをクリスタルに向ける。
 一方のクリスタルは両腕をこちらに向けていた。その腕から突き出すように出ている銃口から連続して次々とビームが発射される。まるで豪雨だ。

「オーラ展開」

 次々に降り注ぐビームの雨をバリアという傘で防いぎながらダーインスレイヴはライフルの引き金を何発も続けて引いた。
 
 しかし、それを向こうは軽々と回避する。その機動性はあのデッドファングに勝るとも劣らない。

「速いな」

 クリスタルの姿を目で追うカイトは正直な感想を述べる。
 今までの敵の中で1、2を争うスピードの持ち主。そして先ほどの連続攻撃から見てみればかなりの強敵だ。

「勝てるかね……!」

 否、勝たねば意味が無い。
 
 待ってくれている人がいるんだから、と自身に言い聞かせてからカイトはクリスタルに向けて突撃する。
 あのスピードで動き回っているのだから狙って撃ち落せるような相手ではない。
 と、なれば自然と直接相手にダメージを与える接近戦での戦いとなる。

「ダークソード……!」

 ダーインスレイヴは漆黒のビームソードを構えると、そのままクリスタルに向かって突っ込んでいく。

「接近戦か。望む所!」

 クリスタルはそれに応じるかのように青いビームソードを抜いた。
 そして自身もダーインスレイヴに向かって突撃する。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

「だああああああああああああ!!」

 二人の叫びがカナダの空で木霊す。
 それと同時、黒と青のビームソードが火花を散らしながら激しくぶつかりあった。

 そしてお互いの斬撃は弾かれてはまた攻撃に移るという、同じ場面を繰り返す物となっていた。

「ちぃ、引き裂け! 漆黒の爪よ!」

 すると、カイトはいち早く次の攻撃に移った。
 右腕から飛び出す漆黒の鉤爪、ブレイククローだ。

「ならば!」

 しかしそれに応じるようにクリスタルも動き出す。
 もう一本、青のビームソードを抜いたのだ。俗に言う二刀流だ。

『勝負!』

 二人の叫びがシンクロする。
 
 次の瞬間、二つの影は激しい音をたててぶつかりあった。
 
 ダーインスレイヴの右腕が二本のビームソードによって次々と切り刻まれる。しかしその右腕も止まることなくクリスタルに命中する。
 顔面に直撃し、しかもそのまま左腕も切り落としたのだ。
 だがクリスタルには右腕が残っている。頭部を破壊された事によって視界は役には立たないが、それでも勢いはついている。
 青のビームソードはダーインスレイヴの漆黒の右翼を切り落としたのだ。

「ちぃ!」

「くっ!」

 カイトとゼッペルは受けたダメージによる衝撃で空から落ちていく。それはまるで銃弾を受けた鳥のように見える。

 轟音を立てて二つの機体は大地に倒れる。

 カイトはコクピットの中で気を失いかける衝撃を受けるが、それでも気を失うわけには行かない。何せ、まだ向こうに致命的なダメージを与えていないのだ。

 そう思って再びダーインスレイヴを起動させようと操作系に手を触れようとするカイトだったが、次の瞬間、彼の視界はモニタを通してある物を捕らえていた。それはクリスタルのコクピット内から外に出ているゼッペル・アウルノートの姿である。

「カイト・シンヨウ! 剣を取るがいい。今の機体の状態ではお互いに満足には戦えない。それは私の主義に反する」

 何と言う男だろうか。
 この男は今の状態の機体で戦うなら生身の方がいいと言っているのだ。
 と言うか、どこまで律儀なのだろうかこの男。常に自身と相手の状態を完璧にして決闘を望む男なんてやはり始めて見る。
 普通なら相手の不都合は喜ぶべき事なのだが、やはりこの男は全力での勝負を望んでいるのだ。

「いいだろう。其処まで言うなら相手をしてやる!」

 カイトはコクピット内から飛び出す。
 その手に握られるのは愛用している二本の刀だ。

 それに対して、ゼッペルは黄金の瞳を閉じて静かに精神の集中を始めた。
 すると次の瞬間、彼の両手に水晶で出来た剣が握られる。

「クリスタルソード……二刀流!」

 それは自身の能力で作り出した剣に他ならない。

「律儀に刃の本数まで合わせてくれてアリガトさん」

「では、決着を着けるとしよう。私が勝つか、君が勝つか」

 それからややあってから、二人の第二ラウンドのゴングが鳴った。


 ゼッペルは勝利に向かってただひたすら前進するカイトを見て思う。

 ―――――ああ、これが私が望んでいた者なのだ。

 ゼッペル・アウルノートはアンチジーンナンバー1として作られ、正に史上最強として生まれたのだ。

 ただ、それ故に彼は一つの悩みによって大きく悩まされる事となる。

 それは自身を燃えさせることが出来るライバルがいないと言う事だった。いや、正確に言えば敵と呼べるだけの相手がいなかったのだ。
 なまじ強すぎるが為に、誰も彼に敵わなかったのだ。

 他のアンチジーンと戦闘してもそれは同じ結果である。
 敢えて楽しめた相手といえば自身に近い身体能力にまで高める事が出来るレオンと自身を鏡のようにそっくりに化けるレオナルドくらいだった。

 しかしそれでも物足りなかった。

 何時しかゼッペルには向上心と言う物がなくなっていた。
 常に勝利し続ける空しさを感じたのだ。

 しかしそんな時、彼はある命令を受けた。

 それは研究サンプルとして捕らえられたが、逃げ出したジーンを出来れば確保、もしくは殺せという物であった。
 しかしそれでも彼は自身から動こうとはしなかった。どうせ自分が勝ってしまう、そう思ったからだ。

 しかしそれから暫らくしてから彼のもとにある報告が入った。

 アンチジーンが次々と返り討ちにあっている、と。
 更にはニオン、レオン、レオナルドの3人が一気にかかったが、それでも全員倒されたという報告を受けた。
 これで彼は思った。彼らを倒したジーンと戦ってみたいと、純粋に思ったのだ。それは単にアンチジーンとして受けた使命を実行するとか、そんな事ではない。

 ただ純粋に強者と戦い、そしてそいつに打ち勝ちたいと思う一人の戦士の思考だった。



「カイト・シンヨウ! 私は今、とても嬉しい!」

 刃を交えている時、不意にゼッペルはそんな事を言って来た。

「君は強い。そして私は純粋に君に勝ちたいと思う! こんな嬉しい気持ちは初めてだ!」

 何を言っていやがる、と言いかけたカイトだったが、それは彼の口から発せられる事は無かった。
 何故なら、自身に向かうゼッペルの顔が笑顔だったからだ。
 確かにそれは純粋な笑みだった。
 何より邪眼がさっきからまるで彼から負の感情を感じ取れない。それはそれで本当に不気味に思う。

「確かに、私たちはお互い敵対している立場にある。私達は君たちを追いかけるハンターとして、君達は時としてはハンターを返り討ちにする標的として!」

 だが、とゼッペルは更に言葉を付け足していく。

「それなのに何故こんなにも嬉しいのだろうか……! こんな時が何時までも続けばいいと思っている」

 振り下ろされる水晶の刃を全力で受け止めながらカイトはゼッペルの言葉を聞く。

「私は………君が羨ましい」

「何!?」

 その一言は全く予想外だった。

「剣を交えていれば分る。君はいろんな仲間達に囲まれて、そして慕われている。………それがどんなに羨ましい事か」

「……他のアンチジーンはどうなんだ?」

 カイトの疑問はもっともだった。少なくともレオナルドの反応を見る限りではアンチジーンは仲間意識があるはずである。

「私は、寧ろ嫌われていた」

「――――――え?」

「なまじ強すぎるが為に、誰も私によろうとしなくなり、そして生みの親である軍はそんな私を大量殺戮の道具としか扱わない。そんな一人ぼっちの私と比べて、君は―――――」

 しかし其処まで言いかけた途端、カイトは叫んだ。

「違う! 俺だって最初は一人だった!」

 ゼッペルの環境は昔の自分と似ていた。
 その喪失感と感覚、そして感情は今でも憶えている。

 あの雨の中、一人寂しく歩き回っていた、あの嫌な思い出。

「誰もが俺に敵意のある視線を送り、そして襲い掛かってくる。生き延びる事を考えて行動していた俺に友達なんかいやしなかった」

「ふっ、しかし君はそれでも手に入れたんだろう? 大切な友人を」

 それは否定できなかった。
 決別したつもりでも、捨て切れなかった。

「それだけで十分羨ましいよ。私はね」

「そうかい」

 二人が剣を構えると、一定の距離をおく。 

「出来る事なら、君とはもう少し別の形で出会いたかった」

 するとゼッペルは不意にそんな事を言って来た。
 そして彼はそのまま話を続ける。

「こういう形で出会うのも運命なのだろう、しかし残酷だと思う。私は出来る事なら君の様な男とは友として出会いたかった」

「…………」

「正直に言おう。君を殺したくないと私は思う」

「何?」

 全く予想外の一言をゼッペルは再び言い出した。
 決闘を申し込んで追いてそんな事を言うとは何を考えているのか。

「君とは、長く語り合いたいと思う。そして時には剣を交えたい。……だが、決闘を申し込んだのは他ならぬこの私。惜しいがこの場で決着をつけようではないか」

 ゼッペルは勢いよくカイトに向かって来る。
 そしてカイトは笑みを浮かべながら答えた。

「変わってるな、お前」

 カイトもゼッペルに向かって走り出す。
 二者がお互いに放つ攻撃は同じ。剣による斬撃だ。

 しかし次の瞬間。

 一つの閃光がゼッペルの左胸を後ろから貫いた。いとも簡単に、あっさりと、だ。

「え?」

 突然の事に二人は思わず後方を見る。
 そこには一つの影が存在していた。連邦軍の制服を着た、嫌な雰囲気を持つ男だ。

「貴様の戯言は聞き飽きた。もういい。貴様も一緒に殺してやる」

 男は人差し指をゼッペルに向ける。
 いかに再生能力を持っていようが、再生には少々時間がかかる。向こうが何者なのか知らないがここで攻撃を受けたら確実にアウトだ。

「さらばだ、ゼッペル」

 男は再び閃光を放つ。しかも向けた人差し指からだ。

「ちぃ!」

 そこでカイトが男とゼッペルの間に割り込んでくる。
 彼は人差し指から放たれる一撃を刀で防ぐと、男に突っ込んでいく。

「喰らえ!」

 左の銀の刃は男の身体に何の抵抗も無いまま突き刺さる。
 しかしそれだけだ。
 男は刃が突き刺さった状態のまま、不気味に顔を歪ませる。

「この俺にそんな物は効かないな」

 すると、男がいきなり溶け始めた。
 まるで液体のようにどろり、とその場に溶けるその姿は金属で出来たスライムのように見える。

「な―――――!」

 この光景を見たカイトとゼッペルは唖然としていた。
 そこでゼッペルは再生しきった身体を起こして男に言う。

「君は――――何者だ!?」

 すると、男は再び人の形となって答える。

「俺の名前はジーンΧ(カイ)。貴様等ジーンとアンチジーンのデータを元にして作られた最強のジーン、アルティメットジーンの一人だ」

「何!?」

 つまり、連邦軍はアンチジーンすら研究素材としか見ていなかったことになる。しかもその中の一人だ、と言う事は複数いることになる。

「連邦軍はゼッペル・アウルノートを始めとするアンチジーンを製作したが、その目的はジーンとの戦闘で研究データを集める事だった。そして様々な戦いの末に作られたのが俺たちアルティメットジーンなのだ」

「じゃあ、Jコロニーやフィティング艦内、富士山での戦いも……!」

「無論、研究データを得るためだ。富士山での戦いはあっても無くてもどうでもよかったのだがな」

 カイトはぎり、と歯をかみ締めると、ジーンΧを睨む。

「では、貴様等の目的は……」

「残念だが、お前の予想は50点だ。せいぜい残った貴様等を殺せとかそういう事だと思っているのだろう」

 そのとおりなのだが、それなら違うのか。とカイトが言いかけた瞬間、ジーンΧの背後から爆発が起きた。
 カナダ基地が破壊されているのだ。

「俺達の目的は……俺達の天下だ!」

「天下……?」

 カイトとゼッペルの二人は首をかしげる。言っている意味がよく分からないのだ。

「簡単に言うところの世界制服とでも言った所かな。その為には俺たちを作り出した連邦もお前達も全部が邪魔だ。まとめて消し去ってやる」

「何だと!?」

 これにはゼッペルとは別の意味で驚いた。

「馬鹿な……! 誰がそんな事プログラムしやがった!?」

「さあな、もしかしたら全世界を自分の物にしたいという連邦のお偉いさん方の思考がそのままインプットされたのかもしれん」

 どちらにしろ洒落にはならない。
 思いもよらない形で現れた敵とその目的の前に、二人はただ唖然とするしかなかった。





第十二話「最強のジーン」



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