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紫色の月光

紫色の月光

第十二話「最強のジーン」

第十二話「究極のジーン」


 ジーンΧはじわりじわりと二人に近づいてくる。
 この男から発せられる威圧感は半端ではない。自身が草食動物だと例えるなら向こうはライオンを通り越して肉食恐竜だ。

「よぉ、ゼッペル。何かいきなりピンチだな、俺たち」

「ああ……こうして相対していると本当に良く分る。あの男は私たちを殺すのに十分な力を持っている」

 それを見た二人はじりじりと後退していた。
 悔しいが、向こうが斬撃が効かないのなら打つ手が無い。

 しかし、

「ならば!」

 ゼッペルは手を前に向ける。その先にいるのはジーンΧだ。

「む!?」

 ジーンΧは異変に気付くが、間に合わない。
 彼の周囲から無数の水晶の刃が地面から生えてくる。それは問答無用でジーンΧを切り刻んでいく凶器に他ならない。

 しかし、ジーンΧは無気味に笑うとどろり、と溶け始める。
 彼の能力は強力な閃光攻撃と、再生能力よりもやっかいな液体金属化である。
 故に、物理攻撃では彼には勝てないのだ。

「相性最悪だな、こいつぁ……!」

 彼らが得意とする攻撃はその殆どが物理攻撃。
 正しく相性最悪だ。

「どうやって倒すべきだと思う?」

「俺に言われても困るな、俺だって対策法が無いんだ」

 ゼッペルがそんな事を言ってくると、カイトは真剣な顔で答える。
 刀は役には立たないし、銃を使ってもダメージを与えられないだろう。

「……こうなったら邪眼しかない!」

 邪眼によるブラックホール攻撃やジェノサイドミーティアと言った攻撃なら恐らくではあるが奴を倒せるはずである。

「成る程……しかし私には光眼がある」

「何だ、お前もあるのか?」

「うむ、ジーンではナンバー10から1までが扱えるようだが、アンチジーンでは私だけだ」

 光眼とは、その名のとおりの光の眼である。
 実はこれ、邪眼の本来の持ち主であるアサドが研究の末に開発が成功した物であり、邪眼とは正反対に光の力が属している。

 しかし使い方は邪眼とは違う。
 邪眼は人々の負の感情をかき集めて闇の力に変えるものなのだが、光眼は自身の感情の力によって発動する事が出来る。

 しかしカイトの場合は左目に邪眼をはめ込んだためなのか、昔は使えた光眼が今では使えなくなっているのだ。

「だがあれは少々身体に良くないのでな……あまり多用するのは好まないのだがこの際では仕方があるまい」

 ゼッペルはそういうと黄金の瞳に光眼を宿らせる。
 先ほどと目の色が変わっていないように見えるが、それでもその瞳から発せられるオーラは間違いなく光眼そのものだ。

「よし、じゃあ初っ端からフルパワーで行くぞ!」

 邪眼を発動させてカイトが言う。
 それと同時、二人は左手に光の球を作り出す。

「ジェノサイドミーティア!」

 先ずはカイトが放つ。
 そしてそれから数秒もしない内にゼッペルも一撃を放った。

「シャイニングエクスプロージョン!」

 しかしジーンΧはそれを見てもたじろぎはしない。
 彼は手を前に向けると、必殺の一撃を放つ。

「カオス・ボンバー」

 すると、彼の前に直径10m近くの黒い球体が姿を現した。
 それはゆっくりとジーンΧの手から離れると、二つの光球に向かって進んでいった。





 アークブレイダーとソウルサーガの二体はカナダ基地上空にいた。
 彼らはカイトとゼッペルの決戦の助太刀にきたつもりだったのだが、其処から信じられない光景を二人は見ている。

 まるでスライムのように溶ける二つの影がカナダ基地を攻撃しているのだ。
 しかもその二人は、

「俺たちと同じ能力を使ってやがる……!」

 一つの影はエイジと同じく発火能力を扱い、もう一つはシデンと同じように凍結能力を使っている。しかも液体金属で溶ける事まで出来るのだからもう手のつけようが無い。

 しかし、そこで二人は見た。

 カナダ基地を攻撃している二つの影がこちらを睨んできたのだ。

「!?」

 そこから真っ直ぐにこちらを見るその瞳は威圧感が含まれている。
 その威圧感の前に二人は思わず怯んでしまったのだ。

「……へぇ、データにあったジーンナンバー4と7か。どうする? やっちゃう?」

「そうだな、どちらにしろ始末するつもりではいるし」

 その瞬間、二人の身体が溶け始める。
 しかも驚くべき事はその液体金属の量がどんどん増えていっていると言う事なのだ。

「ど、どうなってやがる!?」

 そして量が増えていった液体金属は自然と人の形を成していく。
 しかしその形は最早人そのものというよりも機動兵器だ。

「……我々アルティメットジーンは此処で貴様等を抹殺する。我々の天下の為に」

 アークブレイダーの前に現れた白い機体は静かに言うと、アークブレイダーにライフルを構える。
 そしてソウルサーガの前に現れた真紅の機体は日本刀を構えた。





「ぐ……!」

 カイトとゼッペルは大地に倒れこんでいた。
 何と言う事だろうか、邪眼と光眼を使ってまで放った攻撃はジーンΧの放った一撃によって軽くかき消されてしまったのだ。
 そして黒の球体はそのまま二人を飲み込んだのだ。

「くそ……! 力の差がはっきりとしてやがる!」

 しかも物理攻撃が効かず、ジェノサイドミーティアもジーンΧの放つ攻撃の前には通用しなかった。一体どうすれば奴に勝てるのだろうか。

「ゼッペル、大丈夫………?」

 ゼッペルはカイトの横で倒れていた。
 しかし先ほどから様子がおかしい。さっきから全く動かないのだ。

「ゼッペル?」

 まさか、と思いカイトはゼッペルの脈を図る。
 しかし無情にも、彼の予想は当たっていた。

 ゼッペル・アウルノートはジーンΧの放つ攻撃によって死んだのだ。

 恐らくは直撃だったのだろう。そうでなかったらカイトだって今頃死んでいるはずだ。

「ゼッペル……!」

 先ほどまで敵対していたとはいえ、憎めない奴だった。しかも決闘を申し込んでおきながら友になりたかったと言う、そういうわけの分らない男だった。

 しかし、

「馬鹿野郎……まだ俺達の決着はついていないんだぞ。何死んでやがる」

 それでもカイトはそんな彼が好きだったのだろう。
 一日しか会っていないのだが、それでも何処か憎めない奴だったのだ。

「……悔しいよな、ゼッペル。お前も連邦のいいようにされたんだからな。その気持ちは凄く分る。アンチジーンは嫌いだったけど、お前はそんなに嫌いじゃなかったぞ」

 カイトはゼッペルの亡骸を静かに見ながら言った。

「もし、次があるとしたら―――――その時は今度こそ友達になろうな」

 そういうと、カイトはゼッペルの右胸を手で貫く。其処から取り出すのは彼のコア、Ω(オメガ)コアだ。

「お前の力、お守り代わりに預からせてもらうぞ。――――じゃあ、な」

 カイトはゼッペルの亡骸からジーンΧに視線を移す。
 その眼には確かな怒りと言う名の感情が積もっていた。

「来い、ダーインスレイヴ!」

 すると、右翼と右腕を切られたダーインスレイヴをカイトが呼び出す。
 そしてクリスタルによって失われた右腕と右翼が無い状態のまま、ダーインスレイヴはやってきた。

「ほう、面白い。ならば俺もその姿に合わせてやるとしよう」

 するとジーンΧは再び溶け始める。
 液体金属の量はどんどん増えていき、次第にはダーインスレイヴと同じ大きさになっていく。

 そしてそこから形成されていく物は正しく機動兵器だ。
 何処か騎士を印象付けさせるその風貌はジーンΧそのものである。

「本人が機動兵器になれるとはとんだミラクルだ」

 しかし本人と言う事は強さも変わらないはずだ。
 だとしたらその厄介さは変わらないことになる。

「覚悟しろよ、こうなった以上はダーインスレイヴもろとも貴様を消し去ってやる」

 ジーンΧが言う。
 しかしカイトはそれに対してこう答えた。

「その台詞、お前に返す」






 エイジとシデンの前に突如現れた二つの機体はそれぞれ攻撃を開始していた。
 白い機体―――――ジーンΕ(イプシロン)がアークブレイダー。
 真紅の機体―――――ジーンΔ(デルタ)がソウルサーガを相手にしている状態である。

 しかしその猛攻撃振りは追いかけられている二人から言わせて貰えば『圧倒的』である。

「くそったれ! いきなり襲ってくるとはどんな神経してやがる!」

 エイジは悪態をつきながらも焔宝剣でジーンΔの日本刀の連撃を弾く。
 しかし向こうはまだまだ余裕だ。しかも厄介なのは切っても切っても兵器で再生していく事だ。液体金属だろうが無茶苦茶にも程がある。

「どうした? まだこっちは本気を出していないぞ」

 すると、此処からが本気だといわんばかりにジーンΔが持つ日本刀に炎が宿る。
 
「ちぃ! システムX発動、燃えさかれ焔宝剣!」

 ソウルサーガは紅蓮のように燃えさかる剣を振り回しながらジーンΔの刀を振り払う。しかしそれでも向こうの攻撃スピードは速い。

「灼熱のバーニングスマッシュ!」

 ジーンΔは至近距離で、まるで隕石の様な炎の塊を手から発射する。
 しかしソウルサーガはこれを剣で防御しようと、体勢を一瞬で整えた。

「ふん、装甲が持つはず無いだろ! そんな機体で」

 炎の塊はソウルサーガに命中する。
 爆風があたりに巻き起こり、熱風がジーンΔを襲う。

「呆気なかったな」

 勝ち誇った笑みでジーンΔが言う。
 例え助かっていたとしてもかなりの高温なのだから助かるはずが無い。

 しかしそう思った瞬間、爆風の中からソウルサーガが勢いよく姿を現した。
 しかも溶けた切っ先の焔宝剣を持って、だ。

「何! 馬鹿な、アレを受けて何故……」

 その答えは簡単だった。
 エイジは焔宝剣の切っ先に熱を集めて、バーニングスマッシュに突っ込んだのだ。
 炎の台風の中に突っ込んでいったものだと思えばいい。
 しかしまるで土の中を進んでいくドリルのように突き進むそれは何と炎の塊を突き進む事に成功し、そして今、絶好のチャンスを得たのである。

「喰らいやがれ!」

 余りの熱量によって切っ先が溶けている焔宝剣がジーンΔの胸部に突き刺さる。
 何の抵抗感も無く、まるで水に突き刺すような感覚だったが、それは相手の身体が非常識な液体金属なのだから当たり前だ。

「はん、そんなの痛くも痒くもないな」

「それじゃあ、コイツならどうだ?」

 エイジが不敵に笑うと、焔宝剣から炎が溢れ出す。
 それは超高温の攻撃であり、液体とはいえ金属であるアルティメットジーンには強烈な攻撃である。

「あ、ああああ……!」

 ジーンΔは溶け始める。
 そして彼の身体は最終的には無くなって行き、後には彼のコアだけが残された。
 それはエイジと同じコア、Δ(デルタ)コアである。

「か、勝った……何とか」

 しかしエイジはこれの存在に気付くことなくその場から去っていく。
 シデンの援護に行く為だ。しかも今回の敵は嘗て無いほどに凶悪な敵だ。今回は自分の相性が良かったから良いものの、シデンやカイトが苦戦しているかもしれない。それなら急いで行かないといけないのだ。

 故に気付かなかったのだろう。
 この残されたコアから、まるで怨念のように放たれている不気味なオーラに。





 アークブレイダーとジーンΕは銃撃戦を繰り広げていた。
 しかしジーンΕは反則的な事に、全身からビーム攻撃を発射できるのだ。それこそ腕に持つライフルだけでなく、足や肩、更には腹や背中や頭部からでも発射できるのである。

 これを何度でも発射されているのだからアークブレイダーはただ避ける事しか出来なかった。しかもこれを防ぐバリアーも無いのだから辛い。

「しかも攻撃がさっきから全然通用してないんだよなぁ」

 それが一番厄介だった。
 彼の持ち前である正確な射撃で何度もジーンΕは風穴を開けられている。
 しかし液体金属である彼はその度に何度も再生する。

「うーん、どうしよう」

 シデンは考えながら思った。
 無敵状態に挑むゲームキャラってこんな感じなんだろうな、と。

「そらそらそらぁ!」

 ビームを次々と一斉発射してくるジーンΕ。
 しかしその度に彼は逃げなければならない。装甲が薄いアークブレイダーでは一撃でも喰らったらアウトだからだ。
 しかし幸いながらその分機動性に優れている。
 なので辛うじて回避は出来るのだが、向こうは自分と同じように凍結能力を使えると言う事が厄介だった。

 それならば先手必勝。先に凍結能力を用いた攻撃を仕掛けてやる。

「行くよ、システムX発動! フリーズブレイカー!」

 アークブレイダーの肩パーツが展開していく。
 それと同時に次々と射出されていくのは氷の刃だ。
 射出された計8個の氷の刃はビームを回避しながらジーンΕに向かって飛んでいく。

「ふ」

 しかしジーンΕは笑っていた。
 それもそうだろう。自分には物理攻撃なんて効かないのだ。
 今更そんな刃なんて恐くも無い。

「………痛みも、何も感じない」

 氷の刃は次々とジーンΕに突き刺さる。ぶっちゃけるとかなり痛々しい光景だ。
 しかしその言葉の通り、彼は何も感じない。
 その刃が覆う凍気がほんの少しだけ寒く感じるだけだ。


「ちょっとだけ寒いが、それでも君は私には勝てない」

 ジーンΕの手がアークブレイダーに向けられる。
 其処から生まれるのは無数の氷の矢である。

「フリージング・アロー」

 氷の様な冷たい目つきでそういうと、彼の手から氷の矢が発射される。
 いや、矢と言うよりは弾丸。
 このスピードはまるで矢の形をした弾丸のようだ。

「撃ち貫け!」

 矢は、それを回避しようとするアークブレイダーの足に次々と突き刺さる。
 その瞬間、シデンの足に冷たい痛みが電流のように走った。システムXを使用したがためにアークブレイダーのダメージはそのまま彼に伝わるのだ。

「く……!」

 しかしシデンはその痛みを堪える。
 連続して矢を出し続けているがために全く動けずになっている今がチャンスなのだ。

「散れ! フリーズ!」

 シデンが叫ぶと同時、ジーンΕに突き刺さっていた氷の刃が静かに砕け散った。
 しかし次の瞬間、猛烈な凍気がジーンΕに襲い掛かる。

「う……おおおおおおおおおお………」

 ジーンΕの身体はどんどん氷付けになっていく。
 最終的な彼の結末は『氷の像』だ。

「ブレイク……!」

 しかしシデンが力強く握り拳を作ると同時、その氷の像は木っ端微塵に砕け散った。
 そして彼の液体金属の身体は光となって霧散していく。

 だが、コアはまだ残っていた。
 ジーンΕの心臓である、Εコアはまだ残っているのだ。





 ジーンΧの前に、カイトは成す術が無かった。

 ライフルも効かない、ビームソードも通じない。
 更にはブレイククローにフェザーブラスター、インフェルノ・スマッシャーにジェノサイドミーティアすら効かないのだ。

「くそったれ! 強い上に不死身ならどうしろってんだよ……!」

 正に絶体絶命だった。
 しかもジーンΧは強い。何と言っても素手での攻撃がダーインスレイヴの装甲をへこませるんだから恐ろしい。
 しかもバリアですら軽く割ってくれるんだから更に恐ろしい。

「ゼッペル、俺もそっちに逝きそうだぜ……」

 絶望的だった。
 こんな強大すぎる相手にどうしろと言うのだろうか。自身の武器は効かず、尚且つ強い。これでは後は死を待つくらいしかないではないか。

 しかし次の瞬間、二つの影がこちらに大接近してきた。

「よーぅ、待たせたなカイト」

「エイジ……!」

 一つはソウルサーガだ。剣の切っ先や装甲は所々溶けているが、相変わらず物凄い眼光を放っている。

「ごめんね、来るのが少しだけ遅くなっちゃった」

「シデン……!」

 もう一つはアークブレイダーである。脚部は何かに貫かれたのか、所々ショートしているが、それでもまだ戦える事には変わりない。

「……ほう、ΕとΔが負けたか」

 ジーンΧは不気味に笑う。

「成る程、早くもアルティメットジーンは俺だけになってしまったと言う事か!」

 何がおかしいのだろうか。
 アルティメットジーンは彼を含めて3体。それなら残り一体の彼は何故笑えるのだろうか。
 自身も負けるのかもしれないのに。

「ふふふふふ……!」

 ジーンΧはまだ笑っている。
 しかし次の瞬間、彼の周囲に二つの物体が超高速のスピードで飛んできた。

 先ほどエイジとシデンに倒された二人のそれぞれのコアである。
 その二つのコアは、ジーンΧの周囲をクルクルと回転しながら回っている。

 だが次の瞬間、二つのコアは何かに導かれるようにしてジーンΧの液体金属の身体の中に取り込まれていった。

「何!?」

 この様子を見て3人は驚くしかない。
 何故なら、二つのコアを取り込んだジーンΧの身体がどんどん生まれ変わるかのようにして変化していくからだ。

「とくと見るがいい! 今こそ、最強のジーンの誕生だ!」




最終話「宝物」



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