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紫色の月光

紫色の月光

恐怖の最強コンビ  前編

 ここはとあるスラム街にある事務所。そこにいる連中は金さえ払えばどんな依頼でもこなすと言う。

 そこにいる連中の中でも、トップクラスの依頼成功率を誇る少年がいる。依頼をこなす連中はこの事務所では15人、いずれも猛者揃いなのだが、その中で一番の強者は少年なのだ。

 少年の名前はカイト。日本名は神鷹 快斗(シンヨウ カイト)だ。年齢19歳とは思えないほどの威圧感の持ち主であり、主な戦闘方法は我流の二刀流、そして手から放たれる電気である。

 彼は何故自分が電撃を放てるか知らない。それを知るために一人の男を捜し続けているのだが………残念ながら未だに情報は入ってこない。因みに、彼は常に両手に黒い手袋をはめており、周囲に電撃の被害を及ばせないようにしている。




 そんなカイトは今日も依頼を引き受ける。


 これはカイトと言う一人の男の、ほんの小さな歴史の1ページ。




 西暦2XXX年。12月24日。

 今日はクリズマス・イヴだと言うのに、事務所の依頼は山ほど来ている。はっきり言って、こんな大量の依頼、この事務所に居る人数で足りるかどうか分からない。

「殆どが警備依頼か。流石にクリスマスだとイベントが多いからな」

「それでも普段とは変わらない依頼もあるぞ。ほれ、こいつだ」

 事務所の所長がカイトに一通の手紙を差し出す。それは他ならぬ依頼内容である。
 カイトは手紙の内容に目を通し始めると、周囲の同業者が興味ありげにこちらに目を向け始める。何故ならイベントの警備よりも普段の依頼の方が儲かるからだ。

 カイトは気を利かせるつもりで音読にして手紙を読む事にする。

「何々……今回の依頼は、簡単に言うなら宝石の警護です。私は宝石店を営んでいるのですが、クリスマス・イヴに店で一番貴重な物を頂きますと言う、あの怪盗イオの犯行予告が届けられたのです」








 夜11時。

 この時刻は怪盗イオが書いた犯行時刻の30分前である。そして狙われるのは40階建ての高層ビルである。

 この時間に宝石店の護衛に任されたのは結局カイトだった。彼は上半身はジージャン、下半身は黒いズボンと言う、最近のお気に入りの服装をしており、相変わらず黒い手袋も着用している。と言うか、黒い手袋がないと電撃を止めることが出来ない。カイトは電撃のコントロールが上手くいかないのだ。

「さて、と。30分前な訳なのですが、奴が真っ先に狙いそうな宝石は?」

 カイトは肩まで伸びている自身の長髪を紐でまとめると、宝石店店長を睨みつけるようにして問うた。
 カイトは前髪も結構伸びており、右目がほとんど隠れている。その為、左目しか店長の視界に移らないのだが、それでもカイトの視界は良好である。

「やはり金庫室にある私のお気に入りでしょうか」

「お気に入り? 売っていないのがあるので?」

「ええ、宝石集めは私の趣味でもありますので……コレクション用として取っているんです。それらは全て金庫の中に」

「じゃあ、そこに行ってみましょう」


 37階の金庫室前まで来ると、そこには巨大な扉がカイトや店長を待っていた。見ると、かなり頑丈そうであり、パスワード方式で開くタイプのようだ。

「見てのとおりです。この扉は至って頑丈で、私しか知らないパスワードでしか開きません。いかに名高い怪盗とはいえ、ここを突破する事はできないでしょう。因みに、40階まで同じ金庫室となっています」

 怪盗イオ。この男は1ヶ月ほど前までオーストラリアで活動していた怪盗である。最近、この街でも活動を開始したようである。オーストラリアでは相棒と二人で行動していたようだが、最近は一人で盗みの行動を起こしている。
 彼は大胆にも刑務所に喧嘩を売って、それで生きて帰ってきたという、トンデモな男なのだ。その戦闘力は計り知れない。

「では、何故俺に依頼を? 各階にも警官が張っているようですが?」 

「この37階から38,9、そして40は私が信頼するボディーガードがいます。彼等だけで十分だと思いますが、念には念を入れて、と言うことです」

 彼等、という事は複数いるわけだ、とカイトは考えた。

「ああ、そうそう。この階を守るボディーガードを紹介しましょう」

 店長が言ったと同時、彼女の近くに歩み寄ってくる男の姿があった。彼は見た感じカイトと同じくらいの年齢で、特徴としては海のように深い青の瞳と背中までかかった青の長髪が目立っていた。

「紹介します。この階を任せているマーティオ・S・ベルセリオン君です。年齢は貴方と同じ19歳です」

「……よろしく」

 マーティオと呼ばれた男はこちらに手を差し伸べる。カイトもそれに応じて握手を交わす、が。

(………はて、このマーティオと言う男、妙に俺に似ているような)

(この男。目つきといい、体型と言い、俺とそっくりではないか)

 そう、この二人は妙に似ているのだ。それこそ双子ではないかと思わせるくらいに。

 しかし、丁度カイトが前髪で右目が殆ど隠れており、マーティオが青髪と青い瞳と言うこともあってか、それに気付いたのは今先ほど握手を交わした二人だけだった。

「ではカイトさん、貴方はこの階を任せましょう。ベルセリオン君、仲良くね」

「かしこまりました」

 マーティオは行儀よくペコリとお辞儀してから周囲を見渡す。周囲に居るボディーガードらしき黒服と警備員が部屋から出る店長の警護に付き、部屋の中にいるのはカイトとマーティオだけとなった。

「…………お前、何時から此処で働いている?」

 カイトはマーティオに問う。それに対してマーティオは、

「大体2ヶ月と言ったところだ。そっちこそ、そういう業界はどれくらいになる?」

「裏系は色々とやっているが、今の様な依頼系業界は3年くらいだ」

「では、裏業界に入ったのは何時から?」

「6歳からだ。その後の13年間、俺はこっち系で働いている」

 それは紛れも無く、二人の過去である。別に隠す必要も無い事だからあっさりと話せるのだろう。


 その時である。犯行予告の時刻を知らせる激しい音がビル中に響き渡ったのは。

「………怪盗イオは時間厳守なんだ」

 突然マーティオが言ったのでカイトは彼の方を振り向いた。

「と、言うわけで行動に移らせてもらうぜ!」

 マーティオが言ったと同時、彼の背後ろから無数の棒が出現した。しかしそれは一本一本に刃が突き出すように生え始め、次第には無数のナイフと化する。

「散れ……! ウィザードナイフ!」

 これがマーティオの本性である。彼の本名は確かにマーティオ・S・ベルセリオンなのだが、またの名前を怪盗イオと言う。刑務所で大暴れした張本人なのだ。

 マーティオが自身の周囲に浮遊している無数のナイフに呼びかけると、そのナイフの群れがカイトに襲い掛かる。

「……」

 しかし、カイトはこれに怯える様子は全く見せない。彼は愛用の二つの刀を抜いて、一番慣れている二刀流でこれを迎撃する。

 右手に持つ真紅の刀身、『紅蓮血鳥』が振るわれると同時、飛び掛ってくるナイフが赤い光によって弾かれる。
 左手に持つ銀の刀身、『白銀狼牙』が振るわれると同時、飛び掛ってくるナイフは銀の一撃によって弾かれる。

「この程度じゃないはずだ。マーティオ!」

「ふっ……成る程、貧乏くじを引いたようだ」

 今のマーティオはウィザードナイフというオーケストラをまとめる為の指揮者だ。彼が命じれば、無数のナイフは彼の意思通りに動く。しかし、

「戻れ……サイズ!」

 マーティオが叫ぶと同時、無数のナイフの刃が音も無く光の粉となって霧散する。残された柄はそのままマーティオの周囲に浮遊しているが、その柄が次々と合体していき、長い棒となっていく。

「………わあ」

 カイトはその光景を見て唖然としていた。この光景を言葉であらわすとしたら、ただ一つしか出てこない。

「魔術かなんかか。あれは」

「残念だが、そうじゃない。これがこいつの――――――」

 マーティオが長い棒の先端をカイトに向ける。それと同時、先端に曲刃が一瞬で生えた。マーティオが持っている武器は大鎌なのだ。

「うわぁ、すげぇ便利そう」

「だろう。俺もこれで中々助かっていてな」

 ここで断っておくと、カイトとマーティオは結構非常識なのだ。常人と比べてかなり常識がずれており、一言で言うなら天然の変人なのだ。しかし、それでもこの二人は美がついてもいい程の男である。バランスが取れているのか取れていないのかが微妙なのだ。

「まあ、いい。こちらは我流とはいえ、刀二刀流。そう簡単には負けん」

「それはこっちの台詞だ。何でも屋」

 そして二人ともかなりの負けず嫌いだった。

「我流奥義………! 『神速双牙』!」

「必殺……! ハウリング・ヘルショック!」

 カイトが二刀を持って文字通りの神速のスピードでマーティオに突っ込む。しかし、恐ろしい事にマーティオはそれを待っているのだ。その攻撃威力を頭の中で理解したと同時、彼はカウンターの体勢に入る。

 カイトの両手からそれぞれ真紅と銀の閃光が放たれる。それと同時、マーティオの大鎌の銀の一撃が振り下ろされる。

 二つの力がぶつかりあうと同時、37階が半壊した。




 
「くっ……! 何てヤローだ。あのスピードにあわせて大鎌を振るってきやがった」

 互いの力によって吹き飛ばされたカイトはダメージを受けながらも立ち上がる。それはマーティオも同じだった。

「ちぃっ! ………まさか最終兵器の一撃に耐えるとは」

 そしてお互いに驚きの連続だった。最早似ているとか言うレベルの問題ではない。お互いに十分すぎるほどに強いのだ。しかも、お互いにその出生が謎に包まれているのがやけに不気味である。ここまでくると余計に気味が悪い物だ。

「………ん?」

「……む?」

 そしてそこで二人は気付いた。あの見るからに頑丈そうな扉が完全に破壊されているのである。これも二人の常識を超えた恐るべき力の成果である。

「やべ。やっちまった」

 とか言いながらカイトの顔には反省の2文字が無い。むしろ、壊れた扉が悪いとでも言いそうな勢いである。マーティオもだ。彼の目的は元々この扉を開いて金目の物を奪う事だったのだが、勝負に集中しているうちに目的を忘れてしまっていたようである。

 だが、そんな扉の中身は開けてビックリの次元を飛び越していた。

 扉の中には宝石何て物は一つも無い。白い粉がたっぷりと詰まっているだけである。

「この白い粉………まさか!」

「まさかのまさかだ。こいつは……!」

 二人の思考は見事にシンクロした。あの店長の、いや、この宝石店の秘密とは、

「麻薬の倉庫……!」

「まんまと騙されたな。……お互いに」

「ああ、普通は宝石店には宝石があるもんだ」

 こいつはそれを超越している。下手したら宝石が買えるとか言うレベルではない。何せ、上の階にも同じ物があるのだ。

「おい、怪盗。お前、これを盗むか?」

「ご冗談を。いかに俺様でもこんなヤバイ物は盗む気にはなれない」

「ああ、それなら安心した。少なくとも共通理解できる奴と言う事だな」

「こういう状況に関しては、な。そこら辺は常識を弁えてるつもりだ」

 この会話からして、二人は何となく仲良くなっていた。それも二人のノリで仲良く慣れてしまうのだから恐ろしい。類は友を呼ぶとはこういうことを言うのだろう。

「折角のトークの最中悪いんだけど、これを見てしまったんじゃあ、生かして返せないんですよ」

 そこに、冷酷な声が響いた。


 中編に続く


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