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紫色の月光

紫色の月光

『俺様と宇宙警備隊隊長』

『俺様と宇宙警備隊隊長』



「O型の女が行方不明になるぅ?」

 それが連邦軍所属の青年、マーティオ・S・ベルセリオンの本日第一声だった。海のような深い青の長髪と瞳が特徴的で、目つきは刃物のように鋭い。
 年齢はこの時20歳。階級は一応少尉、となっている。

「ど、どったのベルちゃん? 朝から新聞読んでそんな事言うなんて珍しい!」

「悪かったな」

 どうやら同僚が呟いた『ベルちゃん』の単語には突っ込まないようである。目の前にいる彼の同僚は年下のクセにやけに馴れ馴れしいのは毎度のことで、例え止めろ、と言っても自分を『ベルちゃん』呼ばわりするのだ。

「でもよぉ、血液型Oの女がここ数週間でごっそりと行方不明になってるってのは相当なことだぜ。しかも、目撃証言なんか『土の中に引きずり込まれた』と来たもんだ。これが奇怪じゃなくて何が奇怪なんだが」

 新聞を同僚に放り投げてみると、彼女はそれをキャッチ。問題の記事を黙読する。

「へー、しかもこの事件の現場ってこれから私たちが配属されるとこの近くじゃない。……ベル君って血液型何?」

「シラネ」

 興味なさそうな顔で一蹴した。しかも椅子に腰を深くかけて、顔は明後日の方向を向いている。これはまともに話を聞く態度ではない。

「………折角『あの時』以来の任務なのに、なんだか嫌な予感が―――」

「言うな」

 しかし、同僚の言葉を瞬時に切裂くだけの集中力はまだ存在していた。
 同時に彼の刃のような目つきが更に鋭くなる。





 少し前、彼等はロンド・ベルと呼ばれる部隊と交戦した。
 元々、ロンド・ベルは連邦軍に所属する独立部隊として数々の敵勢力と戦い、そして勝利を収めてきた部隊だった。

 マーティオたちに下された命令は中立国『オーブ』のモルゲンテーレ本社。そこで修理中のロンド・ベル所属の戦力の接収だった。外宇宙からの脅威にさらされている今、連邦軍が対外宇宙勢力用に特化されたスーパーロボットを使用するのは当然であり、地球圏市民である以上、ロンド・ベルにもそれに応じる義務があるというのが、彼らロンド・ベルの言い分である。

 しかし、ロンド・ベルはその外宇宙への脅威へと立ち向かうための遠征が決定していた。そんな彼等の戦力をわざわざ接収しようと言う理由は、強力な戦力を有する彼等が地球から離れている間、無防備になってしまうこと。そして連邦軍自体の威厳の問題もあったのだろう。

 兎に角、マーティオたちはその『横槍』を入れる側として出撃。紛れもなく連邦軍最強の部隊と交戦することとなったのである。




 結果としては惨敗だった。
 マーティオはある一部隊のパイロットして出撃。この時の部隊名は覚えていないが、確か『チーム・○○』ってな感じで宝石の名前を部隊名に使っていたと思う。
 自分の時がサファイアだったかルビーだったかエメラルドだったか、もしくは他のどれだったかは忘れたが、一番被害が酷かったチーム・アメジスト所属でなかったことは確かだ。少なくとも、自分の記憶にはエヴァに食われた光景などない。

 今にして思えば、そんな圧倒的戦力の前でよく生き残れたとは思う。

 いや、正確に言えば『生かされた』のだ。

 聞けば、あの時出撃した連邦の兵士は皆『生きていた』らしい。アレほどまでに激しい戦闘で死人が出なかったということは、恐らくは全てロンド・ベルの計算の内だったのだろう。
 圧倒的な戦力を見せ付けての戦意喪失や、コクピットを外しての攻撃。つまるところ、『手加減』されてた訳である。

 プライドの高いマーティオには、その事実があっただけで腹立たしかった。
 恐らくはロンド・ベルの数ある戦艦のどれかの艦長の作戦だったのだろうが、マーティオとしては、すぐにでもその作戦を考えた奴の腹を抉り、首を落としてやりたい気分だ。

 因みに、マーティオは不覚にも戦意喪失してしまった側である。
 200mを超えるガンバスターや、連邦屈指のエースパイロットであるアムロ・レイの二大コンボを見て、ライフルの引き金を引けなくなった側なのだ。

 



「ちっ、胸糞悪くなる」

 椅子から立ち上がると、フロアの出口に向かうマーティオ。

「あ、ベルちゃん何処行くの?」

「寝る」

 きっぱりと言い放つと、彼はずかずかと出て行った。
 妙に偉そうに思えるのがこの男の恐ろしいところである。






 それから数日ほど経過したある日のこと。
 数えるのが少ない休暇を貰えたマーティオは街に赴いていた。血液型Oの女性が行方不明になると言う、あの街だ。

「………何してんだろーな、俺は」

 誰に言うことなく、一人呟くマーティオ。
 元々、自分は軍とは無縁の生活をしていたはずだ。しかし、それまでの過程でもバラバラの生活をしていたと言う事実が彼にはある。


 闇医者に泥棒。


 特に後者については、ぶっちゃけて言えば楽しかった。
 仲間と一緒に銀行に忍び込んでは大金を盗み、美術館に入っては有名な絵を盗み、宝石店では欲しいと思った宝石をごっそりと盗んだ。


 しかし、あの時共に生死を分かち合った友は、もういない。


 『彼』は戦火に巻き込まれ、その命を落としてしまったのだ。
 マーティオの目の前で。
 
 嘗て世紀の大怪盗、現代のルパン、ドロボンからでも獲物を盗み返す奴等、とまで言われた怪盗は、事もあろうかただの流れ弾で命を落としてしまったのである。



 だが、自分はこうして生き残り、高い身体能力を生かして連邦軍に入隊。機動兵器すら動かせる権利まで得ることが出来た。今にして思えば、怪盗としての身分を隠すという理由もあったのかもしれない。

 しかし、同時に何時までも存在し続けるこの喪失感はなんだ?

(……あの馬鹿が死んだ日から、俺の時間は止まっちまった)

 気付けば地下鉄に足を運んでいた。
 時刻は昼手前。授業が早く終わった学生や、観光に使う客くらいしかおらず、かなり空いている。
 だが、そのがら空きの座席が、今の自分を映す鏡のように見えてしまい、思わずマーティオは視線を背けてしまう。

 それと同時に、あるチラシが目に入った。


『ウルトラマン、ありがとうキャンペーン! 今まで数々の凶暴な怪獣や侵略者の魔の手から地球を守ってくれたウルトラマンたちに感謝を込める期間です』


 ウルトラマン。その存在は耳にしたことがある。
 ロンド・ベルが編成される以前に現れた怪獣や宇宙人を相手に戦った、光の巨人。実際に見たことはないが、昔は日本を中心としてよく現れており、その度に地球を救ってくれたヒーローだ。
 人間のために戦っていった宇宙人、とも聞いている。

(ウルトラマン………あいつ、ああいうの好きだったな)

 苦笑するマーティオ。
 そうだ、確か『彼』は小さい頃、ウルトラマンのようなヒーローに憧れていたと言っていた。そっちについての知識は凄まじく、事あるごとにマニアみたいな知識を聞かされた物である。
 
「ウルトラマン、か」

 何処か自嘲気味に笑った、次の瞬間。

「!?」

 突然、地下を走る列車に衝撃が走った。
 振動でマーティオは座席から吹っ飛ばされ、列車の床に叩きつけられる。

 しかし素早く起き上がり、周囲を確認するだけの元気はあった。
 だが車窓から見ることが出来る光景は今まで走っていた地下の線路ではなく、まるで洞窟を髣髴とさせるような岩の塊で覆われた空間だった。

(地下鉄のイベントにしては突然すぎやぁしねぇか!?)

 だが次の瞬間、マーティオは見た。
 車窓から僅かに見ることが出来るその巨大なシルエット。まるでアリを連想させる力強いアゴ。両肩から生える角。見ただけで『異形』だと思える。

「! そういえば、さっきのチラシ!」

 先程のウルトラマンが映っていたチラシに目をやる。すると、其処には目の前と同じ異形が、二体のウルトラマン相手にしている写真があった。横にはライオンみたいな髪とハサミの両腕を持つ奴が、同じく映っている。

 其処にはこう記されていた。

「アリの様な特徴の怪獣は大蟻超獣『アリブンタ』。隣にいるのが地底エージェント『ギロン人』。アリブンタはO型の血液を好み……!?」

 血液型Oの行方不明者事件。
 そして地下鉄ごと貪ろうと言うこの状況。そしていい具合で情報をくれたチラシ。
 これらを照らし合わせて得られる結果は、ずばり一つだ。

「一連の事件はあいつが犯人ってわけかい……探偵でもないのに事件解決しちゃったぜ。お巡りさん助けて、プリーズ」

 ちょっと現実逃避しても、アリブンタは止まってくれない訳である。
 薄情な現実に戻ったマーティオの意識は、脱出手段を探す。

「くそ!」

 扉にはこの状況を前にしてパニックになっている少ない乗客がいる。今にも食われようと言う状況なのだから仕方がないといえばそうなのだが、近づくアリブンタを前にして、腰が抜けてしまうのも事実である。

「ええい、くそ! さっさと開ける!」

 だが、そんな人様の状況を自分に合わせないのがマーティオのマーティオたる所以である。彼は非常用のボタンを押して扉を開けると、一目散に列車から逃げ出した。

「って、なんでお前が追いかけてくるんだこらああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 しかし、そんなマーティオを何故かアリブンタが追う。もしかしたら一番最初に列車から逃げたからかもしれないが、今は気にしてる場合ではない。

「ええい、蟻の化物の餌食になって殺されてたまるか!」

 手持ちの武器は手榴弾に携帯用の銃、そしてナイフ。しかし、ああいう馬鹿でかい怪物相手に銃は効果がないのはお約束だ。精々効果は豆鉄砲程度だろう。

(と、なれば手榴弾とナイフ……どうやってあんなの相手にナイフ使えってんだ!)

 幾らなんでも体格差がありすぎる。
 と、なれば残された手段は一つだ。

「よし!」

 頭の中でやることを整理すると、行動は素早かった。
 巨体で迫るアリブンタの追撃を振り切る為に洞窟の更に奥のほうにある小さな横穴に侵入。そこでなんとかアリブンタに諦めてもらおうと思ったわけだが、

「!?」

 横穴の入り口に無理やり口を突っ込んできた。大蟻超獣と呼ばれるだけあってその顎はやはり力強く見え、今の自分は蟻に捕食されようとしている哀れな小動物に思えてしまう。

 だが、不用意に口だけ近づけてきたのが失敗だ。
 ここを怪獣(正確には超獣だが)の墓標にしてやろうじゃないか。

「食らえ!」

 安全ピンを外し、素早く手榴弾をアリブンタの口へと放る。
 更に身を隠すと同時、アリブンタの口で爆発が起こり、その巨体を仰け反らせる。

「くそ!」

 だが、まだ完全に倒すには至っていない。
 やはりああいう化物相手では手榴弾一つでは役不足だったようである。

 手榴弾はまだ持ってきてあるが、近くの一発で仰け反らせる程度で終わるのなら、全部使っても効果は期待できない。

「こうなったら一か八か、零か百か!」

 ナイフを取り出し、横穴の入り口からアリブンタの様子を伺う。
 隙を何とか見つけて、ナイフで滅多刺しにしてやろうと言う魂胆である。

 だが、その隙を見つけようとした、その時だった。

「ほう、アリブンタを前にして恐れずに立ち向かうとは、見上げた奴がいた物だ」

「誰だ!?」

 聞いたこともない声が洞窟内に響き渡る。
 何事か、と思い周囲を調べる。が、何処にも変化は見られない。

「はっはっは!」

 不意に、目の前に怪人が出現した。アリブンタを怪物と呼ぶのなら目の前に突如現れた存在は正に『怪人』。どちらかと言うとその姿は人間に近い。

 しかも、そのライオンのような髪と両腕のハサミは、地下鉄内で見た物と全く同じであった。

「ギロン人か!」

 ナイフを構えるマーティオ。
 しかし、ギロン人は全く恐れる様子も見せずに喋りだす。

「ほう、この俺に対し、そんな物で勝てると思うのか?」

「喧しい! それを決めるのは俺だ!」

 ナイフの柄を力強く握り、一閃。ギロン人の胸を切りつけようと振るうが、

「無駄無駄」

 一瞬にしてその場から消え去ってしまい、すぐに背後に出現する。
 しかし、全く気配を感じられなかったと言うことは、単に後ろに回りこまれたのではない。

(瞬間移動!? そんな事が出来るのか!?)

 すぐさま後ろに回り、そのまま勢いをつけてナイフでギロン人を攻撃。
 しかし、やはり素早い瞬間移動でかわされてしまう。

「貴様はここで大人しくしててもらおうか。アリブンタに後で食われてもらうがね」

 その瞬間、マーティオの真上と真下から、まるで鋭い犬歯のように尖がった岩が出現し、そのまま彼を食らうかのようにして閉じ込めてしまう。正しく岩の牢屋だ。

「くっそ! なんだこれ!」

 試しに思いっきり蹴ってみるが、岩の牢屋はびくともしない。
 それどころか、どんどん押しつぶすようにして天井がマーティオに迫ってくるではないか。

「無駄無駄ぁ、貴様はそこで死ぬのだ!」

 余裕しゃくしゃくで言う辺り物凄くムカツク。しかも、ギロン人が笑い出すと同時、更に天井がこちらに迫ってくる。もう立つスペースすら確保できない状態だ。

「まさか人間相手にアリブンタが仰け反るとは思いもしなかった。だが、ここまでだ。貴様もアリブンタの『餌』として、大人しく食われるがいい」

 遂には寝ないとスペースが稼げないレベルにまで追い込まれてしまう。両手で天井を押し返そうと試みるが、やはりそう簡単に押し返せるような物ではなかった。

「くぅっ……!」

 肩が外れるのではないか、と思えるくらいに力を入れてみるが、やはりビクともしない。

 万事休す、か。

 力が抜け、天井を押さえる腕が大地に倒れこむ。
 それと同時、マーティオの視界がブラックアウトした。









――――おい! 何諦めてんだこの馬鹿!


 はて、誰かが俺を呼んでいる。
 一体何処の馬鹿だ。人様の安眠を妨げるとは、許してはおけん。


――――アホゥ、何が安眠だ。通り越して永眠する気かオメーは


 ……悪いか馬鹿。俺ぁ、もう疲れたんだよ。
 それに、お前に言われる筋合いはねーぜ。


 ……先に死んだクセしやがってよ。バーロー。


――――いや、そりゃあ悪かったけどよ。俺としては、お前がこのまま無力な虫けらみたく死ぬのが我慢ならないんだよなー

 
 何、どういうことだ?


――――オメーは史上最悪の性悪ヤローだ。そして、『やられたらやり返す』をモットーにするお前がこのまま死ぬ、と言うのは、そんなお前の『ダチ』である俺が許さないぜ。


 ……ったく、先に人生脱落した奴に説教されるたぁ、俺も本当に堕ちたモンだぜ。天下の怪盗イオともあろう、この俺『様』がよぉ!


――――そうそう。んでもって、俺はその相棒にして天下の怪盗シェル様なのさ。んでもって、『マーティオ・S・ベルセリオン』のダチ、エリック・サーファイスなのよこれが。


 ちっ、連邦に入ってどうにも腑抜けになってると思えば……当たり前じゃねーか。
 この天下の『怪盗イオ様』が、誰かの下で言うこと聞きながら働くってのは我慢ならん。くそ、何を考えていた当時の俺。恥を知れ。

 まだ、寝る時間までには時間がある。
 


――――そうさ、夜は俺たち泥棒様の時間。今はまさにその夜だ。その恐ろしさ、味あわせてやれ!


 ああ、そうだな。
 そうだった。

 だが、



「流石に、この牢屋から出る手段がないぜ。どうっしろってんだエリックよ」

 目が覚めて早々、彼は現実を見る。
 岩の牢屋は相変わらず健在。ギロン人は見当たらないが、

「って、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」

 牢屋のドまん前には、アリブンタがいた。
 しかも、巨大な顎を開いている。牢屋ごと自分を食べる気だ。間違いない。

 しかし、コレほどまでに近づかれているのなら、逆にチャンスと考えよう。
 この至近距離だ。せめて目玉を銃でぶち抜くくらいのことは出来るはず。

「俺様の恐ろしさを身に染みて思い知れ!」

 何者をも恐れない瞳。目の前にいる巨大な力に対しても、何の恐れも抱かずに向かっていける力強く、何処か危なささえ匂える眼。

 そんな何時もの調子に戻ってテンションMAXのマーティオ。だが、彼は見た。

「む?」

 アリブンタが動かない。よく見れば片腕がもがれており、瞳には生気が見られない。開けっ放しの顎が情けなく見えるほどだ。

「……もしかして、既に死んでる?」

 問いかけにはアリブンタは答えない。だが、手榴弾を顔面で食らっても仰け反る程度で終わった怪物相手にここまでのダメージを与えることが出来るとは。

「……人間じゃねぇな。かといって、連邦の機動兵器というわけでもなさそうだ……馬力じゃコイツの方が上のはずだ」

 そんな事を呟いた、その時だった。
 突如として岩の牢獄にひびが入り、一瞬にして砕け散る。このチャンスを逃さないマーティオは素早く牢屋から脱出。状況を把握するため、思考に入る。

(はて、何だ今のは……流石にギロン人がわざと脱出させたとは考えにくいし……)

 思考に入った直後、そのギロン人が派手に転がって来た。
 地面に叩きつけられつつも何回も転がっていき、最終的には岩の壁と激突する。流石の瞬間移動能力も、集中しないと意味がないようである。
 だが、あの状態で集中しろと言うのも酷な話である。

「お、おのれぇ……!」

 ギロン人は相当痛めつけられたようで、牢屋から出てきたマーティオのことなど気付いていない。いや、そんな余裕すらなかったのだ。
 目の前にいる最大の脅威。その圧倒的存在感と対峙するだけで、ギロン人は精一杯だったのである。

「あれは……!」

 そして、そのギロン人の視線の先。マーティオがすぐに視線を移すと、そこにはまるで太陽のような光と圧倒的存在感に満ちた『存在』があった。

 そして、マーティオはその存在が何なのかを知っていた。
 エリックによく聞かされていたから、その分覚えている。実物は今まで見たことがなかったが、世間ではその存在は知っていて当たり前。

「ウルトラマン……!? なんで、こんな地下に」

 その存在、『ウルトラマン』はマーティオを一瞥すると同時、一度うなずいてから話し出す。

「どうやら、無事に出てこれたようだな。良かった」

「……テメーが俺を牢屋から出したのか?」

 ああ、と頷いてから、その存在は再び喋りだす。

「私の名はゾフィー。本当は君がアリブンタに襲われそうになった時に助けるべきだったと思ったが、君が爆弾を使ってまでアリブンタに立ち向かうとは思わなかった」

 だから、

「私は、その勇気に応える働きをしよう」

 ゾフィーが構えると同時、ギロン人は両方のハサミを構える形で大鎌を取り出す。
 外見は普通の鎌だが、その曲刃は、見るからに鋭い。見ただけで自分の身体がばっさりと持っていかれたのではないかと錯覚するくらいである。

 その大鎌を、本当にハサミで挟んでいるだけなのか疑問に思える程に器用に振り回してみせるギロン人。

「消えろ!」

 ギロン人が鎌を構え、ゾフィーに襲い掛かる。
 それと同時、ゾフィーも構えるが、

「おら」

 何時の間に動いていたのか、マーティオがギロン人の足を払い、その場にコケさせる。なんとも間抜けな図だが、顔面から床に体当たりしたのは痛い。

「くっ、貴様……!」

「瞬間移動しないってことは、相当痛めつけられていたと見た。じゃあ、さっきの逆襲と行くか」

 ギロン人から強引に鎌を奪い、その柄尻をギロン人の顔面に叩きつける。
 更に素早く大鎌を回転。そのまま振り下ろし、刃をギロン人の腹部に容赦なく突き刺した。

「この俺のモットーを教えてやる」

 ぎらぎらとした瞳を輝かせ、マーティオは言った。
 それは先程まで牢屋に押しつぶされそうになり、心身ともに潰されそうになった男の顔などではない。正しく別人を見ているかのような光景だった。

「やられたら、何倍にもして屈辱を返す。例え相手が誰だろうとな」




後編へ続く


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