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紫色の月光

紫色の月光

後編

三話後編  ~要塞からの脱出~



 二つの黒い影がガーディアンの巨大要塞からドンドン離れて行く。一つはカイトが乗るダーインスレイヴ・ダークネス。もう一つはクォヴレーが駆るディス・アストラナガンだ。

「流石にしつこいな、ったく!」

 そしてそれを追う四つの光が要塞から放たれる。一つはカイトが見たことのある純白の機体。相変わらず恐ろしいスピードで追ってくるゲイザーのガラディーンだ。

「カァァァァァァァイィィィィィィィトォォォォォォォっ!!!!」

 前回の屈辱がやはり彼の苛立ちを増加させていた。その為、ガラディーンは一気にMAXスピードで二人を追いかける。

「!?」

「速い!?」

 他の3機を一気に置き去りにしてガラディーンが突っ込んで来る。しかも、見る見る内に2人との距離が詰まっていくではないか。

「追いつかれる……!」

 あの速さは異常だった。もはや狂っているとしか言いようがない。

「そんなにご希望なら――――!」

 ダーインスレイヴが方向転換する。そのウィングからひょっこりと顔を覗かせるフェザーブラスターに光が集って行く。

「相手してやるよ!」

 フェザーブラスターの左右の銃口から光が放たれる。その二本の光の柱は真っ直ぐガラディーンに向かって行くが、それを見てもガラディーンのスピードが落ちる事はなかった。

「はああああ……!」

 ガラディーンが両手の平を差し出す。そこから精製された二つの黒の球体が、まるで蛇のようにうねりながらビーム砲へと向かっていく。

 次の瞬間、どちらからでもなく光のビーム砲と黒の球体がぶつかりあった。
 その衝撃で大きな爆発が生まれるが、ガラディーンはそれでも止まる事を知らない。

「来るか!」

 爆風を切り裂くようにしてダーインスレイヴに突撃してくるガラディーンの手には、やはりあの隼の剣が力強く握られていた。

「その目障りな顔を切り落としてやる!」

 ゲイザーが吼える。
 
 それに応えるかのようにガラディーンが白の彗星と化して突撃していった。

「ブレイククロー……!」

 しかし、ダーインスレイヴはそんなに簡単には刃を受け入れようとはしない。迎撃する為に、その右手から漆黒の鉤爪を生やしたのだ。

『ぶっ殺す!』

 カイトとゲイザーが全く同じタイミングで全く同じ言葉を放った。
 そして全く同じタイミングで同じ場所を攻撃しようとし、同じようにして攻撃を受け止める。

(何なんだこの二人―――!?)

 この光景を見ていたクォヴレーは一種の寒気を感じた。
 さっきからこの二人の動きが気持ち悪いくらいにシンクロしている。まるで鏡に映る自分自身と戦っているかのようだった。

(果たして実力が互角なだけで此処まで同じ動きが出来る物なのか!?)

 嘗て、彼は実力が互角と言えるようなライバル同士の戦いと言う物を何度も見ている。しかし、この二人の場合はそれに当てはめていいものなのだろうか。

 だが、少なくとも今の状況ではこう思った。

(残り三機を何とかしてかわさなければ……!)

 前に戦った時、彼はサテュロスが乗る機体に敗北し、アシュロントによって牢に入れられた。詰まり、今やってくる三機は未知の戦力を秘めているのだ。

「!?」

 だが、その三つの内の一つが一気に加速してダーインスレイヴとガラディーンの方に突撃してくる。

「だああああああああああああああああ!!!」

 その獣の様な咆哮。
 最初は誰かと思ったが、徐々にカイトの脳の中にある人物の映像が現れる。

「シンシアか!」

 やって来た赤と黒のカラーリングの機体がダーインスレイヴとガラディーン向けて武器を振り上げる。味方がいようとお構い無しだ。
 果たして周りが見えていないのか。それとも元からこういう奴なのか。

 しかし、シンシアが乗る機体が振り上げた武器はカイトを驚愕させるには十分すぎた。

「いいいいいいい!!!? チェーンソー!?」

 その刃が凄まじいスピードで回転しながら振り下ろされる。

『ちぃ!』

 カイトとゲイザーが又しても全く同じタイミングでシンシアから離れる。
 その直後、チェーンソーが空を切った。

「ちぃ!」

 シンシアが乱暴な舌打ちをすると、またしてもダーインスレイヴ目指してチェーンソーを振り回す。

「あんたなんか、あんたなんかこのヴァンパイアが八つ裂きにしてやるよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 前と比べて明らかに口調に性格が変わっている。
 この豹変っぷりには流石に驚くしかない。車に乗ると性格が変わる人がいると聞いた事があるが、これもそれに部類されるのだろうか。

「な、何があったんだアイツ?」

 しかし、あのヴァンパイアは問答無用でこちらをバラバラしにようと襲い掛かってくる。

「シンシア、そいつは俺の獲物だああああああああああ!!!」

 だが、更に横からゲイザーのガラディーンが襲い掛かってくる。

「退いてろ、カイト」

 すると、自身の後方から高エネルギー反応が表示された。それを確認した瞬間、彼はすぐさま上昇する。

「逃がすか!」

「死ね死ね死ね死ねええええええええ!!!」

 ゲイザーとシンシアは他が全く見えてないらしく、お構い無しにダーインスレイヴを追う。

「メス・アッシャー……」

 だが、そんな彼等を狙ってディス・ストラナガンは両肩から二つのビーム砲を出現させる。その銃口に光が集っていき、ガラディーンとヴァンパイアを狙う。

「マキシマム・シュート!」

 左右のメス・アッシャーから凶悪な咆哮が轟く。二本のビーム砲はそのままガラディーンとヴァンパイアを狙って真っ直ぐ進むが、

「何!?」

 突然、その軌道が曲がった。
 まるで何かを避けたかのように。

「美しき蝶の前にはいかなるビームも避けてしまう物だよ。その美しさを傷つけたくないからね」

 良く見ると、先ほどまでメス・アッシャーの光が向かっていた先に、アシュロントが乗る妖しい光を放つ機体がいた。まるで蝶のような羽が生えてるその機体の掌には、どういうわけか蝶がいる。

「この『パピヨン』の前にはどのような遠距離攻撃も無意味。そして接近戦は君の『ミノタウルス』の出番だ、シュラ!」

 アシュロントが駆るパピヨンがびし、とポーズを決めると、その真後ろからシュラが乗る真紅の機体が飛び出した。

 その両手には馬鹿でかい斧の柄が握られている。

「ぶった斬りだあああああああ!!!」

 凄まじいスピードで斧が振り下ろされる。だが、ディス・アストラナガンはこれを紙一重で回避。破壊力抜群の斧の一撃を受けたら無事ではすまない。

「ちぃ!」

 舌打ちしつつも、ディス・アストラナガンの手にショットガンが握られる。
 その銃口は、真っ直ぐミノタウルスを狙っていた。

「喰らえ!」

 ショットガンが火を噴いた。
 しかし、シュラは斧の柄を握りなおしてから、

「ぬおりゃあああああああああああ!!!!」

 その馬鹿でかい刃を一閃させる。
 すると、刃から台風の様な暴風が発生し、それがショットガンの弾丸を一気に木っ端微塵にする。

「!?」

 そしてその暴風はこちらに向かって襲い掛かってくる。
 クォヴレーはその一撃を食らってはいけないと思い、最大速度で回避に移る。しかし、その先には、何時の間にかパピヨンがいた。

「美しく散れ!」

 その両掌から妖しい光が、まるで噴水のように溢れ出す。

「フェアリー・スマッシャー!」

 その両掌からエネルギーの渦が発射される。そのエネルギーの渦の中には無数の光の蝶で溢れており、相変わらず妖しげな光を発し続けていた。

(当たる!?)

 避けられない、そう思った彼は思わず目を伏せてしまったが、

「させるかよおおおおおおおおお!!!!」

 その間にダーインスレイヴが割って入ってきた。その胸部には大砲の様な銃口が出現しており、いつでも発射できるように地獄の光がチャージされている。

「インフェルノ・スマッシャー!」

 地獄の咆哮が轟いた。
 双方の光はどちらからでもなくぶつかり、大爆発を起こす。

「ちぃ!?」

「むぉ!?」

 その爆風の衝撃波で双方ともにぶっ飛ばされる。幸いながら大きなダメージは受けていない。

「くそ!」

 ダーインスレイヴはぶっ飛ばされつつもその場で止まる。
 すると、今度はヴァンパイアがこちらに突撃してくるではないか。

「だあああああああああああ!!!」

 チェーンソーの刃が猛回転しながら襲い掛かってくる。しかし、ヴァンパイアの周囲に何時の間にか複数の黒い影が出現している。

「行け、ガン・スレイヴ!」

 それはディス・アストラナガンが射出した兵器だった。その一つ一つに銃が備わっており、その銃口は全てヴァンパイアに向けられている。
 次の瞬間、それらが一斉に火を噴いた。

「ダークソード……!」

 そしてダーインスレイヴはダークソードの柄を抜き、ヴァンパイアに突撃する。普通なら簡単に避けられる所だろうが、今は周囲に浮かぶガン・スレイヴが邪魔で動きにくい状態。正に絶好のチャンスだった。

「あ―――」

 ガン・スレイヴが全て撤退したかと思えば、一瞬にして胸部にダークソードが突き刺さる。

(よし!)

 これでシンシアを倒した、と思いコクピット内で思わず笑みを浮かべるカイト。

「……!?」

 だが、次の瞬間。カイトとクォヴレーは信じられない光景を見た。
 胸部にビームソードが突き刺さっているにも関わらず、ヴァンパイアの両腕がゆっくりと、しかししっかりと動き出したのだ。

「ふ……あははははははは……!」

 ヴァンパイアから力のない笑い声が聞こえる。
 すると、突然カイトの目の前にシンシアの姿が映し出された。向こうから強制的に通信を受けているのだ。

「何をする気だ、シンシア!」

「見せてあげる……この機体がヴァンパイアと呼ばれる訳を!」

 すると、ヴァンパイアの両手がダーインスレイヴの両手を掴み、ダーインスレイヴの離脱を許さない。

「!」

 何をする気だ、と思いシンシアを見ると、其処には信じられない光景が広がっていた。
 ヴァンパイアのコクピット内から、まるで轆轤首の様な黒い影が出現している。その禍々しい黒い顔が不気味に笑うと、口元に鋭そうな歯が見えた。

「まさか!」

 そのまさかだ。

 黒い影が凄まじいスピードでシンシアの首元に噛み付き、そこから血を吸っているのである。想像を絶する光景だった。

 吸い終わった後、黒い影はまるで霧のように音もなく消えて行く。しかし、その霧がコクピット中に浸透して行き、

「!?」

 なんとダークソードが突き刺さったまま、ヴァンパイアが完全復活を果たした。しかも、両腕が握られているので離れる事が出来ない。

「なら!」

 壊すまで、とフェザーブラスターを至近距離でヴァンパイアに向ける。

「食らえ!」

 フェザーブラスターの銃口から光が発射される。それはまるで波に飲まれるかのようにしてヴァンパイアに命中するが、それでも破壊できたのは腕だけだった。しかし、離脱するなら腕を破壊するだけで十分である。

(性能が上がったってのか!? パイロットの血を吸う事で……!)

 成る程、血を吸ってパワーアップするからヴァンパイアと名付けられた訳だ。本来ならヴァンパイアの上半身が消し飛んでいるはずだったのだが、腕しか破壊できなかった事がその証だろう。

(って、感心してる場合じゃ無い!)

 今度はガラディーンとパピヨンが一斉に襲い掛かってくる。クォヴレーの方を見てみると、彼はシュラの相手で精一杯のようだ。

「なら!」

 ダーインスレイヴがガラディーンとパピヨンを無視してアストラナガンの方へと飛んで行く。

(1対1で時間がかかるんなら……2対1で1人ずつ潰す!)

 ダーインスレイヴの右手から漆黒の鉤爪が生える。それを前に突き出した状態で、ダーインスレイヴは弾丸の様なスピードでミノタウルスへと突撃していく。

「!?」

 シュラが接近してくるこちらの存在に気付いたようだが、もう遅い。
 下から、まるでアッパーの様に、下から上へと装甲を一気に抉られる。その衝撃で、コクピット内の様々な電子機器が一斉に悲鳴を上げた。しかも抉られた傷跡から外の光景が見えるほど傷は深い。はっきり言って、シュラが生きている事事態奇跡に等しい傷跡であった。

「うお!?」

 一瞬、彼には何が起きたのかまるで分らなかった。
 強いて言えば自分がダメージを受けた、と言う事くらいである。

「!」

 そして見た。今度はディス・アストラナガンがこちらに向かって猛スピードで突撃してきたのだ。

「Z・Oサイズ……!」

 至近距離まで一気に近づくと、ディス・アストラナガンが素早く、巨大な大鎌を振り上げる。

「切り裂け!」

 クォヴレーが叫ぶと同時、ディス・アストラナガンがZ・Oサイズを一気に振り下ろす。

「うおおおおおおおおおお!!!!?」

 シュラの機体はその一撃をモロに受けてしまう。先ほどのダーインスレイヴの一撃が応えていたのもあるだろう。
 しかし、それでもまだシュラと彼の機体は死なない。どういう材質の金属を使われてて、尚且つどういう耐久力をしているのか不思議に思えるほどボロボロな状態なのだが、まだ戦えるのだ。

「野郎、野郎おおおおおおおおおおお!!!!」

 攻撃の際に生じた衝撃でシュラの頭から血が流れている。それで興奮したのか、シュラは斧を素早い動作でディス・アストラナガンに向ける。

「そして――――」

 だが、ディス・アストラナガンの攻撃はまだ終わってはいなかった。
 大鎌の柄尻をこちらに向けたかと思えば、その柄尻が銃口になっているではないか。しかも、その銃口は丁度コクピット部に向けられている。

「撃ち砕け!」

 Z・Oサイズの柄尻から一発の弾丸が派手にぶっ放される。
 その弾丸は真っ直ぐシュラがいるコクピット部分に着弾。ダーインスレイヴの一撃や先ほど切り裂かれた一撃でかなり装甲を抉られた為、その弾丸からシュラを守る物は何一つなかった。

「シュラ!」

 アシュロントが叫ぶが、もう遅い。

 Z・Oサイズからもう一発弾丸が放たれる。それはシュラがいたコクピットに入り込み、シュラの機体を木っ端微塵にしてしまった。
 中にいるシュラと運命を共にして、だ。

「これで……ようやく一つ!」

 ガラディーンの隼の剣を受け流しながら、カイトが呟く。
 1人でも手強いガーディアンの精鋭4人の中の1人を倒したのだ。コレで少しは負担が少なくなるはずである。

 そもそも、彼等の今の目的は彼等を倒す事ではなく、逃げる事だ。

 倒せないにしろ、隙あらば逃げる気満々なのである。まあ、相手はやはり追いかけてくるだろうが。

「!」

 しかし次の瞬間、何処からか巨大な火球が二つ飛んでくる。飲み込まれたらダーインスレイヴすら灰にしてしまいそうな程大きな火の塊である。

「ちぃ!」

 ダーインスレイヴとガラディーンは同時にコレを回避。するとその直後、ゲイザーが怒りの篭った声で叫ぶ。

「アトラス、邪魔するな!」

 その言葉に反応し、思わず他の面子も動きを止めてしまう。

「アトラス……?」

 よく見てみると、要塞のハッチの方から赤い機体が急接近してきている。いや、赤と言うよりは『紅蓮』。そのカラーリングは燃えさかる紅蓮の炎の様な色だった。

「邪魔するな、か。だが俺達は『神』からあの二人を抹殺せよ、という命令を受けている。それならば俺はこの『ガデュウセン』で奴等を灰にするのみ!」

 ガデュウセンの真上に一つの大きなリングが出現する。それが猛回転し始めたかと思えば、そのリングが突然燃えさかり始めた。

「行け、バーニング!」

 次の瞬間、リングから燃えさかる紅蓮の炎が、まるで竜のように二人に襲い掛かってきた。

「!?」

 直線的に襲い掛かってくるその炎は確かに協力だろう。しかし、その分避けやすい。最初は驚いたが、避けるのには苦労しない。
 しかし二人が避けた、と思った瞬間。突然炎が曲がってきた。まるで逃げ惑う獲物を捕らえようとする肉食動物のようだ。

「何!?」

 思わず驚きの声を上げる。
 それは炎の軌道が変化した事だけではなく、ガデュウセンの後方から次々と光がやって来た事だった。その一つ一つがガーディアンに所属する特機なのだと気付いたのは数秒してからだった。

「やばいな……流石にあの数を相手にしていたらこちらがやられる!」

「どうするカイト。向こうは既に攻撃態勢に入っているぞ」

 下手をしたら一人でも十分手強いガーディアンの特機が数にして30近く。正直、全員を相手にしていたら何時かはやられる。
 それならば、とカイトは一つの提案をした。

「こうなったらもう逃げるしかない!」

 すると、ガデュウセンの強烈な炎を回避しながらダーインスレイヴは次元トンネルの出口へと方向転換する。

「行くぞクォヴレー! 奴等に構っていると身が持たないぞ!」

 それに応えるかのようにディス・アストラナガンも出口へと向こう。
 しかし、ガーディアンの機体の中には彼等の機体以上のスピードを持つ機体が幾つも存在している。それぞれが特徴的で個性溢れる機体なのだ。幾つも存在していてもおかしくはない。

「待て!」

 その中の一つがゲイザーの駆るガラディーンだ。他と比べて比較的近い位置に居たのもあるが、それでもぐんぐんと二人に迫っていく。その速さはまるで隼だ。

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 ゲイザーの邪眼が、まるで炎のように活発に活動する。そのエネルギーを元に、ゲイザーは自身の想像力を種として一つの光の破砕球を作り出した。
 ガラディーン――――ゲイザーの最強技、『ヴァニシングミーティア』である。

「!? あの野郎!」

 猛スピードで追いながら高エネルギーの破砕球を作り出していくその光景を見たカイトは、この一撃をなんとしても防ぐ為に邪眼のエネルギーを沸騰させる。

「これで何とか―――!」

 ダーインスレイヴの左手に禍々しいオーラを放つ緑の光球が精製される。今のダーインスレイヴがガラディーンのヴァニシングミーティアに対抗できる唯一の手段、『ジェノサイドミーティア』である。

「消えてしまえ!」

 ガラディーンの破砕球が唸る。

「誰が負けるか!」

 ダーインスレイヴの破砕球が吼える。

「ヴァニシング――――」

「ジェノサイド――――」

 二人が言う言葉には少しのズレもない。そして互いのミーティアを放とうとする姿勢にも少しのズレもない。

『ミィィィィィティアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 互いの渾身の力を込めた光の破砕球が、激しい音を立てながら激突する。その直後、互いのミーティアがぶつかった際に生じた衝撃波が周囲の機体に襲い掛かる。

「く!」

 ディス・アストラナガンもその中の一機だ。なんとかして加勢したいとは思うが、ジェノサイドミーティアとヴァニシングミーティアがぶつかりあった衝撃のせいで視界が定まらないどころかまともに機体を動かせやしない。
 しかし、それはガーディアン達だって同じだった。ヴァンパイア、パピヨン、ガデュウセン等全員がディス・アストラナガンと同じように身動きできないような状態だったのだ。

「く……!」

 ダーインスレイヴのコクピット内でカイトは更に邪眼に力を込める。身体中が副作用で悲鳴を上げているが、そんなのを気にしていたら押し負けて消し飛んでしまう。

「―――!!!?」

 しかし突然。何の前触れもなくカイトの前に光が広がっていく。まるで彼を包み込もうとしているかのようだった。

 そして、ゲイザーの方でも同じような現象がおきていた。

「これは――――!?」

 邪眼に取り込むような数々の負の感情が積もっている光。しかし、それと同時に何故か母に抱かれているかのような暖かさも感じる事が出来る。

「―――――痛っ!?」

 不意に、強烈な頭痛が彼等に襲い掛かる。まるで世界が逆転したかのようだ。
 そして次の瞬間、目まぐるしいスピードで彼等の脳内に様々な映像が、走馬灯のように流れていく。

(これは―――!?)

 間違えるはずがない。映画のフィルムのように一部分一部分で区切られてはいるが、これらは全て過去の自分だ。

(思い出が溢れている! 俺とゲイザーのメモリーが邪眼の共鳴で入り混じっているのか!?)

 自分じゃ無い誰かが干渉してきているのが分る。まるで血液が逆流し始めているかのような、そんなザラついた嫌な感覚が彼等の神経に襲い掛かってくる。

『止めろおおおおおおおおおおおお!!!!』

 実際には数秒ほどの出来事だった。しかし、それが二人にはとても長い時間に感じられる。その分、この最悪の感覚が言葉にならないほどの苦痛を彼等に与えたのだ。

 だが次の瞬間、彼等の叫び応えるかのようにして彼等の力で押し合いがされていたミーティアが爆ぜた。


 爆発。

 轟音。

 衝撃波の波。


 それらが一気に周囲に居る者を問答無用で飲み込んでいく。それは発端であるダーインスレイヴにガラディーンも例外ではない。

「く!」

「おわぁ!」

 ぶっ飛ばされているのが分る。しかも衝撃の波が激しすぎて自力でコントロールしようにも抵抗が強すぎる。

「く―――おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 ダーインスレイヴとディス・アストラナガンはトンネルの出口へとぶっ飛ばされる。幸いな事に、彼等は何とか出口へとたどり着くことが出来たのだ。

 しかし、出口へとぶっ飛ばされたのは二人だけではなかった。
 ガラディーンを初めとするガーディアンの精鋭達何人かもまた、出口へとぶっ飛ばされてしまったのだ。





 この光景を、城に居るゼロムスは黙ってみていた。そして何人かがぶっ飛ばされたのを見届けた後、彼はサテュロスへと連絡を入れる。

「先に向かったヴィクター達からの連絡はまだか?」

 それに対し、サテュロスは正直に答えた。

『以前として何も。恐らく、先に逃げたあの二人相手に手間取っているか、もしくは殺されたか、または何かトラブルがあったのか……』

 兎に角色々な可能性が上げられる。
 だが、仮にもヴィクター達四人はガーディアンの精鋭なのだ。それがてこずる様な相手となると、手を打たねばならない。

「……『アルテミス』と『アポロン』に連絡を入れろ。大至急向こうの世界へと行き、奴等を抹殺せよ、とな。その後は予定通りに行う」

『了解しました』

 サテュロスへの連絡を終えたゼロムスは、見るからに豪華そうな椅子に腰を降ろす。すると、彼はグラスを手に取ってから静かに呟いた。

「これで万が一はあるまい……万が一は、な」




 続く



次回予告


塔矢「はいはい皆さんこんにちわ。次回からカイトさんに代わって主人公やっていく事になる刃霧・塔矢(はぎり・とうや)で――――痛い痛い痛い!!」

カイト「俺はまだ死んじゃいねぇ。勝手に故人みたいに言うなハギトー」

塔矢「ちょ、何で貴方まで俺の事をハギトーって言うんですか!?」

カイト「ハギリ・トウヤだから略して『ハギトー』。簡単な話だ」

塔矢「ううう……普通の高校生ライフを過ごそうかと思って山から降りて来たのにクラスの皆からはハギトーと呼ばれ、転校生の相良君は下駄箱を爆破するわ、変な警官のネルソン警部には逮捕されるわ、挙句の果てには変なおっさんがいるわで……俺の平和な高校生ライフは何処にぃぃぃ!?」

クォヴレー「……次回、スーパーロボット大戦Final・X第四話『自称、超落ちこぼれ忍者の一日』」

塔矢・カイト『あ、良い所取り!』

クォヴレー「……いや、言いたいなら早く言えばいいのではないのか?」


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