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カテゴリ:アガルタ
「高僧の生まれ変わりチベットの少年」 イザベル・ヒルトン 三浦順子・訳 2001/9 世界文化社 原書1999 ほとんどチベット関連書籍のなかった70年代、チベット・ブームに火がついた80年代、多用な評価と曲解・批判も相次いだ90年代、そして2000年代になるとあらゆる方面からのチベット本が読めるようになった。その中でも、この本は、ちょっと異質なものがチラっと見える。 現ダライ・ラマはチベットの神権政治を司る第14代目の支配者である、ひょっとしてその最後を飾る人物になるかもしれないが。 p18 巻頭でいきなり、こうくるからぎょっとする。でもそれは本当だ。 現ダライ・ラマはしばしば自分が最後のダライ・ラマになるかもしれないと述べている。パンチェン・ラマ騒動で、この予言はますます現実味を帯びてきたようにも見える。どうしてダライ・ラマ制度が終局を告げると思うのかと私はダライ・ラマに尋ねた。 「ダライ・ラマ制度が持続しようがしまいが、それほど重大な問題とは思えない」とダライ・ラマは答えた。「すべてはチベット人次第だ。20年後、チベット人がダライ・ラマなど無意味だと思うなら、ダライ・ラマ制度もおしまいになる」。彼は微笑んだ。「時折思うのだが、現在のこの愚かなダライ・ラマ、この仏教僧は最良のダライ・ラマでないにしろ、最低でもなかったのではないかとね。ならば別のダライ・ラマが現れて、権威を地に落とすような真似をする前に威厳をもって引き下がったほうがいいのではないだろうか」。彼は朗笑した。「新たなダライ・ラマが生まれるとしても、中国支配地域に生まれることだけは決してない、そのことだけははっきりしている」 そうなった場合、いっさいの論議を鎮めることのできるパンチェン・ラマの権威なしで、どうやって次のダライ・ラマを選ぶことができるのか? p408 最終章まで、この問題が持ち越される。そして全てのキーワードはパンチェン・ラマについてである。この本が特異な雰囲気をもっているのは、国際ジャーナリストの英国女性が書いているからだろうか、ちょっとなにかが違う感じがする。それは、「シャングリラ症候群」などというダライ・ラマの兄の言葉などを紹介するくだりでも感じた。 多くのチベット人が感じていることだが、西洋人はチベットを貧欲さや野心に汚されることもなければ、醜い政治によって堕落することもない、清浄にして霊的な地、いわば宗教的ディズニーランド扱いしている。確かにチベットは西洋人の夢想の中で根強く神話化している。西洋が東方に向かって拡大政策をとっていた18・9世紀、チベットの入国は困難をきわめ、僻陬の地であることが、ロマンチックで非現実的な幻想---後にシャングリラ伝説の名前で知られる---にさらに拍車をかけた。ラサは西洋人冒険家にとって、禁を犯しても到達すべき憧憬の地となり、チベット仏教は西洋の好事家たちにとって霊的な遊び場となった。p31 私はこの英国女性ジャーナリストのあまりに直裁な物言いにはあまり賛同はしない。現にダライ・ラマ自身が、「シャンバラはあります。目に見える形であります」と言って、必ずしも「シャングリラ症候群」を一笑に付してしまっているわけではない。もちろん、私はちょっと能天気な「シャングリラ症候群」のひとりであり、もっというなら、「アガルタ症候群」がこのブログのテーマである。あまりに、現実的なチベット民衆の苦悩ばかりを読まされるなら、さっさとこちらに「逃げて」いきたい、とさえ思う。 そもそも、この本のテーマは、そのパンチェン・ラマ制度の成り立ちと経過、そして現実、二人存立してしまっている幼き現パンチェン・ラマたちのことだ。あまりに皮肉な現実を見ていると、日本の女性天皇問題、皇位継承権問題などが想起されてきて、読書としては急に醒めるやら、よりわが身の現実を考えるやら、チベット密教どころではないところへ問題が波及していきかねない。 パンチェン・ラマ問題に焦点を絞った本ではあるが、より客観的なジャーナリズムに偏りすぎていて、折れた花枝の詳細にこだわるあまり、まだ、そこにただよっている花の香りを伝えることを、忘れてしまった感がある。取材者自身が気がついていないのであろう・・・。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.03.31 12:50:24
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