ヤバイ噂話、悪口、デマを口にする心理
ヤバイ噂が口伝で広まってしまう仕組みゴシップ話を始める際の注目点は、慎重な手続きが必要だということ。すぐには具体的な話を切り出さず、「いうのを忘れていたんだけれどもね」「ここだけの話なんだけれどもね」などと始める。相手が「えっ何」と関心を示したら、「実は社長が経理のAさんとデキているって・・・・」という話につなぐ。この一連の過程で、社長とAさんというターゲットの確認を行い、そのターゲットに「不倫=ふしだら」という“評価”を与えて準備完了というわけだ。そして「二人が仲良く歩いているとこを見た」といった“説明”が加えられたり、「実は私もそう思っていた」というような“支持”が与えられる。また「そういえば、よく二人だけで打ち合わせしているじゃないか」と拡張させてみたり、「あんなケバイ格好で会社に来るAさんの感覚が信じられない。それを許している社長もおかしい」と“誇張させた感情”を示したりすることで真実味が増幅されていく。ここで聞き手側のターゲットの評価に対する「私はそうは思わない」という反対意見の表明が返ってきたら「そうなんだ」となって噂話は中断されます。話を切り出した側は、相手が自分に同調してくれる仲間内の人間かどうかを準備の段階で確認しているのです。いい換えると、相手が自分の仲間のなかに入ってくれるかどうかで「内集団」「外集団」が形成されるわけです。とくに、「女性は噂好き」といわれるが、もしかして、この“仲間づくりの機能”が関係しているかもしれない。仲間をまとめる「集団の凝縮性」の要素には「保護」「安全」などとともに「共通の敵」があって、そうしたヤバイ噂をささやき合うこと共通の敵をつくり、お互いの仲間意識を高めているのです。ことわざに「人の噂をいうは鴨の味がする」とあるように、噂、それもヤバイ噂ほど口にするのは楽しいものなのだろう。それで仲間内の結束を固められるのならなおさらだ。ビジネスマンが仕事帰りに、社内の噂話を肴にしながら楽しそうに一杯やるのも、そんな深層心理が働いているのかもしれない。川上善郎 成城大学文芸学部教授 著書「うわさが走る、情報伝播の社会心理」「PRESIDENT」2011年08月01日号