417961 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

イシュカ篇 (1)

  愛すべき魔性たち
モクジ | NEXT

「あん・・・ロマちゃんっ・・・・気持ちいい~~。」
そんな甘えた声で、体を少し揺らしながら、彼はベッドの上で満足そうに目を閉じている。
私は彼の髪を、丁寧にブラッシングしている。
金色でサラサラの綺麗な髪。でも・・・。
「・・・・イシュカ、あのね。」
「なぁに?ロマちゃん。」
「しっぽ、出てる。」
「!!」

彼は真っ赤になって、パッとお尻に手をあて、ごにょごにょした。
お尻からはみ出ていた「しっぽ」は、何とか消えたみたい。
どうやったんだろう?
イシュカはまだ赤い顔で、きまりが悪そうに私の顔をうかがっている。
「それって、恥ずかしいことなの?」
「えと・・・・・・気持ちいいとね、出ちゃうの・・・・しっぽ。」

“しっぽ”は消えたけど、今度は子犬みたいなベロがはみ出た。
しかも、ちょっと上目づかい+ほんのり潤んだ瞳。
くぅぅ!
犯罪的に可愛い!!
「も~~しっぽでもツノでも、はみ出ていいのに~~☆」
「ツノは、ないよぅ。」

私は不覚にも、彼を抱きしめて頭をぐりぐり撫でてしまった。
彼が「くふん」と小さくのどを鳴らした。


私の家は、イギリスの片田舎。
彼が我が家へやってきたのは、2年前。
職業:夢想家、趣味:妄想な、私のお父さんに連れられて・・・

「いいかぁ、ロマ!!この世に何頭、馬がいると思う?!年に何十万・・・いや、何百万って、生まれ続けてるんだぞ!!」
はぁ・・・。
「って事はだ!!その中に一頭ぐらい、言葉を話す馬だっているはずだ!!」
いや、そこは飛躍しすぎでしょう。
「そこで、特別に譲り受けたのが、こいつだ!!!」
・ ・・・・つまり、またダマされて買っちゃったのね・・・・。

何の変哲もない、敢えて言えば毛づやが少しいいかな位の、見た目フツウな子馬の名前は「イシュカ」に決まった。
で。もちろん・・・・・
お父さんが大枚ハタいて買った「話す子馬」は寡黙な奴だった。
「・・・しゃべらんな~~。」
当然です。
「でもな、霊気が足らないと口が利けないって、あの婆さんも言ってたし。」
そう言うと、お父さんは突然ペットボトルを取り出した。
ぐびぐび。。。
「・・・ちょっと!子馬に"アルカリイオン水"飲ませてどうするのよ!!」
「違う!スイスの"アルプス天然水"だ!なんかこう、霊気がこもってそうじゃないか。わっはっは。」

ついていけない・・・・。がっくり。

そんなお父さんが飛行機事故で亡くなったのが、1年前。
どうしようもない人だったけど・・・私のたった一人の家族だった。
子馬に毎日「アルプス天然水」飲ませたりして、ほんと馬鹿な人だったけど。
・ ・・・・・・・。
お葬式が済んで、人気のない広い家に、たった一人。
毎日リビングで、寂しくてテレビつけて、むなしくて、泣いていた。
そうしたら、ある日突然、背後に気配がして・・・
「ロマ・・・・ロマちゃん・・・・。」
後ろから抱きしめられた。
「泣かないで・・・・。」
ぎょぎょ!!
若い男の手!!!
「は・・・っ、離して、この変質者っ!不法侵入!!婦女暴行!!!」
「ロマちゃん、僕だよ?」

私の顔をぐいと持ち上げ、のぞき込む男。
「・・・・どちら様?」
年は18くらい。金髪に、淡い空色の瞳。
変質者のくせに、かっこいい。ちょっとむかついた。
「分からないの?イシュカだよ!」
・ ・・・・!!
変質者な上に、妄想狂だわ、こいつ!
それとも、若いくせに現実と向き合えない、虚言癖かしら?!
「何言ってんの!イシュカは、うちの子馬の名前!!」
「だから~。お父さんが言ったでしょ。話す子馬だって。」

絶句。

モクジ | NEXT


© Rakuten Group, Inc.