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音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

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2010年07月28日
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テーマ:Jazz(1958)
カテゴリ:ジャズ

ズートのサックスをゆったりしっかり聴く1枚


 ズート・シムズ(Zoot Sims)言えば、明るいスイングを思い浮かべる人も多いかもしれない(その典型の一つとしては、『ダウン・ホーム』が挙げられよう)。けれども、本盤『ズート・シムズ・アンド・ザ・ガーシュウィン・ブラザーズ(Zoot Sims and the Gershwin Brothers』は、明るさよりもしっとり系、スイングするノリよりもじっくり聴かせる、そんなタイプの1枚だと言える。

 テーマはガーシュウィン兄弟。アルバム・タイトルには“アンド”とあるが、別にガーシュウィン兄弟と共演という意味ではない。というのも、アイラ・ガーシュウィンとジョージ・ガーシュウィンのガーシュウィン兄弟は19世紀末の生まれで、20世紀前半に「米国の音楽」を作り上げた人物として知られる。兄アイラは1980年代まで存命だったが、弟ジョージは1937年に急逝している。これら兄弟の残した曲は、ジャズ界のスタンダードとして演奏されているものも多く、本盤はそれらをズート・シムズが演奏したものという意味である。

 そのようなわけで、本盤の一つの特徴は、ズート・シムズがガーシュウィン兄弟の曲を演っている点にある。しかし、その特徴だけでアルバムの性質が決まってしまうわけではなく、共演者にも注目したい。ピアノのオスカー・ピーターソンをはじめとして、ベースはジョージ・ムラツ、ギターにジョー・パスといった実に個性的で豪華なメンバーが揃っている。ズート・シムズは一緒に演奏するメンバーを引っ張るというよりは、彼らのよさにあわせて絡んでいく演奏を得意とする。本盤ではそうしたズート・シムズの良さが存分に発揮されている。

 ズート・シムズのテナーだけを追いながら聴いても、確かに柔らかい音色に心が安らぐのだが、少し気をつけて聴いてみると、この柔らかくしっとり落ち着いた雰囲気は彼一人だけが作り上げているのではないことに気づかされる。しかも、ズート・シムズがこのメンバーを“率いている”という印象はない。いや、それどころか演奏全体をコントロールしているのは、実はオスカー・ピーターソンであるようにすら思える。

 どのような状況のレコーディングだったかは知らない。しかし、この全体のトーンを狙ったのは他ならぬズート・シムズだったのではないかという風に思う。つまり、オスカー・ピーターソンを中心に演奏全体を統制してもらい、そこに自分自身のサックスが絡み、時にメンバーの演奏の上で“踊る”というスタイルを意図的にズート・シムズが狙ったのではなかろうか。それは5.「アイ・ガット・リズム」という、アップテンポで、どちらかと言えば“盛り上げ系”の演奏曲からうかがうことができる。ズート・シムズ自身がある意味で自分のサックス演奏を“抑制”し、制御しているように思えるのである。

 いずれにせよ、ガーシュウィン兄弟の楽曲とズート・シムズの演奏の相性は実にいい。ノリノリのズート・シムズを期待して聴くと、期待外れに感じるかもしれないが、最初に述べたように、ズートのテナーをじっくり聴こうという向きにはうってつけの一枚だと思う。最後にもう一つだけ無視できないポイントを付け加えておきたい。ジョージ・ムラツのベースが絶品なのと、ジョー・パスのギターが実にいいアクセントになっている。




[収録曲]

1. The Man I Love
2. How Long Has This Been Going On
3. Lady Be Good
4. I’ve Got A Crush On You
5. I Got Rhythm
6. Embraceable You
7. ‘S Wonderful
8. Someone To Watch Over Me
9. Isn’t It A Pity
10. Summertime
11. They Can’t Take That Away From Me (ボーナス・トラック)


[パーソネル]

Zoot Sims (ts)
Oscar Peterson (p)
Joe Pass (g)
George Mratz (b)
Grady Tate (ds)

1975年6月6日録音




 
[CD]ZOOT SIMS ズート・シムズ/ZOOT SIMS AND THE GERSHWIN BROTHERS (REMASTERED)【輸入盤】





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