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【銀河ヒッチハイクガイド☆】航海日誌

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2005/02/17
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カテゴリ:徒然~つれづれ~
ワタクシの文筆業務マネージャーのjabannaさんに次回作はと迫られてしまったので、(その会話はココ)とりあえずマネージャーをなだめるためにも(笑)、ここで短編小説を上程します。(2~3回)
 
 
ちょうど村上春樹の新作ふしぎな図書館の発売記念ということで、

トリビュート(パロディとかものまねとか言っちゃいや)小説。『ふしぎなチョコ館』のはじまりー。

 
・・・・・・・・・・・・・・


幼い頃から、無意識のうちにずっと演じていた気がする。

ぼくは物心ついたころからずっと、いい子だったし、優等生だった。親のおかげで顔もスタイルも悪くなかった。まわりもぼくのことを期待したし、ぼくはその期待に100パーセント以上こたえていた。
まわりの人間が、ぼくに望むとおりに、ぼくは振舞えば良いだけなのだから。簡単だ。

ステージの上で、ステップを踏むように。

そうするとまわりの人間は、ぼくに感心した。くだらない、ショウ・アップ。
水道の蛇口をひねるようなものだ。くだらないことだ。とぼくは思った。
クラスでも自然とリーダーになった。べつにリーダーになんかなりたくないけど、まわりはそのことを望んだし、ぼくは断ることができなかった。
中学のクラスの人たちから人望を集めたのも自然なことだ。
女子はみんなぼくにぼーっとなった。男子はぼくに感心した。先生もぼくに夢中になった。

もちろんどんなことにも例外はある。ぼくの知る限り例外は二人だけだった。面白いことに、その二人とも、中学の理科の実験でおなじ班だった。何かがつながっているのか?

さっき言ったようにぼくは決して人気者になりたいと思ったことは無いけど、自然に回りの期待にこたえるよう演じてしまう。そういう性格だからしようがない。いや性格とも違う。なんだろう。
「傾向」この言葉がぴったり合う。ぼくはそういう傾向なのだ。

今日は2月14日バレンタインデーだ。

その朝、中学校に登校すると、下駄箱の中にチョコレートの包みが一杯あふれていた。
「五反田君へ」「五反田さま」「亮一さん(はーと)」
そんな色とりどりの包み紙が甘いにおいを放っていた。
(白状するが実はぼくは甘いものは好きじゃない。もちろんそんなのはまわりのぼくに対する期待に反するので、口にしたことはないが)

教室に入ったら、クラスの女子16人がチョコレートを持って列を作っていた。(うちのクラスは男子21名・女子17名。ちなみにぼくの出席番号は7番だ。ラッキーセブン。くだらない番号だ。)

しようがないのであらかじめ用意した紙袋2袋につめた。
 
 
 
一時間目の理科は、銅線を熱する実験だった。
班の中で、ガスバーナーに火をつけるのはいつもぼくの役目だ。右手の親指と中指でマッチをつかむ。人差し指を軽く沿え、小指を心もち上げる。(ぴんと上げたらおかまだ。)
そして必ず一回は失敗する。同じ班の女子は、ここでそろってため息をつく。2回目でマッチに火がともり(女子はここでそろってほっとため息をつく)、左手でバーナーの栓をひねり、同時にマッチの先をバーナーの先にかざす。ここでぼっと音がする。(女子はここでそろって息を呑む)

青白い炎が上がる。女子はオリンピックの開会式の観客のようにぼくの手元を見ていた。そのあと、みんなぼくのところに来て、実験の方法や手順について質問した。ぼくは物覚えが悪い子にも丁寧に説明しなければならなかった。正直疲れる作業だ。

実験も終わりに差し掛かった頃、たまたまぼくは小林緑と隣になった。
彼女の家は書店(小林書店。きっと小学校の頃、少年ジャンプの発売日に小遣いを握り締めて走っていったような、どの街にもあるような本屋さんだろう)を経営しているという話を聞いたことがあった。

彼女はちょっと変わっていた。他の女子のように、ぼくにたいして関心をもたなかったし、顔はとってもかわいいのだが、口と態度はすこぶる悪かった。悪いと言うより、女っぽくなかった。(以前小林緑にうっかり言ったことがある。そのあと「女っぽいってなに。男にかしずけってこと?五反田君はそんなファシストみたいなこというわけ」と散々言われた)
彼女は別にぼくのことには関心なさそうに、実験データをつけていた。

いつものように。
 
 
「君は男の子にチョコ贈ったりしないの?」
ぼくは軽い気持ちで緑に話しかけた。
「なあに? 五反田君まだチョコ欲しいわけ? あんなに貰っといて、まだ足りないわけ?」
「いや、別にチョコが欲しいわけじゃないんだけど」
「なんで私があなたに欲しくもないものあげなきゃいけないの?世の中欲しい物をなんにももらえない人が大勢いるのに。インドの子供たちのこと考えたことある? それなのにあなたは欲しくもないものを、私によこせと言うの?」
「いや、そういう意味じゃないんだよ」
ぼくは軽口を叩いたことを心から後悔していた。もちろんこうなることはわかっていた。たまについ普通の女子に対するのとおなじように緑にも接してしまう。普通の子ならぼくの軽口にも、うっとりしてしまう筈なのだが。
「私が五反田君に欲しくも無いものをあげる必要がどこにあるの?」緑の攻撃はとまらなかった。
「私が女で五反田君が男だから?そんなの搾取じゃない。あなたはファシストよ。そして庶民の私は、あなたが欲しくもないものですら、あなたに搾取される。あなたが欲しがってるものならまだいいわよ。こんなの悲しすぎるわ。朝学校に行くとき、たった一枚しかないブラジャーが生乾きだったときみたいに悲しいわよ。聖バレンタインは貧しい人のために自ら処刑されたんじゃなかったっけ。そんなファシズムの習慣に利用されてると知ったら彼も悲しむわね」

「いや、ファシズムは関係ないと思うね」
別の声がした。同じ班の村上春樹だ。
彼も小林緑と同じでぼくにそれほど関心を持たない例外の一人だ。彼はいつもと同じように、のんびりとマイペースで実験をやっていた。
「バレンタインデーとファシズムは関係ない。どこかの製菓会社の広報が考え付いたことだ。『バレンタインデーには好きな人にチョコを贈りましょう』 もちろんこれで明治製菓も森永製菓も儲かる。社員にもボーナスが出て家族も喜ぶ。お菓子屋のおばあちゃんも、店の売上で孫に小遣いをあげて感謝される。テレビ番組はバレンタイン向けのドラマをやる。映画も公開される。『片想い』とかっていうタイトルの、アイドル女優が五反田君みたいに素敵な学校の先生に夢中になって、日曜日の朝にチョコレートケーキもって部屋に行くようなくだらないストーリーだ。カップルはその映画を見た後レストランに行って高い食事をする。これでつぶれかけた映画館やレストランの経営も一息つく。子供に何かプレゼントを買ってあげることができるかもしれない。
そして雑誌もバレンタインの特集をやってみんなそれを買う。もちろんたいしたことは書いてない。内容のない屑みたいな記事だ。でも君の家のような本屋もそれで売上が上がる。みんな喜ぶ。だれも困らない」
「そういう社会なんだね」ぼくは言った。
「そう。高度資本主義社会」村上君は言った。
「ふん」緑は鼻を鳴らした。
「あなたたち二人とも、だしまき器に巻かれて、だしまき玉子にでもなっちゃえばいいのよ」
緑はそう言い捨ててどこかへ行ってしまった。
彼女が不機嫌なのは別にめずらしいことではないが、今日は特別不機嫌だった。

もしかすると本当に今朝はブラジャーが生乾きだったのかもしれない。

ぼくはため息をついた。目の前の女子がぼくのため息をうっとりと眺めていた。やれやれ。

村上君を見ると、もう緑やぼくのことには関心なさそうに、いつも通りマイペースで、実験作業の続きをやっていた。彼はまわりが自分をどう思おうとちっとも気にしていないみたいだった。いつもマイペースで自分が好きなことだけを好きなようにやっているようにみえた。そしてそのことでまわりに影響を及ぼそうが及ばなかろうが全然関係なさそうだった。

ぼくは心のそこからそんな村上君が羨ましかった。

ぼくはチョコで一杯になった紙袋を二つ持って、家に帰った。隣の家に住んでいる音大生が、庭先にいて帰宅するぼくを見ていた。いつも彼女の家から聴こえるピアノの旋律は、ぼくが聴いても美しいと思った。きっと彼女は有名なピアニストになるだろう。途中で精神病とかにさえ、ならなければ。(芸術家はそういうのが多いそうだ) 音大生の名前は石田玲子といった。
「五反田君、ちょっと来て」レイコさんがぼくを呼んだ。
隣に見たことのない小さな女の子がいた。
「この子、音大の同級生の妹なの。その子の家は旭川で旅館やってるんだけどね。それでね、この子が五反田君にチョコレートあげたいんだって」
最近はこんなまだ幼稚園にもいってないような小さな子もバレンタインなんて知っているのか。
「はい」女の子は言って、小さなチョコと大きなチョコをぼくに差し出した。
「大きいほうは私からね。ついでに」レイコさんは言った。

僕はにっこりと笑った。小さな子供の前でも、感じのいいお兄さんを無意識に演じていた。
「どうもありがとう。君はいくつ?」
女の子は右手をあげて指を三本だした。
「ふうん。名前はなんていうの?」
「ユミヨシ」女の子は言った。
「え、女の子でしょ?」ぼくはちょっとびっくりしてレイコさんに言った。
「ユミヨシというのは苗字よ」彼女は言った。「珍しいでしょ。東京中探したって、たった二人しかいない苗字よ」
レイコさんは自分のことのように自慢した。

ぼくはすっかり疲れて自分の部屋に戻り、部屋のベッドに腰掛けた。そして、袋からあふれたチョコレートを眺めた。
チョコレートを貰うことはもちろん嬉しいけれど、あとのことを考えると憂鬱だった。僕は甘いものが好きではない。仮に好きだったとしても、こんなに食べたら来月の今頃には僕の歯は一本もなくなっているだろう。
「インドの子供たちのこと考えたことある?」と言った緑の言葉を思い出したが、まさかインドに送るわけには行かないだろう。というかぼくは送り方を知らない。銀行の「地震・津波救援募金コーナー」に持って行くわけにもいかないだろうし。これをお金に変えて、東南アジアに送ってください。と言っても銀行の人が困るだけだ。ユニセフの事務所に送ってもおそらくその職員は困るだろう。
もしもうまく東南アジアやインドのおなかをすかした子供たちに届けば、子供たちはきっと喜ぶだろうと思うけど、いざそれをしようとすると、いろんな人が困ったり混乱するのだ。

結局去年のようにこれは捨ててしまうしかない。なにか罪悪感を感じなくはないけど、実は寄付をしようとするのと違って、これを捨てても誰も困らない。分別だけきちんとしさえすれば、ごみが増えれば、市役所の雇用が増えるし、チョコレートは有毒ガスをださないし、ごみ処理場でチョコが燃えた熱は、近くの老人ホームのお風呂を沸かす熱源になるのだ。老人はみんなお風呂が大好きだ。

食べ物を無駄に捨てれば、それがシステマチックに処理されてみんな喜ぶ。インドのおなかをすかせた子供たちにあげようと思ったら、みんな困ってしまう。
「高度資本主義社会」
村上君が言った。
そのとおりだとぼくも思った。
 
勉強机の上に二冊の本があった。近くの市立図書館で借りた本だ。一冊は「潜水艦の作り方」もう一冊は「ある羊飼いの回想」だった。今日が期限だった。もちろんぼくは期限に遅れるなんてことはしない。
ぼくは日にちや時間の約束はきちんと守る。羊飼いも同じだ。羊飼いが時間を守らないと、羊たちはとんでもなく取り乱してしまうことになるから。
ぼくは二冊の本を抱えて、市立図書館に向かった。
 
(つづく)






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Last updated  2005/02/18 11:40:54 AM
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