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2007.01.13 楽天プロフィール Add to Google XML

『万年筆ミュージアム』
[ 趣味 ]    

渡辺順司
『万年筆ミュージアム―歴史と文化に触れるモノ造り』
丸善プラネット



マーケティングの視点から万年筆を見つめなおす。万年筆にこめられた、歴史、文化、モノ造りの魂とストーリー。


「見た目や使い勝手そのものの印象とは別の魅力……言い換えれば、付加価値の一種なのかもしれない。それを創業社長風に言うなら“魂”と言い、可奈子さん風に言うなら“共感できるストーリー”という……と言うことになるのだ。 たぶん商才がものを言う秘訣で、分かったからといってすぐに実践できるものではないのだが、ただ漫然と品物を売るのではない世界が見えただけでも、私は一つ勉強になった気がした」
これは、雫井修介の小説『クローズド・ノート』の中で、万年筆店のベテラン店員加奈子が、新入りアルバイトの香恵に、万年筆をお客さんに勧める際のアドバイスをするシーンの一節である。


今回読んだ『万年筆ミュージアム』に話を戻す。この本は、マーケティング企画・分析会社の株式会社インプレッションの代表取締役が、万年筆の価値をマーケティングの観点から捉えなおした本。『万年筆スタイル3』でこの本が紹介されて以来、出版されるのを心待ちにしていた。

確かに渡辺氏が指摘するように、現代における価値は万年筆の価値は書くための道具として以上に、「心の琴線に触れる」要素にある。この本では、特に限定万年筆がもつ「心の琴線に触れる」要素を紹介し、万年筆の価値と見所を紹介する。上のクローズドノートの一節の抜粋でも紹介したように、万年筆にはそれぞれが物語を持っている。この本では、その万年筆にこめられた歴史や文化、モノ造りのエッセンスに関する紹介も充実しており、万年筆を通じて様々な世界を知ることが出来る。



印象に残ったのところを紹介していく。

■オマス「クリュッグ・バイ・オマス」
クリュッグのシャンパン造りに使われた樽で造られた万年筆であることの面白さは、本書を読む前から感じていた。ただ、本書でも指摘されているように万年筆好きである私には、樫の白木で出来ているに過ぎない万年筆に12万円の価値を見出せなかった。本書で面白いなと思ったのは、この万年筆は、クリュッグのシャンパン愛飲家から垂涎の的とも言える魅力を持つものと評価されたということ。まあ、考えればごくあたりまえなことだ。ただ、万年筆マニア以外の人も、その万年筆のテーマに共感させることができたならば、高級万年筆の購入層として期待できるということの事例として印象に残った。

■デルタ「ドルチェヴィータ」
『クローズドノート』でも大々的に取り上げられている、近年の万年筆ブームのなかでよく言及されるペン。カラーリングの面白さから、私も購入を考えたこともある。ただ、「甘い生活」というストーリーが私と縁が遠く、買う決心がつかない。この本で面白かったのは、「ミニ」、「ミディアム」、「オーバーサイズ」のサイズごとのデザインやバランスの差異の話。模型は実物をそのまま縮小したのではリアリティーがなくなるため、模型化する際にはディフォルメが重要となると言う話を思い出した。もし、私がこの「ドルチェビータ」を買う際には、大きさだけでなく、デザインバランスの違いにも注目してサイズを選びたい。カラーは、私もシルバートリムこそ「ドルチェビータ」というイメージバイアスにかかっているので、間違いなくシルバートリムにすることになるだろう。

■モンブラン「ロレンツォ・デ・メディチ」
彫金の「レベル」の違いには愕然とした。確かにこれらはもはや「個性」ではなく「優劣」だろう。まあ、いまのところ私は「作家シリーズ」止まりで「パトロンシリーズ」までは手を伸ばす余裕がないので直接は関係ない話かもしれないが、製品を選ぶ際の心構えとしてよい教訓になりそうだ。私はしばしば、買った後、家でよく見て、おかしなところを発見しがっかりする。ま、たいていは高額なものではないので、そこまで期待してはいけないのだ、どれもその程度の精度だと自身を納得させている。
しかし、モンブランの「パトロンシリーズ」のような高価なもので、これだけの差異があるとは。しかし、これだけの差異が、オークションなどの際に価値が決まる要因にならないとは驚きだ。「ロレンツォ・デ・メディチ」に限らず、ペリカン「トレド」の個体差も凄いと聞く。蒔絵の万年筆などにもこのような違いがあるのだろうか。いいものを買うには、店頭でしっかり見定める目が必要なのだということを再確認させられた。

■モンブラン「桜」と「ポンパドール侯爵夫人」
これはペン直接関係ないが、マイセンの「隙間の美学」のことを知って感銘を受けた。ただ、ポンパドール侯爵夫人が気に入っていたのはマイセンではなく、フランスのセーヴルだったそうな。そういう万年筆以外の知識が満載なのがこの本の魅力。モンブランの作家シリーズ「ミゲル・デ・セルバンテス」を買ったときに、スペインのリヤドロのドン・キホーテのフィギュリンが欲しくなったのを思い出した。もちろん結局リヤドロは買っていない。こんどは、この本を読んで「隙間の美学」のマイセンが欲しくなったが欲しくなったが、私ならばモンブランのマイセンを使ったアニュアルエディションのペンを買うほうが良いような気もする。

■ルイ・ヴェトン「カーゴ・アリゲーター」
「カーゴ・アリゲーター」というペン自体には魅力を感じなかったが、革の張り合わせが完璧な「完全なるカーゴ・アリゲーター」の写真には感動した。これぞクラフトマンシップ。技術と情熱の極致だ。普通の普及品のペンの場合、キャップリングの向きもいい加減なものが多い。特に、絶対に揃えなければならないというわけではなさそうだ。とりあえず手元のペリカンのペンを見たら、クリップとキャップリングの向きが揃っているものと揃っていないものがあった。揃っていたのは限定品のものなのだが、これは意図的かたまたまか。今度の月曜日、研究室に置いている他のペリカンの限定品のキャップリングの向きを確認しよう。

□検印
実は、本自身にも様々なこだわりがある。特に注目すべきは、検印を復活したこと。いまでは検印など見ること機会はほとんどない。「著者との申し合わせにより、検印廃止」との記載もほとんどの場合なされない。ちなみに貼り付けてあった検印を見ると、この本の初版は3650冊で、私のは0787番だった。おしい。もう少しで0777番だったのに。あと、ビニールカバーをつけているところも古めかしく、「立派な本を出しましたよ」と誇らしげである。
ただ、一ヶ所致命的なミスが。137頁の写真DとHが逆だ。何冊も本を読んでいると、時々誤字や脱字を見つける。ムック本だと、写真関係ミスもよくある。私も学生新聞を制作していたことがるので、校正作業の大変さは分かる。このブログも誤字がごまんとある。ただ、この本は内容も面白く、装丁にもこだわっているだけに残念だ。


Last updated  2007.01.14 17:38:13

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