2080-08「どちらかが落ちたか」モニターの爆発を見ながら、賢治が呟く。 「さあな、ミサイルは外れたかも知れないぜ」 「どっちにしろ、俺達の不利は変わらない。打開策があればな」 未だに後方から追ってくるファントムから逃れようと、鈴木と賢治は交差点を曲がる。 「打開策、か。賭けに出てみるか?」 そう言うと、鈴木はデュラハンのランスを石造りの住居の壁に突き立てた。 「うまくいけば一機はなんとかなるぜ。とりあえずここは一旦別れようか」 ◇ 「フォウ、うまくやったかな」 「フォウさんなら、大丈夫ですよ。信じましょう」 「そうだな。……しかし、これじゃあ決着が付きそうにない」 スリィとシックスのファントムは、二機のデュラハンを追っていた。 最高速度ならホバー移動であるファントムの方が上だが、 デュラハンが30mmガトリングガンで弾幕を張っているために追いつけない。 「また曲がったな。左だぞ」 「うん、わかってる」 ジェットを調整しながら、交差点を曲がる。 「……?一機になったな」 「挟み撃ち狙い、でしょうか」 「そうかも知れない。念のため、別れるか」 「はい」 スリィのファントムが横道に逸れる。 それとほぼ同時に、前方のデュラハンがATGMをシックスのファントムに向けて撃ってきた。 (何度撃っても、俺には当たらないのに) 機体を道の端に寄せ、ミサイルと爆風を避ける。 そして、シックスは回避行動中であってもデュラハンに出来た隙を見逃さなかった。 (勝った) ミサイルを発射した、と思った瞬間。 突然側面の住居で爆発が起こった。 「何!?」 モニターには、マニピュレーターと多目的ミサイルランチャーの損傷を示すマークが点灯している。 シックスは機体を立て直そうとするが、瓦礫が引っかかっているのか、脱出することが出来ない。 「トラップか!」 当然そんな状態の彼を敵が見逃すはずも無く、シックスは自分に迫ってくるミサイルを黙って見ているしかなかった。 ◇ 「また爆発か」 今度は2回の爆発が続けて起こった。 一つは鈴木が仕掛けたランスの爆発だろう。 そして、恐らくは鈴木か相手のどちらかが撃破されただろうと賢治は予想する。 (出来れば、鈴木が残っていて欲しいが) もしやられたのが鈴木だった場合、現在の数は三対一である可能性がある。 そうであれば、もう賢治たちに勝ち目は無い。 ――その時、HUDの表示に変化が起こった。 前方に強化外骨格の駆動音が検出されたのだ。 それも、運が悪い事にジェット音…フェリス側の機体の音だった。 前後の二機が意思の疎通をしているとは思えないが、このままでは挟み撃ちにされる。 (突破しなければ) 賢治は機体を反転させると、後方から迫りつつあるファントムに照準を合わせた。 突然の状況の変化に戸惑ったのか、ファントムの動きに隙が出来た。 トリガーを引く。 賢治のデュラハン、ファントムはほぼ同時に、ミサイルと銃弾を放った。 (回避しきれない!) 隙をついての攻撃のはずなのに、デュラハンは反応してきた。 賢治もある程度熟練したパイロットである事を自負しているが、明らかに向こうの方が反応速度が反応速度が早いのだ。 「これが、ヒューマノイドか」 ファントムの撃破を確認する間もなく、デュラハンのカメラが破壊される。 被撃墜。 その文字と共に表示された戦況を見て、賢治は戦闘の結果が相打ちであった事を確認した。 ◇ コックピットハッチを開放すると、坂本技師の顔がそこにあった。 「やられたな」 「ああ。まさか、これほどまでとは」 格納庫には、既に撃破された山本、シックス、そして賢治と同時に機体から降りてきたスリィの姿が見える。 「いや、大した新人だよ全く」 山本が笑いながら近寄って来た。 「シミュレーションでスコアゼロなんて、初めてだぜ」 「ああ……これならすぐに実戦に出られるな」 賢治と山本の会話を聞いていたスリィは、それを聞くと嬉しそうな顔をした。 「さて、そうなると鈴木中尉はどうかな」 山本がそう言った直後、残った二機のコックピットハッチが同時に開いた。 「俺の負けだよ」 「やった!センパイ達に勝っちゃった」 鈴木とフォウがそれぞれ感想を漏らしながら降りてきた。 「総合では新人の勝ちか?俺達の立場ないぜ」 そう言う山本だったが、口調には悔しさよりも喜びが感じられた。 ヒューマノイドが編入された事で、戦力が増強されるだろう事はこの結果から明らかだ。 恐らく、次の出撃にはヒューマノイド達も参加するだろう。 賢治は、その時の活躍を早く見てみたいと思った。 |