生爪
高校時代の同級生K君は、少しおデブちゃんだった。さらさら髪のおかっぱ頭で愛想良い好青年、声が大きく汗っかきだった。陸上部で槍投げの選手だったが、学園祭ではギターの弾き語りなどもしていた。ある日、僕達は町の本屋の2階にあった喫茶店で待ち合わせをしていた。少し遅れて来たK君は、出掛け間際に生爪をはがしてしまったと、指に白い包帯を巻いていた。その日、K君はパツパツと窮屈そうなジーンズをはいていた。きつかったので、ジーンズに縫い合わされたポケットの生地の厚みに爪をかけ、おもいっきり強く引上げようとした。生爪を剥がしたのは微妙な爪先のバランスを崩した結果の悲劇だった。完全に剥がれてしまったわけではなかったのが不幸中の幸いではあった。と言う訳で、この思い出は、当時も、そして今でも笑い事のひとつとして私の記憶の中に残っている。