小 野 田 少 尉 殿 へ
小 野 田 少 尉 殿 へ小野田少尉君は山犬のごとく野をかけ川を渡り雨や風にうたれようとなんらおくすることなく禅僧のような雰囲気で命の火をもやしルバングの鬼神として生きてきたのか横井軍曹と比べれば君は鉄人のようだ眼光といい体躯といい君は軍人の鏡のようだしかし人間としての凡人としての判断にかけたようだジャングル深く君は1人淋しくなりても命令という金科玉条の鎖によって飼いつながれた獣のような気がするのだ小野田少尉 君は何も語るまい その方が君はすばらしく見えるテレビに映りし君の姿は武人のごとく気高く畏怖の念を抱かせた私の心はゆれどうすべきもない慟哭の瞬時であった小野田少尉 君が夢中で生きた30年の日々には苦しさはあったが悲しさはつきまとわない君の生き方に判断の誤りがあったにせよ 君は真剣に生きた私はそれでよかったと思うのだとにかく君は鉄人だ 凡人には割れない鋼鉄のごとしだたとえて言うなら横井軍曹が錆びついた悲しく折れそうな鉄であるなら君は尖ったはがねのような気がする小野田少尉 君は横井軍曹に比べれば気高い青年のようだあの刺激的な出会いの瞬間ほど感こぼれる逢瀬を私は知らない一人の若者( 鈴木紀夫氏 )の力がなければ君はルバングの蛮族として死んでいただろうか?それを思うなら奇跡であったと言わねばならない軍人の鏡たりし君がこれからの生活を全く平凡に柔らかく折れ風になびく柳のように無名戦士としてどこかで暮らしていけるよう・・・肩の力をぬいて弱々しく生きるよう・・・日本に失望せず余生をまっとうするよう小野田少尉 君は帰還したがあまり語らぬよう聡明な君が語れば語るほど私は胸が締め付けられるのだ小野田少尉のこれからの人生に幸あれ!!