分太郎の映画日記

　市川雷蔵主演の明朗股旅もので、共演は歌手の橋幸夫。いや、傑作でした。
　東京・池袋の新文芸坐で開催中の「市川雷蔵変幻自在」にて鑑賞。併映は『女と三悪人』。

　『おけさ唄えば』　評価：☆☆☆☆☆

　立派なやくざになるには悪事をすることだと思いつつ、根はいい奴なために人助けばかりしてしまう、そんな“まぬけな”やくざを市川雷蔵が演じている。これが実に見事にはまっている。
　この作品の成功の秘訣は、ひとえにその設定の素晴らしさだろう。

　そして、その雷蔵に、水谷良重が演じる男装のやくざ（の娘）と、前年に『潮来笠』でデビューした橋幸夫が演じるチンピラやくざが絡んで、話をいやがうえにも盛り上げていく。
　これで詰まらない作品しか出来ないとしたら、監督・脚本家は無能ということになるが、市川雷蔵とも長年コンビを組む森一生監督と笠原良三脚本なので、そんなことは心配ご無用、大変に痛快・愉快な作品に仕上がっている。

　自称他称「歌謡界の市川雷蔵」の橋幸夫は、確かに、これは似ているという場面がけっこうあり、とくにクライマックスの立ち回りでは息もぴったり。
　実際にも片や兄のように慕い、片や弟のように可愛いがっていたというが、半年後の『花の兄弟』では兄と弟に扮している。
　二人が共演した作品は、本作と『花の兄弟』の２作だけだったようだが、もっと見てみたかったというのは贅沢な夢だろうか。

　なお、この映画の鑑賞後には、劇中で橋幸夫が歌う♪おけさ唄えば♪の旋律が、頭をくるくると回ることは必至。

　話の筋は、ご都合主義以外の何物でもないが、定番の展開のなかで観客をいかに楽しませるか、それが娯楽作品の生命線だと思う。その点で本作は、大変によく出来ている。
　会話に当時の流行語などが入っているのは、まぁご愛敬か。

　個人的には、今回の「市川雷蔵 変幻自在」の特集上映で、いままで未見だった作品の中では一番のお気に入りかも知れない（次点は『濡れ髪剣法』）。

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【あらすじ】（ネタバレあり）
　一本松の千太郎（市川雷蔵）は、やくざの世界でのしあがるには、悪党にならなくてはならぬと旅をしているが、生来の人柄の良さが災い？して、人助けばかりしていた。信越の山道で、おけさの半次（橋幸夫）に斬りつけられるが、逆に半次は千太郎の気っぷに惚れてしまう。
　半次と別れた千太郎は、弥彦の勝五郎（水谷良重）という股旅者と出会い、悪い女衒からお君（三木裕子）という田舎娘を助けだした。千太郎らは、坂木の藤吉（島田竜三）の家に草鞋を脱ぐが、お君と風呂や寝床を友にする勝五郎に圧倒されてしまう。お君はじつは半次の姉であった。
　千太郎は、勝五郎が悪党だと褒めそやしていた稲荷山の勘治郎（中村鴈治郎）一家に草鞋を脱ぐが、勘治郎が仏のような立派な親分なのでビックリ。お君とともに勝五郎が戻ってきた。彼が勘治郎の一人娘・お勝であると知って二度ビックリ。そして、お君は、裏から流れてきた「おけさ唄えば」の歌に、勘治郎の家で下働きをしていた弟の半次と再会する。
　そうこうするうち、勘治郎の元へ、悪評高い黒姫の繁蔵（寺島貢）から喧嘩状が届き、千太郎は悪事の修業のためと黒姫一家に寝返ってしまった。怒り心頭に発するお勝と半次。
　そして翌朝、対決場。半次は千太郎に一騎打ちを申し出るが、当の千太郎は「極悪非道の黒姫の繁蔵を裏切れば、悪党修業の冥利につきる」と稲荷山一家に寝返り、勝利するのであった。
　ふたたび千太郎は旅に出た。お君と半次も故郷の佐渡へと向かった。

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『おけさ唄えば』

【製作年】1961年、日本
【製作・配給】大映
【監督】森一生
【脚本】笠原良三
【撮影】本多省三
【音楽】塚原晢夫
【出演】市川雷蔵（一本松の千太郎）、橋幸夫（おけさの半次）、中村玉緒（半次の姉：お君）、水谷良重（勝五郎、お勝）、小桜純子（お京）、島田竜三（坂木の藤吉）、中村鴈治郎（お勝の父：稲荷山の勘治郎）、寺島貢（黒姫の繁蔵）　ほか

橋幸夫 CD 『おけさ唄えば』他
自著 『雷蔵、雷蔵を語る』	村松友視著 『雷蔵好み』	『市川雷蔵出演映画 作品ポスター集』	山根貞男著 『完本市川雷蔵』