本日はこの連載の第34回です。4人の輪番制で書いており、今回は私「☆2号」がお送りします。
第10回で、【下地作り】の「気づき→自主行動→他者拡張→継続」と、【改革】の「気づき→自主行動→他者拡張→継続」を、時系列で解説し、その他の回では【下地作り】の「気づき」「自主行動」「他者拡張」「継続」のそれぞれを詳しく解説してきました。今回は、【改革】の「気づき」「自主行動」「他者拡張」「継続」を、自治体改革の具体例を挙げながら、一度に解説していきます。
今回取り上げるのは、「インターネットで自治体改革」(小林隆著:イマジン出版)に掲載されている、神奈川県大和市役所の情報政策の歴史についてです。
この書籍では、著者の小林氏が、大和市職員時代に都市計画や情報政策担当として携わった、約10年に渡る大和市の、インターネットを使った自治体改革について語られており、これらの改革を、改革の「気づき」「自主行動」「他者拡張」「継続」に当てはめながら、考えていきたいと思います。
小林氏は、最初に配属された福祉に関わるケアセンターで働いているとき、「地域社会の人と人とのネットワークづくりや、行政の提供するサービスと地域社会が提供できるサービスをうまく調整する仕組みをつくりたい」と思われたそうです。また、その後に配属された都市計画に関する仕事では「行政計画に関わる情報が誰にでも知ることのできる状態になっていない」と感じ、マスタープランの大切さを感じたそうです。これは今回でいうところの下地作りの「気づき」にあたると考えます。
そして、マスタープランの勉強をするため、休職が認められなかった市役所を退職し、筑波大学の大学院に入学、マスタープランの研究を行います。これは下地作りの「自主行動」といえます。
その後、小林氏は大和市へ再就職を果たします。
なかなか退職するということまではできないと思いますが、この積極的な取組がなかったら、後々の大和市の自治体改革には結びついていなかったと思います。自治体改革に限らず、成功している現場には、必ずキーパーソンがいます。一人では難しくても、仲間がいれば力が沸きます。そういう人物が身近にいれば、最大のサポートをしていきましょう。
1.気付き(改革)
改革における「気づき」とは、職場の環境や地域の情熱、幹部の意識などが、改革に向けて醸成される時期を言います。自分の職位が適格になったり、プロジェクトチームが発足したり、長からの指示が出たことによるチャンスや、職場や上司への売り込み、地域への働きかけを通じた改革のきっかけをつかみます。そのように、組織や制度自体が、改革の必要性に気付いて動き始めることです。
小林氏は都市計画の職場へ配属され、それと同時に慶応義塾大学の訪問研究員となり、仕事と分析の両方をこなしていきました。その慶応義塾大学で小林氏はインターネットと出会います。アメリカの先進事例として、自治体の情報開示や地区集会用の電子会議が盛んに行われているのを見て、早速大和市の都市計画法に基づくマスタープランづくりに、インターネットを使った市民参加を試みることにしました。
行政のマスタープランづくりにインターネットで市民参加を試みることは、日本で最初の試みでした。しかし、小林氏は、最初にマスタープランの大切さに気づき(下地作りの「気づき」)、大学での研究を行い(下地作りの「自主行動」)、その結果、自身がマスタープランの担当者となりました。そのことによって、インターネットを使うという「気づき」が、「個人(下地作り)の気づき」から「組織(改革)の気づき」に生まれ変わったのです。
きっと、この改革の「気づき」は、下地作りの「気づき」「自主行動」なしには有り得なかったでしょう。
2.自主行動(改革)
組織としての情報収集、調査、研究、想定される弊害の検証などを行います。その上で対策を練り、実行に移します。その際、過去事例や他団体事例を参考にする場合もあると思いますが、新しいことにはもちろん前例はありません。石橋も叩きすぎては壊れてしまいます。良い手法が出てくるまで待っていては、時代はさらに先に進んでしまいます。自分(組織)で手法を確立する力を身に付け、他団体事例などに縛られず、まず行動し、動いてから検証する、というスタンスで挑まねばなりません。
まず小林氏は、マスタープランづくりのプロジェクトメンバーに、インターネットで市民参加を試みることを提案しました。若手職員で構成されたメンバーは皆、前向きに検討しました。
早速、慶応義塾大学の大学院生からホームページの作り方を習い、それをプロジェクトメンバーに教えました。インターネットのサーバーは、慶応義塾大学の小林氏個人の領域を使いました。
3.他者拡張(改革)
独りよがりの改革を一方的に進めても、成果はあがりません。事前に根回しや、協力者が必要です。情報収集、調査、研究の段階で、内部・外部とも調整し、想定される弊害については事前に対応しておく必要があります。特に、内部の幹部、住民の代表には必ず相談という形で話をしておきます。そして、スケジュールを細かく設定し、成功までの道のりをイメージします。進行中にも、想定されたスケジュールどおりなのか、常にチェックしておきます。
今回の場合、内部調整にあっては、大きな方針転換を伴う計画策定であったために慎重に検討を進めました。
インターネットという新しい道具を利用した市民参加であったために、従来の参加手法との平等性などを議論し、行政の内部調整や、議会との調整手順などの整合も、綿密に設計しました。
こうして約半年をかけて準備し、大和氏の都市計画マスタープランのホームページが公開されました。
その結果、マスタープランへの市民参加を今までの10倍程度(意見の反映数量の割合で。)に拡張するなど、大成功を収めました。また、多くの市民の意見は、市民が要望していた開発抑制型の都市計画というものに、難色を示していた市幹部や議会の合意を得るためにも役立ちました。
4.継続(改革)
こうして実行に移した改革も、常にチェックし、見直しをしていきます。また、こういった改革の意識、職場・地域の雰囲気・勢いを、常に保ち、継続、拡大させる必要があります。そのためのシステム作りも、改革と同じくらい重要です。常に問題点を探し、留まることなく、複数の行動が同時進行で行われます。
その後、大和市では、環境基本条例、環境基本計画、みんなの街づくり条例、綜合計画、自治基本条例など、インターネット上で決定前の行政情報を公開し、市民の意見を取り入れるかたちでの政策形成が多くの分野で実施されています。
以上が、大和市における情報政策の最初の取組でありましたが、その他、全市のホームページ作成、市内全施設のネットワーク環境整備、ネットワークリーダーの育成、電子会議室「どこでもコミュニティ」、コミュニティセンター(公民館)のホームページ作成(地元の自治会が自分たちで作成)、などの様々な取組が、人を変え、場所を変え、改革の他者拡張、改革の継続が続いているようです。
小林氏は、こう結んでいます。
「人々の気づく権利、知る権利、起こす権利を保障することは険しい道のりです。しかし、私たちは、自発的で貢献的な人々のやさしさをつなぎあわせる努力を重ね、その努力を実らせるために、不確実性を低減し、補完性を発揮できる自治のシステムを育てなければならないのです。本書が、市民にやさしい自治体情報政策への気づきとなれば、心より幸いに存じます。」
この本も、他者へ気づきを与える、他者拡張の手段なのですね。
それではまた。
最終更新日
2008年11月19日 00時18分50秒