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蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫)/恩田 陸
¥500 Amazon.co.jp 常野一族の不思議な物語「光の帝国」の続編かと思いながら気軽な感じで 読み始めるとまったく異質な雰囲気の物語に意表をつかれる。 これもファンタジーな世界であるけれどもどこか重苦しい。 1900年代初頭の時代設定のためだろうか。 日本が軍事国家として形成されていく中で、日本人としての思想のあり方 にまで言及されているところが重苦しさを伴う原因になっているように思う。 それと、この物語では不思議な能力のある常野一族は脇役でしかないのだ。 物語の主人公は終戦直後、幼少時を振り返る形式で描かれている。 田舎の農村の発展に尽力する槇村一族とその周辺の物語。 戦争前、これからの日本人としての思想、必死になって守ろうとした価値観 といったものが濃厚に描かれている。 それは軍事国家として日本が向かう姿であり、そうするしか仕方がなかった という時代の流れでもあるのかも・・・。 このあたりは「光の帝国」では感じられなかった重苦しさに繋がっている。 そしていきなり時代は飛んで敗戦後を描いて物語は終わる。 敗戦後の虚無感、時代の変化による日本人の思想のあり方といったものを 問題定義して終わってしまうのだ。 しかし、そこから60年以上経っている今、日本の歩んできた道は分かっている。 経済成長を優先した政策により、歪んだ社会構造や道徳心を生んでいることも すでに皆が承知している。 こんな時代だからこそ、常野一族や槇村一族の持つ美しい心のあり方を今一度 見直そうということなのだろう。 「光の帝国」を未読でもじゅうぶん理解できる内容になっている。 重苦しさの中にも心温まる優しさに包まれ、それでいて切なく感動する。 しかもいろいろ考えさせられるという贅沢な傑作。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.02.02 13:26:23
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