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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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January 17, 2014
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 劇場は、「ハコ」(入れ物)と「中身」が揃って、はじめて「劇場」になる。

 これは、世界中どこでも同じことでしょう。立派な劇場が建っても中身がつまらなければ、「仏つくって魂入れず」になってしまうわけです。バブルの頃建てられたものの、その後ほとんど貸し小屋としてしか機能していない劇場があることからもわかるように。

 オペラハウスは、とりわけ「中身」がものを言うところ。その「中身」を決めるのは総裁や芸術監督や音楽監督といったトップたちですから、トップ人事は興味の的です。日本なら、新国立劇場のトップ。新国でオペラ部門のトップと言えば、芸術監督です。

 今日、新国立劇場の次シーズンラインナップの発表をかねて、記者発表が行われました(オペラ、バレエ&ダンス、演劇3部門)。オペラ部門の芸術監督は、次期から指揮者の飯守泰次郎さんが就任します。その飯守次期監督の初の記者会見とあって、会場は満員の盛況でした。ワーグナーのスペシャリストとして名高い飯守氏ですから、どんなラインナップになるのか、興味津々のひとも多かったと思います。

 次シーズンの内容は、さっそく新国のサイトにアップされています。

 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/variety/#anc2014_15 ;

 待ってました、という飯守ファン、そしてワーグナーファンも多かったのではないでしょうか。オープニングは「パルジファル」。もちろん新制作、そして飯守氏の指揮。(指揮者が監督なら、やはりご自身の指揮でシーズンを開けるのが正解ですよね)。新国でまだとりあげていないワーグナー作品といえば、初期を除けば「パルジファル」だけですから、これは飯守さんがおやりになるだろうな、とは思っていました。シーズンオープニング、それも豪華キャストですから、これはファンにとっては垂涎ものです。

 とくに注目されるのが、大ベテランのハリー・クプファーが演出を担当すること。飯守氏の話によれば、受けてくれるかどうか半信半疑だったが、キャスト(トムリンソン、フランツ、ヘルリツィウス)の顔ぶれをきいたクプファー氏、OKしたそうです。このために日本まで来るのですから、意気込みたるやかなりのものがあるのではないかと想像してしまいます。飯守氏いわく、「哲学的」で、「作品の仏教的な面を強調した演出」になりそうだとのこと。氏にとっても会心のプロダクションにするべく、準備を整えている感じがうかがえました。

 もうひとつ特筆すべきなのが、この「パルジファル」、単独制作なのです。ご存知のように、今時は世界の大歌劇場、どこもかしこも共同制作で新しいプロダクションを作っています。つい先日メトロポリタン歌劇場のライブビューイングでやっていた「ファルスタッフ」など、メト、ロイヤル、スカラとそうそうたる大劇場がお金を出し合った共同制作なのです。それが普通になりつつあるこの世界で、単独制作というのは、日本もまだ余裕がある(少なくともそう思える)ということでしょうか。世界のワーグナーファン、オペラファンの間で話題になりそうです。

 新制作は他に「マノン・レスコー」と「椿姫」。「マノン・・」は、東北大震災のあった2011年3月に新制作上演予定だったものが、ようやく実現できたプロダクション。主役陣も、当初の予定通りだそう(指揮者はフリッツアからモランディに変わりましたが)。

 「椿姫」は、「若いキャストでフレッシュなものを」めざした、と飯守氏。アルフレードに、昨年9月のスカラ座来日公演で「ファルスタッフ」に出演したイタリアの若きテノール、アントーニオ・ポーリ、ヴィオレッタには、ここ2、3年ベローナなどでも活躍しているラナ・コスと、これまでに比べてたしかに若返りです。指揮はイヴ・アベル(このへんは、せっかくですからイタリアの若手指揮者でもよかったように思いますが)。

 再演は7作。キャスト的に充実していると思うのは、主役のエレートを始め、レガッツォ、レミージョ、ファナーレ、ミコライら、欧米で活躍する顔ぶれが揃った「ドン・ジョヴァンニ」。とくにレガッツォとレミージョは楽しみです。他の演目も、イタリアの名メッゾ、ガナッシがエボリ公女を歌う「ドン・カルロ」、メルベートとマイヤーが主役をつとめる「さまよえるオランダ人」、タマール、トドロヴィッチらやはりこれらの役に定評があるドラマティック系の主役陣が揃った「運命の力」など、それぞれに目玉のキャストがあるのが嬉しいところ。「運命の力」では、欧米で大活躍中ながらようやく新国に登場するザネッティが指揮をとるのも楽しみです。あ、「パルジファル」とならぶワーグナー作品である「オランダ人」は、もちろんマエストロ飯守のタクト。1−2月に登場する「こうもり」は、飯守次期監督によると「ウィーンらしいキャスティング」なのだそう。締めくくり間近の「ばらの騎士」〜生誕150年を迎えるシュトラウスにちなんだ演目だそうです〜には、世界最高の元帥夫人、シュヴァネヴィルムスが出演する他、この役で定評のあるダニエラ・ファリーがゾフィーを歌うという魅力的な顔ぶれです。そして最後の出し物には、新国で既定路線となった邦人作品、名作の誉れ高い「沈黙」が、2011/12シーズンに続いて再登場。邦人作品はふつう中劇場なのですが、今回はオペラパレスでの上演です。演劇部門の監督である宮田慶子氏の演出も含め、前回の上演が高い評価を受けたことも関係があるのでしょう。

 演目やキャストを紹介する飯守氏の言葉のはしばしから、オペラの現場の第一線で活躍する指揮者らしい言葉が聞けたことも、心に残りました。

 たとえば、昨今話題を呼んでいる「演出」についても、「否定はしません」と前置きしつつ、「音楽と遊離した演出は考えられない」ときっぱり。いわゆる読み替えに近いものであっても、「音楽と対立しない」「作品の普遍的な内容と一致する」「音楽と一体化する」ものを評価したいと、はっきり口にしておられました。

 全体的に、名作を主体にしつつ、「飯守カラー」を打ち出し、キャストも配慮した、なかなか魅力的な内容だと思います。

 (欲を言えば、新国のラインナップをみるたびに思うことですが、イタリアものにもう少しイタリアらしい歌手が欲しい。「ドン・カルロ」にガナッシのような名歌手を出すなら、フィリッポにスカンディウッツィかプレスティアくらいは呼んできてほしいな、と思います。2人とも、喜んで来ることでしょう。イタリアの劇場が低迷している今、イタリアのいい歌手は呼びやすいと思うのです。)

 会見終了後は、飯守次期監督を囲んで、ざっくばらんな質問の会に。(次の予定があるので途中で失礼してしまい、他の方のお話が全部きけずに残念でした)。ワーグナー指揮者である飯守氏にこの質問はどうかなと思いつつも、思い切って、「ベルカントものについてはどんなご予定ですか?」と、前から新国のラインナップに感じていたことをたずねました。世界的にベルカント(とバロック)が復活しているなかで、新国はそちら方面はあまり配慮していないように見えるからです。たとえば、ベッリーニのオペラは開場以来1曲もとりあげていませんし、ロッシーニは「セビリヤ」と「チェネレントラ」、ドニゼッティは「愛の妙薬」くらい。「ルチア」は10年前に1度やったきりです。

 想像通りといいますか、そちら方面は今のところあまり考えていらっしゃらないようでしたが、それはそれで仕方のない?ことだと思います。飯守マエストロには日本でできる最高のワーグナーをやっていただくことが、いちばんの優先課題でしょう。ご自分の「カラー」を出され、実現されていかれるのが楽しみです。

  とはいえ、いくつか望むことはあります。

 一つ目は、これは記者会見でもNHKの方から「ストリーミングをやらないのですか」という質問が出ていたのですが、一般への浸透の問題。

 飯守次期監督も、「お客さまを増やさなければ」とおっしゃっていましたが、それならストリーミングはまず検討するべき課題だと思います。今やウィーンやミュンヘンはもとより、イタリアの田舎の劇場まで乗り出しているわけですから。

 (ちなみにNHKの方の質問は、理事長に対して行われたものでしたが、「やります」というはっきりしたお返事はありませんでした。)

 もうひとつ、これからはアジアとの連携も視野に入れていいのではないだろうか、ということです。

 近年、北京や上海など、中国にもいくつか本格的なオペラハウスができていますし、香港やソウルのハウスもそれなりに有名です。とくに最近は中国がやはりといいますか健闘していて、豪華キャストを呼んでいます。たとえば広州のハウスでは、ヌッチとモナスティルスカを呼んで「仮面舞踏会」をやるようですし、昨年はアグレスタにアルベロ!という豪華キャストで「椿姫」をやりました。ちなみにこの時のセカンドキャストのヴィオレッタは、来シーズン新国の「椿姫」、新制作でヴィオレッタを歌うコスです。キャストの豪華さからいえば、広州のほうが上です。

 だったら、共同制作したっていいんじゃないか、と私は思います。日本のオペラファンだって、アルベロのアルフレードやヌッチのレナートは聴きたいでしょう。歌手だって、はるばる極東まで来たら、複数の国で公演があったほうが楽というものです。新国はつい先頃も、演奏会形式で、日中合同の「アイーダ」をやっています。そのような形での文化交流は、どんどん進めたらいいのではないでしょうか。 






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最終更新日  January 18, 2014 11:21:30 PM


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