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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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April 16, 2014
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 オペラハウスの経営が厳しい、とささやかれる昨今。

 そんななかで、中、東欧では、まだまだ国が全面的に力を入れている歌劇場が少なくないように思います。

 今年の6月と10月に来日するスロベニアのマリボール歌劇場は、その代表格かもしれません。 マリボール歌劇場といえば、2007年に初めて日本に来て、なかなか上演されない「ラクメ」を披露した歌劇場。主演のデジレ・ランカトーレの好演もあり、記憶に残る公演でした。今年の再来日を控え、取材かたがた、今回初めて、マリボールを訪れることになったのです。

 いえ、マリボールどころか、スロベニアにちゃんと?入るのも初めて。以前、トリエステから日帰りツアーで、タルティーニの生地でもあるピランという海沿いの街を訪れたことはありますが、内陸に入るのも、泊まるのも初めてです。

 結論から言えば、公演(今回は「アイーダ」を観劇)も含めて、とても興味深い、実り多い滞在となりました。何よりも、劇場のスタッフの熱意を感じることができたのが収穫でした。皆それぞれの仕事に熱心で、こちらのケアも最大限してくれる。それもおざなりではなく、自分たちの劇場と仕事を心から誇りに思っていることがひしひしと伝わってきたのです。それが、心地よかったいちばんの要因のように思えます。懐事情は決して楽ではないようですが、国からのバックアップが100パーセントで、チケットも一般のひとが行きやすい価格に設定してあるのも、彼らにとっては大きなプラスだと感じました。

 デヴィーアの「マリア・ストウアルダ」めあてに泊まったヴェローナから、国境のトリエステまで列車、さらにトリエステから車で3時間弱かけてマリボールに着きましたが、まずこの車を運転してくれた人がドライバーではなく、劇場の大道具担当のひとだというのでびっくり。帰路は、公演後、真夜中!にマリボールからウィーンまで車で飛ばしたのですが、そのときの運転も、やはり劇場のひとでした。ほんと、申し訳ないような気持ちになりました。

 取材の間も、出演者や総裁へのインタビューの時も含めて、広報の担当者がずっとついていてくれましたし、加えて通訳(英・独語&イタリア語)をかねたスタッフが2名!フォローしてくれました。まさに、劇場総出、といった感じでした。 (ちなみにスタッフの大半は、英、独をはじめ数カ国語を話します。「小さな国だから」と、謙遜するように広報のひとが言っていましたが、これは小国だからこそのメリットだといってもいいでしょう)

 スロベニアでは第2の都市といっても(首都はリュブリヤーナ)、マリボールは10万都市。ささやかな規模です。 とはいえ、オペラハウス(実際はオペラ、バレエ、演劇の劇場)はとても充実しているようす。劇場全体のスタッフは、オーケストラやバレエ団のようなアーティストも含めて300人ほど(バレエもかなりレベルが高そうです)。これは、かなりの数でしょう。 

 オペラは年間10本前後がかかり、今シーズンはそのうち4本がプレミエでした。(ちなみに新国立劇場もオペラは年間10本、プレミエは3本です)

 キャストも、予算の範囲内で最大限の努力をしているのだろう、と感じます。専属ソリストは12人で、指揮や演出、主役級は外国も含めて招聘することがほとんど。今回見た「アイーダ」では、指揮はイタリア人マエストロのフランチェスコ・ロッサ、演出はやはりイタリア人の中堅で、世界的に活躍しているピエール・フランチェスコ・マエストリーニでした。主役のなかで名前が通っているのはラダメス役のレンツォ・ズーリアンくらいですが、アイーダ役のクロアチア人ソプラノ、クリスティナ・コーラー、アムネリス役のアルゼンチンのメッゾ、グアダルーペ・バリエントス、いずれも若手ながら有望な歌手でした(公演のようすは後ほど)。イタリアものなのでイタリアの指揮者、演出家で固めていますが、これがたとえば「ルサルカ」になると、新国でも同作を指揮したチェコの指揮者、キズリングが登場します。なかなか、選択眼が肥えているのです。

 総裁はマリボール出身で、この劇場の叩き上げといっていいキャリア。キャスティングは、総裁に加えて、本業は指揮者である芸術監督(名前は失念しました。スミマセン)が担当しているようです。芸術監督はまだ30代の前半と若く、指揮者としても成功しているようで、音楽に対する感覚は鋭いように感じられました。

  建物内に、劇場は2カ所。100席足らずの旧劇場は、ボックスや天井桟敷席のある伝統的なタイプですが、現在はもっぱら演劇が上演されているとか。オペラは、900席ほどのモダンな大劇場で上演されます。大劇場といっても900ですから、快適です。

 今回、とてもよかったのは、キャスト達へのインタビューに加え、ゲネプロを観劇できたことでした。衣装なし、歌手もほとんど声を抑えてのゲネプロでしたが、指揮のロッサの集中力、的確な指示、歌心〜ゲネプロに欠席したランフィス役のパートを自分で歌っていました!〜を見られたのが収穫でした。この手の中東欧の劇場は、オーケストラが弱い場合が少なくないのですが、マリボールのオーケストラも決して一流とはいえないながら、ロッサの指示でたちまちまとまってゆくのがよくわかり、快かった。流れを作るのも、煽るのも上手いロッサですが、本人からオーレンとベニーニのアシスタントをしていたときいて、納得でした。

 あとでオケのメンバーからもきいたのですが、ロッサとの関係はとてもいいようです。現在、音楽監督に相当する指揮者はいないようですが、少なくとも特定のレパートリーに関して信頼できる客演指揮者がいるのは、幸運といえましょう。

 「アイーダ」、マエストリーニの演出は、基本的には伝統的な雰囲気。とはいえ、冒頭では現代の考古学者が、白骨化したアイーダとラダメスの遺体を見つけ、そこからエジプト古代の物語にタイムスリップする趣向になっているなど、隠し味も効いていました。

  「アイーダ」の来日公演はトリプルキャストで、今回聴いたアイーダ役は「3人目」のコーラー。前にふれたようにクロアチア人なのですが、どうして、若いのにとても立派な声でした。技術的にも危なげがないし、いわゆるリリコ・スピントの堂々とした、張りのある美しい声です。体格も立派ではありますが、見映えがします。アムネリス役のバリエントスは、このプロダクションの初演時にも評判になった歌い手で、まだ20代の若さながら、才能に恵まれた歌手だという印象を受けました。技術的にはまだ危うい箇所がなくもないですが、声がこちらの懐に飛び込んでくるように通りがよく、声量も豊かだし、舞台上での存在感がある。そして演技も卓抜です。「若い王女」ゆえのアムネリスの傲慢さをここまで自然に感じさせてくれた歌手は、ひょっとしたら初めてかもしれません。アイーダを憎々しげに突き放したり、あごを掴んでねめつけたり、そういうことが自然にできる。これは、天性のものでしょう。ヴェルディは、アムネリスを(アイーダも、ですが)、20歳ちょっとの若い女性と考えていましたが、その点でバリエントスはヴェルディの眼鏡にかなうかもしれない、そう思ったほどです。

 公演日の客席はほぼ満席。首都のリュブリヤーナから来た家族連れもいれば、車で1時間ほどだというオーストリアのグラーツから、バスを仕立ててきているオペラファンのグループもありました。そのうちの何人かにきいたところによると、「グラーツのオペラハウスでやっているオペラはモダンすぎる」のだそう。それは、そういうファンもいるでしょう。マリボールは、クラシックな趣味のオペラファンに応えているオペラハウスのようです。

 劇場のスタッフに市内観光にも連れて行ってもらい、朝市や、「世界最古のワインの木」なる珍しい名所にも案内してもらったマリボール。宣伝のためもあるでしょうが、遠方から来たて私たちにマリボールを知ってもらいたい、という熱意を感じました。ホテルでちゃんと寝たのは1泊という強行軍でしたが、中身の濃い、充実した取材旅行でした。

 来日公演の情報はこちらです。6月は「カルメン」、そして10月には「アイーダ」を披露します。

 http://www.concertdoors.com/ 

   

  






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最終更新日  April 26, 2014 12:15:44 AM


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