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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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May 27, 2014
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 モーツァルトの「コジ・ファン・トウッテ」くらい不人気なストーリーのオペラも、少ないのではないでしょうか(人気オペラでストーリーが不人気、というと「リゴレット」もそうかもしれませんが)。

 何しろ1日のうちに、その朝つかの間の別れに泣いた恋人に貞節を誓っていたはずの女性達が、他の男性の口説きに陥落してしまうという、ありえないようなお話なのですから。

 「なに、この話」

 ずいぶん前ですが、新国立劇場での鑑賞会を目的に、事前レクチャーをしたある女性グループのメンバーが、レクチャー終了後にぶぜんとして漏らした言葉です。 あの大人気作曲家で、「フィガロ」や「魔笛」を作ったモーツァルトのオペラ、というのも、なんとなく腑に落ちない原因らしい。女性の立場からすると「バカにされている」気分になる。それも、わかります。

 では、男女を入れ替えたら?

 「そんなの単純すぎて、面白くないですよね〜」

 今度はちょっと勝ち誇ったように、その女性はいいました。

 18世紀のオペラですから、物語が1日のうちに進行するのはお約束でしたし(古典劇の「三一致の法則」)、この手の「恋人交換」のストーリーは、当時ちょっとした流行だったらしいし、もともとこのオペラは、サリエリが作曲するはずだったのがモーツァルトにお鉢が回ってきたのだから、物語の上ではモーツアルトにあまり責任はないのでは、などなど、いろいろ言い訳を並べてみても、やはり納得がゆきかねる、というのが、普通の感覚のようです。 

 歌手にとっても、役柄をどう解釈したらいいか、混乱する場合も少なくないよう。先週の土曜日から映画館で配給されている、メトロポリタンオペラのライブビューイング「コジ・ファン・トウッテ」で主役をつとめている若い歌手たちも、恒例の幕間のインタビューで、その難しさを異口同音に語っていました。

 「難しいです。たんなる浮気な女性みたいな印象を受けるので。でも彼女は、恋人が兵隊に行ってしまい、死ぬかもしれないから、独身になったらどうしようという不安にとらわれたんだ、と思います」

 これは、ドラベッラ役のイザベル・レナードの解釈。

 「経験の浅い役なので難しかったです。マエストロにずいぶん助けられました。彼女は変わるんだと思います。フェッランドを愛しているんだと言う自分の気持ちに気がつくの。けれど自分のしたことのトラウマは一生残るし、苦しむと思う。 それを予感し、表現しているのが第2幕のアリアじゃないかしら」

 これは、フィオルディリージを歌っていたスザンナ・フィリップスの解釈でした。彼女なりに懸命に役を掘り下げて、自分のものにしたことが伝わり、司会役のルネ・フレミングも納得のようすでした。

 演唱の面でも、今回の歌手のなかで個人的に一番印象に残ったのが、フィリップスでした。、前の演目の「ボエーム」のムゼッタ役でも成長ぶりを印象づけましたが、この役でも大健闘で、これからの伸びしろを感じさせます。技術的には、それはこれまでこの役を歌ってきた大歌手達〜最近でもグルベローヴァからフリットリまでそうそうたる人たちが歌ってきたわけです〜には及ばないけれど、柔らかでみずみずしい声を生かし、若々しさを前面に押し出した歌唱は、この役が「娘役」であることを大らかに主張していました。容姿もチャーミングで笑顔がかわいく、愛嬌があるので、フレミングの次の世代の、アメリカが生んだ人気スターになる可能性を秘めています。

 ドラベッラ役のレナードは、美人ではあるのですが、整った顔立ちが逆に真面目そうな印象で、軽薄な妹役にはちょっとミスマッチ。容貌からいえば、フィリップスがドラベッラ、レナードがフィオルディリージのほうがずっとあっているのですが。。。。声の点でもやや硬めで、どうもこの役に必要なコケットリーがにじんでこないのが残念でした。彼女は来シーズン歌うというケルビーノのほうできいてみたい歌手です。

 デスピーナはダニエル・ド・ニース。南半球出身、グラインドボーンの「ジューリオ・チェーザレ」でブレイクし、同音楽祭の御曹司に見初められて玉の輿に乗ったソプラノです。舞台上の存在感は抜群ですが、個人的にはどうも発声がしっくりこない。ほんとうの意味での?オペラの発声ではないのではないかなあ、と感じてしまうのです。(私は自分で歌わないので、この点は確信が持てなくて恐縮です)。レチタティーヴォと歌の境目もはっきりしない。スター性はあるかもしれないけれど。

 男性陣では、声の魅力という点ではフェッランド役のマシュー・ポレンザーニが頭ひとつ出ていました。歌のタイプにもよりますが、彼の甘く柔らかい、リリカルな声がぴたりとはまる曲というのがいくつかあり(たとえばフィオルディリージを口説く第2幕の二重唱)、そのときはテノールの魅力に浸れます。フィオルディリージとの二重唱では、2人の間に心が通っている様子がありありと感じられ、ある意味感動的でした。他の男に口説かれて恋人が落ちる、という成り行きは、ほんらいの恋人からみれば不愉快きわまりない訳ですが、この音楽を聴くと、2人が本当に惹かれ合っていることが伝わってしまう。それを今回の若手2人はみごとに表現していたと思います。ものごとの表と裏を見せながら、美しい音楽でそれを受け入れさせてしまう。これこそ、モーツァルト・オペラのひとつの真髄でしょう。

 この二重唱の前段で、恋人グリエルモの待つ戦場へ行く決意をしたフィオルディリージが、男装しようとデスピーナに軍服を持ってこさせたら、その軍服がフェッランドのものであり、着てみたら「フェッランドの軍服は私にぴったり」と独白する場面で、もう二重唱の結末(フェッランドが彼女を陥落させる)は見えているのですが、今回ほど、その流れがくっきり見えた公演はありませんでした。

 ライブビューイングの前の演目である「ボエーム」同様、「コジ」も、本来は若者たちのアンサンブル・オペラです。その点、両者はよく似ています。歌手も、スターを揃えてもいいけれど、若者たちの教訓劇という点では若手のほうがふさわしい。その点、今回のメトの公演のキャスティングは、「ボエーム」同様、筋が通っていたと思いました。幕間のインタビューも、女性と男性の、それぞれ3人のソリストをまとめてやっていて、そこでの話からも、オペラの本質がよく見えていたと思います。

 幕間の3人の女性歌手達へのインタビューで、司会のフレミングが「10代だものね、すぐ生きるか死ぬか、っていう話になるのよね」と発言、女性達がうなずいていたのも凄く面白かった。私もまったく同感でしたから。ちょっと傷つくとすぐ「自殺する」って騒いじゃう、それが10代ですよね。そう考えると、繰り返しですが、若い歌手たちがやったほうがふさわしい作品ではあります。

 今シーズンの「コジ」は、メト音楽監督のジェームズ・レヴァインが、病気から復活してメトで振った第1作でもありました(ライブビューイングでは「ファルスタッフ」のほうが先に配給されていましたが)。今シーズンは「コジ」と「ファルスタッフ」の2作を振ったマエストロは、幕間のインタビューに、メト総裁のゲルブがききてを務める形で登場。「「ファルスタッフ」と「コジ」は大好き。この2作で復帰できるのは最高」だと語っていました。「2つとも、人間讃歌」だというマエストロの言葉をききながら、あのムーティも、この2作が大好きだと言っていたのを思い出しました。この2作、究極のアンサンブル・オペラである点も共通しています。

 そのレヴァインの指揮、序曲ではちょっとオケがばらつく場面があり、ひやりとしましたが(振りがわかりにくいのでしょうか?)、本編に突入してからはさすがに達人の指揮。歌手と一体化してドラマを奏でます。とくに伴奏付きレチタティーヴォの場面の音楽が冴えて、ドラマティックな緊張感にあふれていたのが素晴らしかった。

 レスリー・ケーニッヒの演出は90年代に制作されたもので、メトの来日公演でも披露されたプロダクション。作品の舞台であるナポリの海を象徴する青が効果的に使われた美しい演出で、安心して楽しめます。

 コジ・ファン・トウッテ、上映は30日の金曜日までです。東劇などでは午後と夜の2回、上演があるのも嬉しいかぎり。そして31日からは、いよいよ今シーズンの最終演目、「チェネレントラ」が始まります!

  http://www.shochiku.co.jp/met/program/1314/

  スザンナ・フィリップスは、この7月の兵庫県立芸術文化センターの「コジ」でもフィオルディリージを歌います。今回のライブビューイングを見て、彼女のこの役を生で聴いてみたくなりました。(「ボエーム」の時にも書きましたが、彼女は2011年の震災のあとのメトの来日公演でもちゃんと日本に来てくれたのでした。)

 http://www.gcenter-hyogo.jp/cosi/  

  

  

  

  






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最終更新日  May 28, 2014 12:34:12 AM


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