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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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January 27, 2015
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 おなじみ、メトロポリタンオペラのライブビューイング。シーズンが始まったと思ったら、早くも4作目の「セヴィリヤの理髪師」まで来てしまいました。大好評だった第2作「フィガロの結婚」を見逃した(ジェノヴァに行っていて)のがかえすがえすも残念ですが、これからは全作品制覇したいものです。

 さて、その「セヴィリヤ」。プロダクションじたいは2005−6シーズンに配給されたバートレット・シャーのもので、歌手も当時(フローレス&ディドナート!)とは異なるフレッシュな顔ぶれですが、ワクワクする軽快な作品だけに、若手中心のキャストで見るのも楽しいもの。シャーのプロダクションも、何度見ても新鮮でおしゃれな舞台です。なかでも、オケピットを囲む花道?は圧巻。ピットの前まで出て行って観客を身近に感じながら歌うのは、ある意味歌手冥利に尽きるのではないでしょうか。

 さらに期待していたのは、指揮のミケーレ・マリオッティ。ロッシーニの生地ペーザロのロッシーニ・フェスティバルの総裁の御曹司で、「(ペーザロの)ロッシーニ劇場のなかで育ったようなもの」(本人談)のマリオッティは、まさにロッシーニの申し子。1979年生まれの若さながら、すでにメトのロッシーニ上演には欠かせない顔ぶれになっています(新国立劇場がロッシーニをやるときにはぜひ招聘してほしいのですが。。。)。

 やっぱり、極上の指揮でした。

 まず序曲が素晴らしい。澄んだ、伸びやかな、カンタービレな旋律。はじけるような音の数々。何より魅力的なのは、人肌というか、心臓の鼓動や血液の循環のように温かく軽快で、血の通ったリズムです。このリズム、プリズムのようにさまざまに色合いを変えてゆくのが何ともチャーミング。そして幕があがれば、ロッシーニの音楽の快楽が広がります。マリオッティが卓越していると思うのは、音楽が疾走しているように感じられるのに、決してオーケストラや歌手を取り残して走り出したりせず、歌手をうまく乗せて行くそのセンスです。知的なのです。

 加えて今回、「!」と思ったのは、「嵐の音楽」の処理の素晴らしさ。「セヴィリヤ」の「嵐の音楽」といえば、普通、間奏曲のように演奏される印象ですが、今回はしっかりドラマトゥルギーが感じられました。考えてみれば、嵐のどさくさに伯爵とフィガロがロジーナの家に忍び込むのですから、物語の上でもなかなかに劇的な場面ではあるのです。それをきちんと解釈して伝えてくれた指揮には脱帽でした。マリオッティ、ロッシーニのオペラ・セリアを数多く振っている経験も役に立っているのではないでしょうか。

 唯一残念なのは、マリオッティのインタビューがないこと。彼、昨シーズンはライブビューイングで「リゴレット」を指揮したのですが、その時もインタビューがありませんでした。代わりに?動物調教師嬢のインタビューがありましたが、それはそれで面白くはありますが、やはりマリオッティの肉声が聴いてみたい。作品の魅力を語ってほしい。「ロバよりミケーレ」(ある関係者と話しているうちにこぼれたフレーズ)。いや、まったく。ヴィジュアルもいいしね〜。

  「ロバよりミケーレ」といえば、もうひとつ言いたいのが、

 「理髪師より伯爵」

 です。

 「セヴィリヤの理髪師」と呼ばれるこの作品、初演当時は「アルマヴィーヴァ(=伯爵)」と呼ばれていたことは、ロッシーニの専門家がこぞって触れています。なぜなら初演時に伯爵を歌った名テノール、ガルシアを想定して書かれ、だからこそ、幕切れ近くに伯爵の大アリア「もう、やめるのだ」が置かれたからです。けれどこのアリアは至難であることもあって、ガルシア以外の歌い手はほとんど歌わなかったため、間もなくオペラは「セヴィリヤの理髪師」と呼ばれるようになり、フィガロが主役となってしまったのです。

 けれど昨今のロッシーニ・ルネッサンスとともにすぐれたテノールが輩出し、伯爵の大アリアも復活しました。このアリア、何しろ幕切れにありますし、全曲のなかで一番長大で難しいですから、完璧に歌われればそれまでのすべてがかすんでしまうほどの強烈な印象を与えます。「アルマヴィーヴァ」と呼ばれたのはもっともだ、とうなずいてしまうのです。

 今回も、やってくれました。伯爵役のローレンス・ブラウンリー。柔らかで軽やかな声の持ち主で、ロッシーニ・テノールとして世界的に活躍しています。新国立劇場でもこの役を歌ったことがありますし(その時は残念ながら幕切れのアリアはなかったと記憶しています)、実演で接した中では、ドレスデンで聴いた「チェネレントラ」が印象的でした。柔らかく伸びのいい、まさにレッジェーロな声と抜群のテクニックに魅了されたのを覚えています。

 今回のブラウンリー、少し声が太くなったよう。ちょっとフローレスに似た輝かしさが加わりました。調子はとてもいいようで、安定した歌いぶり。最後のアリアも完璧で、高音も見事に決め、えんえんと引き延ばす余裕の歌唱。これを聴いてしまうと、やっぱりこの作品は「アルマヴィーヴァ」だと(しつこいですが)またまた納得してしまうのです。うーん、伯爵役がこのアリアを歌うときは、タイトルを「アルマヴィーヴァ」に変えたらどうでしょうか。こんなに客席を痺れさせている役が、そのすぐ後のカーテンコールで最後から3番目に出てくるって、納得できません。

 ロジーナ役のイザベル・レナードは、歌唱的に完璧というところまでは行きませんが、清純な雰囲気といかにもメッゾらしい深い声が魅力的。そして美人!どの角度から見ても整った顔立ちで、完璧な美女とは彼女のようなひとのことを言うのでは?などと見とれてしまいました。 

  ロッシーニ節満開の指揮と、本来のタイトル通りの実力発揮の伯爵、おしゃれな舞台に美女のロジーナ。「セヴィリヤの理髪師」、再演でもやっぱり、見応え聴き応え満点です。

 上映に関する情報はこちらです。

 http://www.shochiku.co.jp/met/program/1415/index.html#program_04 

  

   






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最終更新日  January 28, 2015 10:53:21 AM


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