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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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March 25, 2015
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 スペインは、実は「オペラ大国」なのではないか、と思う時があります。それも、わりと日本人の好みにあっているのではないか、と。

 有名なオペラハウスというと、バルセロナのリセウ、マドリードのレアル、そして最近ではビルバオとか、バレンシアも名前をよくききます。とくにバレンシアは、メータ指揮、デ・バウスの演出による「指環」が話題になりましたし、私も「ボエーム」のDVDや、ジェノヴァと共同制作された「オテロ」をストリーミングで見ましたが、どれも印象的なプロダクションで、音楽的な水準も高いものでした。リセウも実に多様で中身のある公演をしていますし(映像も興味深いものが多いです)、レアルも、行ったのは一度だけですが、そのときの「シモン・ボッカネグラ」も素晴らしい公演でした。ビルバオも、イタリアオペラのスタンダード作品を中心に、質の高い上演をしています。どこも、主役には世界的なスター歌手を呼ぶことが多く、キャストもなかなか魅力的です。お客さんも熱心で、カーテンコールなどもわりと続いて、客席にいても気持ちがいい。このごろ、スカラでもウィーンでもメトでも、カーテンコールは割と淡々としているので、よけい感じるのでしょうか。メトは必ずスタンディングオベーションになりますが、いちど幕が下りるともうカーテンコールは終わり、というのがほとんどです。けっこうあっさりしています。

 今週後半から毎年恒例の「バッハへの旅」が始まるのですが、その前後の日程を利用して、以前から行きたいと思っていたバレンシアのオペラハウスにきてみました。演目が、「ノルマ」と魅力的だったこと、さらに主役が、マリエッラ・デヴィーアだということが、今回の旅を決心させてくれました。

 バレンシアのオペラハウスは、正式には「ソフィア王妃芸術宮殿」といいます。市の中心部からやや外れたところにあり、映画博物館とかいくつかの芸術関連の建物があつまったコンプレックスの一角です。写真ではみていましたが、実際きてみると、未来都市のような風景が広がっていました。オペラハウスも、なんだか宇宙船のような建物です。(スペインのバブル時代に建てられて、維持費が大変らしいという話を、知人に教えてもらいました)おまけに外壁は工事中で、どこから入るのか昼間は全然分からず、不安でしたが、劇場内部はかなりモダンではあったものの、空か海でもイメージしたかのような、バルコニー席の壁に張られたブルーのタイルが美しい、居心地のいい空間でした。ウィーンやスカラ同様、字幕は前の座席の背についていて、言語の数も多かったですが、なんと「日本語」を発見したものの、スイッチをいくら押しても「日本語」は出てこなかったのはご愛嬌でしょうか。(まあ、日本人の姿は他に見かけませんでしたので。。。)

 今回の「ノルマ」、ここの芸術監督でもあるダヴィデ・リヴェルモールによる新制作です。トリノ生まれのリヴェルモールは、ジェノヴァと共同制作の「オテッロ」(バッティストーニが指揮したもの)、バレンシアのプロダクションである「ボエーム」などを見ましたが、どれも美しくかつ説得力のある、魅力的なプロダクションでした。プッチーニの同時代人である印象派の絵画をふんだんに投影した「ボエーム」など、とてもしゃれている、と思います。なので今回は、一にデヴィーア、二にリヴェルモール、が目的でした。

 そのリヴェルモールの演出、これまで見た物に比べると、今ひとつ、という印象を拭えませんでした。やはり映像をよく使い、とくにアリアや二重唱で歌っている人物の心の内を伝えるときによく出すのですが、それがまあ、あまりにもベタというか。たとえばノルマやアダルジーザやポリオーネが、それぞれ愛の想い出とか恋人の面影とかを心のなかで追っているのを映像で見せるのですが、出演歌手たちのラブシーンが大写しになっても、正直興ざめとしかいいようがない箇所がしばしば。いくら大歌手でも、六十路のデヴィーアと、ポリオーネ役の若いアメリカの黒人歌手、それも大変失礼を承知で書くのですが、まんまる顔で首と肩が一体化している彼がキスするシーンを大写しにされても、面白くもなんともありません(デヴィーアは嫌ではないのでしょうか。。。私がデヴィーアなら嫌だなあ)。もう少しましなやり方があるのではないかというのが正直なところです。(指揮者がイケメンですらりとしていたので、アップならこちらが見たかった。。。ミーハーですみません)

 大道具は太い枝が何本か枝分かれをしている大木の切り株のようなものが中央にあって、それが森に見立てられたり洞窟に見立てられたり祭壇に見立てられたり、という趣向。これはいいアイデアだと思います。ダンスも積極的に取り入れられ、ガリア人に捕われて殺されるローマの兵士をパントマイムで演じたりして、全体に躍動感を付け加えていました。それだけに、映像の使い方が惜しまれます。

 もうひとつ、躍動感の原動力になっていたのが、Gustavo  Gimenoという指揮者の指揮。ごく最近活動を始めたようで、ヤンソンスのアシスタントとして頭角を現したとか。きびきびとダイナミックな演奏で、歌手にあわせるのもなかなか上手いです。一方で、いわゆる「ズンチャカチャッチャ」の伴奏にとどまっている箇所もあり、このへんのセンスの磨き方はこれからだな、と感じられました。マリオッティあたりなら、多分全然違う表情になることでしょう。

  さて、肝心の歌手陣。これは、デヴィーアはやはり貫禄でしたが、他の若手たちもかなり質が高く、かなり満足することができました。

 デヴィーア。100パーセントではなかったと思います。ちょっと高音が苦しい部分もありました。けれどそれでも動揺することなくきちんとまとめてしまうところに、技術力の高さを感じました。アジリタは最近のロッシーニ歌手に比べたら大振りですが、その分、情感がこもって心を打ちます。レチタティーヴォの部分での、スタイリッシュななかでの感情表現の雄弁さ。そして大詰めは、(皆を裏切り、ローマの男と通じたのは)「私です」という決め台詞(ヴェルディのいう「パローラ・シェニカ」=劇的な台詞、ですね)。まったく大げさでないのに、ノルマという女性の気高さともろさ、双方が同居する彼女の本質を聴き手に伝えてくれる素晴らしい台詞でした。

 ポリオーネ役のラッセル・トーマス。アメリカの若手黒人歌手です(ひょっとして、メトのオーディション映画に登場していたかもしれません)。声は明るく、声量もパワーもあるのですが、まだまだ粗く、力で押してしまうのがこれからだな、と思わせられました。ポリオーネって、ドラマティックテノールの役じゃない、と最近思うので、よけい違和感が強かったのかもしれません。若いから仕方がないとは思いますが、弱音で歌う部分になると未熟さが露呈してしまいます。とはいえこの手の声のパワーで押すタイプが客席に受けるのは、メトでもここでも同じようで、第1幕のアリアではさかんな拍手を受けていました。

 他のソリストも若手ばかりですが、かなりな有望株が揃っていた印象。とくにアダルジーザ役のVarduhi Abrahamayanというアルメニアのメッゾは、深く暗めながら魅力のある声色とパワー、かなりな技術力を備えた歌手で、将来有望と思わせられました。フランスで研鑽をつみ、ミンコフスキなどの指揮で歌っているようです。クロティルデ役のクリスティーナ・アルウンノというイタリア人歌手も、出番は少ないながら存在感を発揮していたので、これから出てくるかもしれません。オロヴェーゾ役はロシアのバス、セルゲイ・アルタモノフ。もう10年以上のキャリアを持つようですが、ロシア人ならではの地底から響いてくるような声で、苦悩する父親を熱演していました。

 「ノルマ」を生で見るのは、2010年にバルトリ&ヘンゲルブロックで演奏会形式で見て以来(ドルトムント)。あの時はピリオド楽器の演奏だったし、とにかく生まれてくる音楽の新しさに耳も心も圧倒され放しでしたが、今回はごくスタンダードな演奏=伝統的なプリマドンナオペラ、といえるでしょうか。ただ今回、そうであってもやはり「ノルマ」という作品は名作であり、イタリア・ロマン派オペラの第一歩の一角を占めるものだ、と改めて確認できたことは収穫でした。とくに今回、台本のよさに目を開かれた思いでした。隙がないのです。台本はフェリーチェ・ロマーニですが、ロマーニが当時売れっ子だったことが納得できた気分でした。

 熱心なカーテンコールに快く酔い、劇場近くにあるアパートメントに帰り着くと、一階のタベルナがまだ開いていました。オペラがはねても食事するところが多いのが、スペインのいいところです(イタリアをはじめ他の国では、なかなかこうはいきません)。赤ワインと軽食を頼んでしばらくたつと、なんとデヴィーア本人が取り巻き?らしき人々と入店。思わず話しかけてしまいました。このような体験が東京にいるときよりはるかにひんぱんにできるところが、海外オペラ鑑賞の楽しいところでもあります。 






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最終更新日  March 25, 2015 04:16:16 PM


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