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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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November 23, 2015
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 ジュゼッペ・ヴェルディの人生のパートナーといえば、ジュゼッピーナ・ストレッポーニ。

 作曲家の娘で、ソプラノ歌手として活躍し、「スカラ座のプリマドンナ」として君臨。ヴェルディの出世作「ナブッコ」のアビガイッレを歌ったのがきっかけで、妻子を亡くしたばかりのヴェルディと親しくなりました。けれど2人が正式に結婚にいたるまでには、それから17年の月日がかかります。(2人は結婚前、10年ほど同棲していたのですが) 

 なぜそんなに時間がかかったか。最大の理由はジュゼッピーナの過去でした。奔放な男性関係で知られた彼女は、ヴェルディと知り合う前に、複数の男性との間に少なくとも4人の子供をもうけていたのです(1人は死産)。父親の名前がわからない子供もいました。

 劇場の世界では、珍しくなかったというひともいます。けれどヴェルディの故郷であるイタリアの田舎町ブッセートでは、とんでもないことでした。もともと息子と折り合いが悪かったヴェルディの父は、息子がジュゼッピーナを連れてきて「家名を汚した」と怒りました。同棲した2人は、町の人たちから激しいバッシングを受けます。

 おそらくそれが原因で、2人はブッセートに越して2年後の1851年に、近郊のサンターガタに移りました。今でも「ヴェルディ邸」として知られるサンターガタの家は、周囲から孤立した一軒家。孤独を愛したヴェルディですが、ここまで引きこもった原因のひとつがジュゼッピーナでした。

 2人は1859年に結婚。その後も子供ができることはなく、ヴェルディはやがて年の離れたいとこを養女にして家を継がせます。なので、ヴェルディには直系の子孫はいません。

 と、いうことに、長い間、なっていました。

 ひょっとしたらジュゼッピーナは、ヴェルディの子供も身ごもったのではないか。でもスキャンダルを恐れて、赤子を棄てたのではないか。

 そういう話は、1990年代から出始めました。90年代に膨大なヴェルディの伝記を著したフィリップス・メッツ女史は、クレモナの棄子養育院の記録から、1851年の春に2人の間の子供が棄てられたと推測しています。そして、そんなことがあったなら、2人とブッセート、そして父親との決裂は決定的になっただろう、とも。

 けれどこの説には確たる証拠はありませんでした。

 そしてこの春、この問題に決定打となりうる著書が発売されました。著者は指揮者のシモーネ・フェルマーニとジャーナリストのジョヴァンニ・フェルマーニの兄弟。2人はヴェルディとジュゼッピーナの間に生まれ、棄てられた(里子に出された)女児のひ孫だと主張しています。

 私はある方の紹介でこの本を読み、この6月、ミラノでシモーネ氏にお会いしました。そして、おそらくフェルマーニ兄弟はヴェルディとジュゼッピーナの末裔だろうと思っています。

 このことに接してのち、腑に落ちたことは、「シモン・ボッカネグラ」という作品についてです。

 「シモン」をご存知の方ならおわかりのように、「シモン」は棄て子、それも女の子の物語です。主人公は未婚の身で心ならずも恋人を妊娠させ、恋人は死亡。生まれた女児は里子にだされて行方不明に。しかし25年後に父娘は再会します。その場面の二重唱の天国的な美しさ!

 それは、実際に、ヴェルディが娘を棄てたからではないでしょうか。贖罪(ある友人言葉)も、あるのではないでしょうか。

 そしてその「娘」は、自分が原因で決裂した父と祖父を、仲直りさせるのです。その場面の音楽もまた、限りなく感動的なのです。

 ヴェルディは実父と仲が悪かった。それはジュゼッピーナも一因でした。もし結婚前のヴェルディとジュゼッピーナに子供ができていたら、あるいはできたことがわかれば、大スキャンダルになったことでしょう。だから2人は子供を棄てる決断をせざるをえなかった。ヴェルディは、父との和解を夢見たでしょうか。

 「シモン」は、棄て子事件があったとしたら、その6年後に初演された作品です。地味な作品だと日本では言われますが、実はファンが多い。「シモン」がいちばん好きなヴェルディオペラだというひとを何人も知っています。感動的な名作ですから。そして世界中の劇場でレパートリーです。メトでもウィーンでもスカラでもしょっちゅう上演されているのです。公演が少なすぎる日本のほうがおかしいのです。(さすがに生誕200年の2013年には、演奏会形式でちらほらありましたが)

 で、やはり、あの感動的な音楽は、棄て子事件のせいかもしれない、と感じています。 

 詳しくは、今月刊行された「日本ヴェルディ協会」の協会誌に寄稿しております。ご興味のある方は、ぜひご覧いただければ幸いです。

 会報ご希望の方は、以下のサイトからお入りになり、事務局にご注文ください。 

 多くの方にご高覧、ご意見をいただけましたら幸いです。 

  http://www.verdi.or.jp






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最終更新日  November 23, 2015 05:52:27 PM


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