My Catharaunum

私も昔は良心がありました。高校生まで私は教会を精神安定剤代わりにしていました。実際問題として、学校にいてもいじめられるだけだったからです。ただし私は教会でも不良少年の悪口を言っていて、この事が後に除籍になり挫折者になる下地になっていくのですが、当時はそれさえ大目にみられていました。私と同じく学生時代に不良に苦しめられていた有力信徒が保護してくれていたという事情もありますし、別の先輩の卒業論文(心理尺度の改訳)を手伝って当時はちょっとした話題にもなりました。障害者と健常者が共同生活をするキャンプでスタッフをしていたこともあります。といってもカレーを煮る下準備程度のもので、あとは子供と同じように遊んでいましたが。以下はちょうど高校のころ、沖縄に行ったときの話で

沖縄には船で行きました。どうも費用を圧縮するためだったのですが、障害者は一等室を割り当てられていました。我々高校生は二等の大部屋でしたが、実際には一等の部屋にいる時間の方が多かったように思います。一等室は完全な個室で、障害者はアメニティ品を使いまくり、教会主催ののキャンプだというのに酒まで飲んでいました。一年後に除籍になるとは知らず、私は不良少年の悪口ばかり言って障害者たちを笑わせていました。彼らも不良に馬鹿にされた経験があるため、私には同情的だったのです。そうこうするうち船が那覇港に入り、私たちは防空壕見学に行くことになりました。私の目当ては怪奇現象で、本来の戦没者の追悼の為ではなかったのですが、同時に私は防御構築物の設計に関心があったので、壕がどのような構造になっているか仔細に見ていました。沖縄には自然洞窟が山のようにありますが、防空壕にされたものは正面に壁があって突入してきた兵が二手に分かれないと入れない構造になっていたり、地面の凹凸がわざと残されていたりで、少なくとも第一次大戦での防御には役立ったように思われました。もっとも毒ガスを焚かれたらおしまいですし、火炎放射器が戦車に取り付けられ、ナパームが島のあちこちで炸裂した第二次大戦末期において有効に機能したかどうかは定かではありません。沖縄の離島部では、友軍に壕を追い出された住民が米軍の捕虜になり、壕の中にいた日本軍をボロカスに貶したという話も伝わっていますし、住民をスパイ扱いして虐殺した将校が、中国地方のある農村の農協長に出世して贅沢三昧をしているという情報も得ています。戦場で手柄を立てた人は、酒が回るととんでもない自慢話をしますが、除籍になったあとあるゼミの聞き取り調査で四国に行ったら、捕虜を百人斬りしたという村長に会ってびっくりした記憶があります。ですが、何より驚いたのが障害者たちの混乱ぶりでした。彼らは穴に入ったとたん「幽霊が出る」といって震え始め、ついには壕の中で竪穴に落ち込んでしまったのです。そのときの障害者の顔といったらまるで魔物に捕まった蛙のようでした。私はおかしくて、笑いをこらえることが出来ませんでした。おそらく穴に落ちた障害者を笑ったのは私だけだったのではないでしょうか。私は結局、笑いが止まらないまま宿に戻ったのでした。あの笑いで私の首が決まったのではないかと、除籍になって数えで十年目の今年、思っています。
私は、今では信仰心のカケラも持っていません。人間を大切にする気持ちもコレッポチもありません。犯罪に手を染めなかったのが不思議なくらいです。ただ昔の思い出だけに生きる、抜け殻のような人間、それが私です。