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2005.04.08 楽天プロフィール Add to Google XML

わたしの“キリマンジャロ・マシーン” <後>
[ カテゴリ未分類 ]    

 以上の3つの要素が「潔い散り方」の条件とまあ仮定して、私は果たしてそうする覚悟はあるのか。ていうか、その前に、なぜ私は散らないといけないのか。宿命としてそうなりつつあるのがその理由ですが、それだけでは足りない。…やはり具体的にはここには書けないのでまた一般論を装って書きます。

 プレーモ・レーヴィというユダヤ系イタリア人の作家がいました。「アウシュビッツは終らない」と「帰郷」で日本でも有名な作家ですが、彼は80年代の初めに自殺しました。彼はアウシュビッツ収容所の生き残りで、戦後イタリアに引き上げて作家になりました。ナチスの収容所の生き残りの知識人には戦後何年かしてから自殺するものが多く、レーヴィは一貫して彼らの自殺を批判していたのです。ところがその彼も自殺してしまい多くの人を驚かせました。彼は仲間達が自殺する理由を「生き残った者の罪悪感」だと言います。「最も勇敢で信念をもった、仲間思いの優しい者から殺されていった」と彼は言います(うろ覚え。以下同)。すなわち結果的に絶滅収容所の地獄では生き残った者たちは、残忍で意地汚く他人を陥れることをいとわない最悪の人間達だったわけです。だから生き残った自分は悪人だ、というのは、しかしながらレーヴィの自殺の理由では有りません。今まで私はそういう意味にレーヴィの文章を読んでいて、それは偽善ではないかと疑っていたのですが、今自分がそういう状態に陥ってそれが間違っていたことに気づきました。そういう地獄において、死んでいった優しき者たちを救えなかった自分が、気付けば最悪の人間達が生き残り、したり顔で闊歩する世界にいた。その采配をしたモノへの、その地獄を支配するモノへの復仇、つまり、どうにもやるせない結果を生んだ悪しき宿命が、誰が何と言おうと不当であることを自分ひとりで証明するためには、少なくとも自分自身の死をもってするしかないのではないのか。

 と、ここまで書いて誤解のないように言っておきますが、もちろん私は死ぬわけはなく、そんな勇気も理由もないです。ではなくて最初に書いたように、今まで述べた「死」に似ていて人生の節目節目に出会う「喪失」というのを、今回、自分の意思で引き受けようかと考えているのです。

 できるでしょうか? 恐ろしいですがこうなったのも運命です。戦いはもうじき終ります。何事にも終わりが来る。どんな終り方をするかが問題だ、とはある映画のセリフですが(正解者には粗品進呈)、幕引きは私の役目であることは間違いないです。すでに犠牲になった者たちへの鎮魂をこめた、自分以外誰も納得せず、誰からも褒められずまた哀れまれることのない幕引きが…。

 死に際に見る夢というのは実際にはあるわけないものですがフィクションの中では決定的なプロットとして有効のようです。ヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」では死にゆくパイロットの夢というのが出てきます。映画「シド アンド ナンシー」では死んだ恋人がタクシーで迎えにきたり、また台湾映画「恐怖分子」の有名なラストシーンで自殺する間ぎわに自分が殺人を犯す夢を見る場面があります。「フランダースの犬」もそうでしたっけ? 原作の方です。余談ですが私の母方の祖母が、私が子供の頃この本を読んでくれて、私でなく読んでた祖母がラストの部分で泣き出したのです。それが面白くてそれから私は何度も祖母にその本を読んでくれとせがんでいたそうです。「この子はわたしが泣くのがオモシロて読んでよんでいうんじゃわ」と笑っていた祖母も私が22歳のとき亡くなりました。
で、私の例えば夢はこうです…。

撃たれたか刺されたかして瀕死の私がダウンタウンの裏路地で座り込んで動けないでいると、一人の背の低い黒人が通りかかる。皮の派手な服を着た男は私に声をかける。
「オイ。オマエ、大丈夫か?」
私は顔をあげて男を見る。
「オレ、あんた知ってるよ」
「…だからなんだって言うんだ。オマエは死にかけているよ!」
「あんたについて一番簡潔で美しい説明は、映画のなかでキューバのミュージシャンが言った『彼は世界一高い音が出せるトランペッター』だと思う」
「オマエ気は確かか? 死にかけで、しかも間違ったことを言う。オレは世界で一番メロディーとビートのことを考えていたミュージシャンだ」
「世間のやつらが何と言おうと、オレは電気楽器のあんたも好きだった」
「調子に乗るなよイエロー! オレは人がオレのことを好きだとか嫌いだとか言っていい人間じゃないんだ」
「…わかるよ。”DOO-BOP” なんか10年以上前の音とは思えないよ」
「だから、オレのは新しいとか古いとかじゃないんだ。10年先だろうが100年先だろうが相手が人間だろうが牛だろうが宇宙人だろうがオレのやる音楽が最高なんだ」
「そのとおりだ…」
「天才とは圧倒的なんだ。天才なら誰でも自分の才能を産まれた時から知っている。宿命なんだと。そしてそれが必ずしも幸福でないことも知っているんだ」
「あんたは孤独だったか?」
「オマエ、神様に寂しいかどうか聞く奴があるか」
 私は肩を揺らして笑った。すぐに内臓の血が喉から上がってきたので吐いた。
「オイ、待ってろ。人を呼んできてやる」
「待ってくれ。もうダメだよ。それより聞いていいか」
「あきらめるなよ…。なんだ?」
「あんたとプレイした奴のなかで一番…優しかったのは誰だ?」
「コルトレーンだよ。アイツは天才であるには優しすぎたくらいだ」
私は満足して目を閉じた。それでもその黒人は私を担いでいこうと試みていたのだ。
 



明日、日本に帰ります。



Last updated  2005.04.09 02:35:26
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