テーマ:猫のいる生活(135997)
カテゴリ:★ちょっとした読み物
# 059
【 前回のおはなし 】 ある夜、散歩に出た 私とまるは、道路の真ん中で立ち往生していた 黒い子猫に 遭遇します。 車にはねられないようにと助け出した その子猫を公園に連れて行き・・・ 前回を読む >> 2004年。 夏も終わりに近づく 8月のある朝、 私は いつものように仕事へ行くため 自転車に乗ってアパートを出ました。 その頃の私は 疲れ切っていて、季節の 移ろいや道端の草花に目を向けるような余裕などはありませんでした。 ただ眠い頭をぼんやりとさせたまま自転車をこいで行くのですが、それでもアパートを出てすぐ、 角を曲がって公園の横を通る道へ来たとき、通りの向こう側、道端のわずかに積もった落ち葉の上に 何やら動物がうずくまっているのは目に入ってきました。 「 猫 かな。」 黒くて、犬よりは小さい 丸いもの。 こんなとこで寝ているよ、日なたぼっこでもしてるうちに眠くなったのかな、 そう思いながら近づき、通り過ぎざまにちらっと見て その瞬間 愕然としました。 もう その体に命はなかったのです。 寝ているだけとは違う力の抜け方、 傷や血が見えるわけではなく ただ眠るように目を閉じているだけでしたが、 もう動かないことは、なぜか明らかでした。 公園から飛び出し 道路を横断しようとしたとき、車にはねられたのだと思いました。 死んでいる猫など 間近で見たのは初めてかもしれない…、 金縛りにあったような感覚で もうひとつ、脳裏をよぎったことは、 「 あの黒チビちゃんじゃないか …? 」 大人の猫だということは間違いありませんでしたが、小柄できゃしゃな体格。 まだ成長段階の若い感じ。 あの子を助けたのは たしか1年ぐらい前だっただろうか。 何より、全身真っ黒な毛並み。 何の確証があるわけでもありません。 その間も 自転車は走り続けていましたが、何だか 怖くて、戻って確認しようなどという気にはなれませんでした。 黒い猫など他にもいる、 そう思いながらもどこか直感めいたものが体を貫き、おかしなことに 「 ちゃんと大きく育ってたんだ~ … 」 などと能天気なことを考えては、すぐに さっきの現実を思い出して また頭は暗い気持ちに支配されて行くのでした。 「 タマのはなし 」 タマは、私が小学生の頃 よくうちの庭に遊びに来ていた野良猫でした。 ほかに2匹の兄弟がいて、かわるがわるやって来る その猫たちに、我が家ではいつしか食事を出すようになっていました。 3兄弟の中で タマだけがメス。 どこか貫禄のある風貌で、食事には来るものの私たちに甘えたり なついたりするような素振りは見せませんでした。 ある年の春、タマは隣の空き地になっている草むらで 7匹の子猫を生みました。 こっそり産み育てていたらしく、ある朝カーテンを開けると 窓の外にはヨチヨチ歩きの小さな小さな子猫たちがタマのまわりで群れていて、私たち家族はとても驚かされました。 完全に心を許してはいないものの、我が家を頼って近くで産んでくれたんだ、と少しうれしく思ったりもしました。 そうは言っても、野良猫であるタマが7匹の子猫を育てるということは大変らしく、乳を飲ませるのにも体力を使い、また7匹それぞれの行動を見守ることにも神経を使い、タマの目つきは さらに鋭さを増していました。 人間が子猫に近付くのも心配そうなタマでしたので、私たちはなるべく親子を刺激しないよう ただその微笑ましい光景を眺めているだけにしました。 子猫たちがそろそろ乳離れをし、私たちの出すキャットフードや残飯などの固形物を食べ始める頃になると、タマは自分でもどこからかエサとなる食べ物を調達してくるようになりました。 虫であったり、ゴミをあさったものであったり、 あるときなど、自分の体の半分ほどもある大きな牛のレバーのかたまりを、ラップのかかったパックごと持って来たことがあり、驚かされました。 どこか近所の台所に忍び込み、スーパーで買ったままのレバーを盗んできたようで、 盗まれた家を探して返しに行くわけにもいかず、私たちはただ ヒヤヒヤするばかりでした。 タマは子供たちを養うのに必死で、その執念はひしひしと伝わってきました。 可愛いだけと思っていた猫のタマが いつの間にか人間の私たちをしたたかに利用するたくましい母になっていて、その強さは小学生の私など足元にも及ばない頼もしいものでした。 しかしその無鉄砲な行動に 私は少し危うさも感じていました。 ある秋の日の夕方、近所の人の知らせで タマが車にひかれて死んだことを聞きました。 家のすぐそば、 町内のゴミ置き場の前でした。 きっとゴミをあさっていたのでしょう。人に見つかれば追われるのを知っていて、神経はアンテナのように張り巡らされていたはずです。気配を感じ、方向も確認しないままその場を走り出し 自ら車の前に飛び込んで行ったようです。 それほどまでに、タマは疲れていたのかもしれません。 もうすぐそれぞれに一人立ち、という子供たちを残してタマはいなくなってしまいました。 野良猫が、野良猫として人間のそばで暮らすのは、決して楽なことではないのかもしれません。 こちらが100%任せろという気がなければ、向こうも100%頼っては来ないのです。 私が考えごとをしている間も、相変わらず 自転車は通い慣れた道を走って行きます。 「 あの子はどうして 道路に飛び出したんだろう … 」 そうして私はまた 黒チビちゃんのことを考えるのでした。 くつしたと出会う運命に繋がる偶然のひとつだったのです。 トラコミュ 野良猫・捨て猫の今 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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