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カテゴリ:演劇、観劇
tptでは、以前より外国人演出家による三島由紀夫の「近代能楽集」が上演されています。『葵上』、『班女』、『卒塔婆小町』(「LONG AFTER LOVE」より)など、英国人演出家デヴィッド・ルヴォーによるものです。
今回は、ドイツ人演出家トーマス・オリヴァー・ニーハウス。 2003年に彼の演出による、ポート・シュトラウス作『時間ト部屋』(tpt)を観ましたが、空間を利用し、人物の動線が計算された舞台を、『道成寺 一幕』でも見せてくれました。 この作品は、「近代能楽集」の中でも『邯鄲』とともに、登場人物が新しい自己を発見していくところが気に入っている作品です。 その内容は、数百万円の声がかかった衣装ダンスのオークション会場に、三千円の価値しかないもの、三千円でしか自分も買わないと言って、若く美しい清子と名乗る女性が乗り込んできます。そのタンスには、タダでも世間の人がいらないと思う「いわく」があるのだと言います。 会場にいた、人よりの多くの金額を提示することを楽しんでいたお金持ちたちも、さすがにそのいわくを聞いて立ち去ります。 その後、美しい自分の顔を嘆く清子と古美術店の店主との、タンスを巡る駆け引きが始まります。 若く美しい清子に中嶋朋子。彼女の役作りには、毎回ハッとさせられます。最近では、シアター・コクーンで上演された『幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門』のゆき女がありますが、個人的に注目したのは、世田谷パブリックシアターでの『ロベルト・ズッコ』(2000年3月)あたりから。 観る者を、彼女の役の側に感情移入させてしまう力があるように思います。 それは、清子としての中嶋の存在感が物語っているでしょう。 彼女は舞台から見えない時でも、気にかかる存在です。硫酸を手にして姿を消した時、美しい顔を嘆く清子が次にどんな登場をするのか、彼女の影にさえも釘付けになりました。 とは言っても、最初に登場したお金持ちたちも、なかなかのものです。 セリフは戯曲どおりなのですが、皮肉もあり、面白い会話です。特に、女性B(大浦みずき)とD(植野葉子)のやり取りは、表現力も豊かに、戯曲を読む以上の面白さを引き出しています。 そして、古美術店店主の塩野谷正幸。強い個性の役者ですが、今回は中嶋が演じる清子に翻弄される姿が、がめつい小心者という感じで好ましくありました。 清子がタンスのいわくについて語る時、話題中のイメージとしての人物が登場します。手には刀を持ち、髪を短く刈り上げた上半身裸の青年。彼の姿は、写真で見た三島本人を思い起こさせます。その様子に、三島作品に対する演出家の「三島由紀夫像」を見たように思いました。 9/17からtptで上演する『カルテット』(作・ハイナー・ミュラー、演出・木内宏昌、台本・広田敦郎)は、この作品の半券で割り引かれるそうです。「日本におけるドイツ年2005/2006」と銘打ったレパートリー上演ということなので、次回作も一緒に観て楽しむつもりです。 (ベニサン・ピットにて) ☆作・三島由紀夫『近代能楽集改版』新潮文庫 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.08.26 12:27:40
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