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《櫻井ジャーナル》

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2016.06.15
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 外国船でも「無害通航」が認められている海域を中国海軍の情報収集船が6月15日に航行したと日本のマスコミは大きく取り上げていた。東アジアでは現在、アメリカ、日本、インドが軍事演習「マラバル」が行われている。6月10日から13日までは佐世保、14日から17日にかけては沖縄沖だ。

 演習に参加した艦船の中には、アメリカ海軍の空母「ジョン・C・ステニス」、インドのステルス・フリゲート艦「サヒャドリ」や「サトプラ」、日本からはヘリコプター空母「ひゅうが」などが含まれている。ロイターによると、アメリカの空母を追跡していた中国の情報収集船を演習海域から遠ざけるために空母は演習から離脱、それを追いかけたようだ。

 本ブログでは何度も書いてきたが、こうした軍事演習のベースには1992年初めにアメリカ国防総省で作成されたDPGの草案がある。1991年12月にソ連が消滅、アメリカの支配層は自分たちが「唯一の超大国」になったと認識、残された自立国家を破壊して世界を制覇、その地位を不動なものにするため、旧ソ連圏だけでなく、西ヨーロッパ、東アジアなどを潜在的なライバルとみなして潰し、膨大な資源を抱える西南アジアを支配しようとしたのだ。この計画は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。

 この計画はライバルが消えたという前提で作成されている。西側巨大資本は傀儡のボリス・エリツィンを使ってロシアを属国化、最も警戒すべき地域は東アジアだと認識していた。そこで東アジア重視が主張されるようになった。DPGの草案をベースにしてネオコン系シンクタンクPNACが2000年に発表した報告書『米国防の再構築』でも東アジア重視は謳われ、2001年にスタートしたジョージ・W・ブッシュ政権はその方針に基づく政策を打ち出している。

 ウォルフォウィッツ・ドクトリンと呼ばれる理由は、DPGを作成した中心が国防次官だったポール・ウォルフォウィッツだったからだが、その計画は国防総省内部のシンクタンク「ONA(ネット評価室)」のアンドリュー・マーシャル室長が考えたと言われている。

 マーシャルはシカゴ大学で経済学を学び、1949年に国防総省系のシンクタンク「ランド・コーポレーション」に入って核戦争について研究、リチャード・ニクソンが大統領だった73年にONAが創設されると室長に就任した。ジェラルド・フォード政権の時代、CIAの内部には「Bチーム」が置かれる。既存の分析部門が気に入らず、ソ連の脅威を誇張するために作られたのだ。このチームを率いたのはハーバード大学教授で親イスラエル派/シオニストで知られているリチャード・パイプス。メンバーにはウォルフォウィッツも含まれていた。このチームを指導させた当時のCIA長官はジョージ・H・W・ブッシュだ。

 このHWの息子は大統領になるとすぐに中国脅威論を主張し始めるが、これはマーシャルに言われたことを言っていただけ。2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されるとアフガニスタンをすぐに攻撃、統合参謀本部の抵抗を抑え込んで03年にはイラクを先制攻撃する。ヨーロッパ連合軍(現在のNATO作戦連合軍)の最高司令官だったウェズリー・クラークによると、1991年にウォルフォウィッツはイラク、イラン、シリアを5年以内に殲滅すると語っていた

 1990年代にはネオコンの影響力が弱いビル・クリントンが大統領に就任するが、当選前からスキャンダルで攻撃されている。それでも戦争には消極的だったのだが、その政権を戦争へと向かわせたのがヒラリー・クリントンだったことは本ブログでも紹介した。そしてユーゴスラビアを先制攻撃、国を解体し、コソボは麻薬や臓器の売買も行われる犯罪国家になった。

 エリツィン時代のロシアはアメリカの支配層が行うことに異を唱えるような存在ではなく、資本主義世界は残虐な正体を現してしまった。ロシア自体も無惨なことになっていたのだが、21世紀に入ってウラジミル・プーチンがロシアを自立した国家に復活させてしまう。これでウォルフォウィッツ・ドクトリンのシナリオが狂い始めた。

 しかし、それでもアメリカの支配層は「予定」を変えない。プーチン時代になってもロシアは弱体なままだと認識していたようで、2006年に出されたフォーリン・アフェアーズ誌(CFR/外交問題評議会が発行)に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文では、ロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できると主張していた。軍事的に圧力を加えれば、ロシアも屈服すると見ていたのだろう。この分析が間違っていることは昨年9月30日以降、明確になっているが、西側の支配層は戦争への道を進み続けている。

 2007年3月5日付けニューヨーカー誌に掲載されたシーモア・ハーシュの書いた記事によると、この時点でアメリカ、イスラエル、サウジアラビアはシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラに対する秘密工作を開始していたという。実行部隊としてサウジアラビアと緊密な関係にあるムスリム同胞団とワッハーブ派/サラフ主義者が想定されるのは当然だ。その延長線上にアル・カイダ系武装集団/ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)を使ったリビアやシリアに対する軍事侵略がある。

 東アジアでも軍事的な緊張が高まる。その切っ掛けを作ったのは海上保安庁。小沢一郎や鳩山由紀夫がマスコミと検察の力で排除され、菅直人が首相になって3カ月の後2010年9月、「日中漁業協定」を無視する形で尖閣諸島の付近で操業していた中国の漁船を取り締まったのだ。

 漁業協定に従うなら、日本と中国は自国の漁船を取締り、相手国漁船の問題は外交ルートでの注意喚起を行うことになっている。言うまでもなく、海上保安庁は国土交通省の外局。つまりトップは国土交通大臣を務めていた前原誠司だが、この前原は事件直後、トラブルを解決する役割の外務大臣になる。

 ところが、2011年3月に福島県沖で大きな地震があり、東電福島第1原発で炉心が溶融するという事故が起こって日中関係悪化の流れは断ち切られた。その流れを復活させたのは石原親子だ。

 まず、2011年12月12日に石原伸晃が「ハドソン研究所」で尖閣諸島を公的な管理下に置いて自衛隊を常駐させ、軍事予算を大きく増やすと発言する。翌年の4月には伸晃の父親である石原慎太郎都知事(当時)が「ヘリテージ財団」主催のシンポジウムで講演、尖閣諸島の魚釣島、北小島、南児島を東京都が買い取る意向を示し、中国側を刺激した。

 マスコミも日本と中国との関係が悪化するような雰囲気を作り上げ、アメリカの支配層を喜ばしている。例えば、2012年にヘリテージ財団アジア研究所北東アジア上席研究員のブルース・クリングナーは「日本国民のあいだに中国への懸念が広がりつつあるという状況」を歓迎している。

 ライバル同士を戦わせ、疲弊させて漁夫の利を得ようというのはアメリカやイギリスの常套手段。日本と中国も戦わせたいはずだが、その思惑を田中角栄が潰していた。両国をいがみ合わせるために仕掛けた尖閣諸島の問題を田中政権は「棚上げ」にしてしまったのである。日中友好はアメリカの支配層にとって脅威だ。ロシアとEUとの友好関係を破壊しているのも同じ目的からだ。

 ここにきてアメリカは盛んにロシアや中国を挑発している。例えば、昨年10月27日にアメリカ海軍は駆逐艦ラッセンを南沙諸島へ送り込んで12カイリ(約22キロメートル)の内側を航行させ、今年1月には駆逐艦カーティス・ウィルバーを西沙諸島へ派遣して同じように12カイリの内側を航行させ、5月10日にも駆逐艦ウィリアム・P・ローレンスを南沙諸島に派遣、永暑礁から12カイリ以内を航行して中国を刺激した。

 昨年6月1日に安倍晋三首相は赤坂の「赤坂飯店」で開かれた官邸記者クラブのキャップによる懇親会で「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの」と口にしたと報道されている。東アジアの情勢が緊迫しているのは事実だが、この発言の意味を安倍首相は理解していないで口にしたような気もする。現実と戦争ゲームの区別がついていないのかもしれない。大変な内容なのだが、有力マスコミがそれを大きく取り上げなかったことも事実だ。

 マスコミはアメリカや日本による挑発には沈黙を守る一方、中国の脅威を誇張、あるは捏造して軍事的な緊張を高めている。「マラバル」も挑発のひとつだが、マスコミが大きく取り上げるのは挑発に対する中国側の対応だ。開戦になった場合、「日本は我慢に我慢を重ねたが、堪忍袋の緒が切れて戦争を始める」と言うつもりだろう。

 ところで、「マラバル」と同じタイミングでNATOは6月6日から17日までロシアの目と鼻の先で大規模な軍事演習「アナコンダ」を行っている。NATOに加盟していないウクライナ、ジョージア(グルジア)、マケドニア、コソボ、スウェーデンからも参加したという。「第3次世界大戦」の予行演習とも言われている。





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最終更新日  2016.06.16 02:36:03



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