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月の石が成り得た物(2)『月の石が成り得た物』 ~PM~ ≪昼休み:1時05分≫ 技術室は校舎から少しだけ離れたところにある。 そこは生徒が勝手に入らないように鍵はいつも担当の先生が持っていた。 僕たちが技術室に着くと、あきらが換気扇のところをあさりはじめた。 するとほこりだらけのあきらの手のひらに黒く滲んだ鍵があった。 先生が合鍵用に隠してあるのをあきらは知っていたようだ。 「ガチャ、ガラララ」 豪快な音を立てて扉が開いた。 中には数個のテーブルと数々の工具が置いてあった。 僕らはあたりを見回し端にある物に手をつけた。 ボタンを押すと先端のドリルが勢いよく回るやつだ。 そして、ポケットに入れていた「軽石」を取り出し工具に置いた。 勢いよく回るドリルが石を少しずつ削っていく。数秒の後ドリルは石を突き抜けた。 僕とあきらが顔をくっつくぐらい近づけて一つだけポカンと開いた穴を覗いた。 中には少し小さめの『鍵』が入っていた。 その鍵はここまで繊細な鍵穴があるのかと疑問に思うほど複雑だった。 一度、その鍵を取り出し奥の部屋にある虫メガネでしばらく二人で見つめていた。 その鍵は何重にも重ねられた複雑な作りで、何か特別な暗示でもあるかのような形だった。 僕たちは昼休みの予鈴が鳴ったのも気づかないぐらい見入ってしまっていた。 それは僕たちの集中力とかの問題ではなく、『鍵』が僕たちを吸い寄せている感じだった。 ≪放課後:3時30分≫ 放課後、帰宅部の僕とあきらは近くの公民館でこの鍵を調べることにした。 制服のまま公民館へ行くのは少し恥ずかしい感じがした。 僕たちはまず鍵穴を紙に書き写すことにした。 近くの鍵屋に行きこの鍵穴が存在するのかどうかを調べるためだ。 なぜ絵にするのかは、実物を持っていくと怪しまれやすいからだ。 絵にするならば中学生の軽いお遊びだと思えてもらえる。 僕は鍵穴をできるだけ丁寧に書き写した。 自分でさえも合っているか間違っているかわからないぐらい繊細だった。 その間あきらは宇宙関連や天体関連の本を読んでいた。 その後、僕らは石に傷をつけてみたり鍵を水に濡らしたりと色々試行錯誤をした。 そして結果気づいたことが一つあった。 その石の『蘇生能力』は人が触れないと意味が無いということ。 触れていたら1mmぐらいの傷なら数秒で治った。 それの意味はよくわからなかったが人の感情に敏感に反応するようだ。 だが、この石がそこまで高度な物質であるわけがない。 やはりまだまだ調べなければ分からないことがたくさんあった。 「じゃあ、そろそろ時間も遅いしそろそろ帰ってまた明日にしよか!」 そうあきらが切り出してその日の研究会は終わった。 石と鍵は僕が持って帰ることになった。それは、僕にとっても嬉しかった。 そしてワクワクや不安の混じった複雑な気持ちで家路を急いだ。 その石、いや鍵は自らの意思でやっているのかまたもや本能なのか。 その時にもその鍵は動いていた。しかもそれはこの前よりも微かに大きく・・・ ≪家:6時30分≫ 「ただいま」 あえて、抑えた声で僕が言った。 「ご飯できる前にお風呂入りなさい~!」 台所で夕食を作ってる母さんが叫んだ。 2階の僕の部屋に石と鍵を置き、洗面所に駆け足で降りていく。 洗面所で衣服を脱ぎ熱い湯に足からそっと入れていく。 全身の疲れがドッと湯船に溶け込む。 大きなため息をして、軽く目を閉じお湯の快感を味わう。 人にとってこの時間は唯一自分だけの時間になれるのだとつくづく思う。 数十分入ったのちにシャワーで体を洗う。 軽く済ませた後に少し急ぐ感じで体を拭きドライヤーで髪を乾かす。 「母さん~、ご飯あとどれくらいでできる~?」 部屋着に着替えながら少し大きな声で台所に向けて言う。 「30分ぐらいでできるわよ~!」 僕の母は少し時間を余計に多く言う癖がある。 なのであと10分ぐらいで出来ることになるだろう。 僕は自分の部屋に行き鍵をマジマジと見つめていた。 (ドクンッドクンッ) 好奇心と不安の混ざった感情が僕の鼓動を少しずつ強くする。 僕の人生の中でここまで集中できるものは無かった。 それは鍵の影響なのか、はたまた僕の問題なのか・・・ 「ブルルル」 突然鍵が微かだが動いた。 まるで今の僕の感情に反応したかのようであった。 僕の人生でかつてこのような不思議なことはなかった。 そのせいか僕は驚きと不安とともに、また更に大きな好奇心にかられた。 僕の頭の中はいろんなことがクルクル渦を巻いていた。 頭痛が起こるくらい頭の中が混乱しているようであった。 「ご飯ができたわよ~!下りてきなさ~い!」 母さんの叫び声ではっとした。 まだはっきりしない頭をなだめて階段を駆け下りた。 あの振動はなんだったのか?そしてその後のこの頭の混乱は? そんな疑問を残しながらも夕食を軽く平らげた。 その日はいつもと違って少し多く食べたような気がした。 ≪就寝:11時52分≫ 夜も更けそろそろ眠たくなってくる時間となった。 夕食を食べ終わったあとも僕は果てなく鍵を見ていたが、 先ほど同様に振動することはなかった。 それ以前にこれは元々『月の物』だ。 月にはこんな複雑な技術を持った生命体がいるのか、または地球人の何かなのか。 この石だけでなく他の石にも鍵が入っているかもしれない。 もし、そうだとしたら他の誰かもこの鍵を見ているにちがいない。 それはなんであってもこれは重大なことだ。 そのことについてはノートに少しだけ書き残し明日あきらに言うことにした。 石についてのことそして、鍵についてのこと。 これは僕たちがまだ知ることもできなかった未知の物ではないのだろうか? そのことを考えるとまた僕の鼓動が嬉しさなのか好奇心なのか大きくなる。 少しずつ眠くなってくる意識。 その時、ベッドの中から分かるはずのない制服の内ポケット。 その中で鍵はまた、大きくさらに大きく動いていた。 それはまるで僕がその謎に興味を示すごとに反応していくようだった。 『月の石が成り得た物』 ~PM~ 終了 |