主人の母の場合
正月に主人の実家に帰省して、夕食後に母と二人になったので結願した「納経帖」を仏壇に供えてへんろ話をしました。母は3年程前に団体バスで四国を巡礼した先輩で、19歳で嫁いできたときから先祖代々の仏壇を守りお経を唱えつづけてきた人です。菩提樹の数珠はツルツルすべすべになるほど、年期が入っています。「遍路には不思議な出来事がつきものだというけど、こういうことがあったよ」と母。団体バスにはツアーの添乗員さんと先達さんが同行してくれるが、先達さんはいつも同じ人だとは限らない。お参りのスタイルも、考え方も、バスの中でのお話もそれぞれ個性があって良かった。何度も四国に渡ったツアーで1番印象に残るのは、久万高原(44番~45番)での出来事。それは初夏の頃、だいぶ暑い日が続いていてハードな巡礼ツアーで参加者も少し疲れが出てきた。その日の先達さんは80歳代と思われる高齢の方。45番:岩屋寺の駐車場にバスが到着し、参拝のためにぞろぞろバスを降りる。母達はバスの後ろの席に座っていたので、1番最後に降りた。先を歩いていた列が道路の向こう側に渡ったのだが、そこで集団が動かなくなった。どうしたのかと思ったら、高齢の先達さんがアスファルトの上で転んだとか。一瞬座る体制に起き上がって、また再び道路に倒れたらしい。脳卒中か脳梗塞か、詳しくは解らなかったが、すぐに救急車を呼んだ。「迷惑かけてすまない」と先達さんは言い残したそうだ。動かさないように気をつけて、20分ほどしてきた救急車に乗せた。お寺の方向に頭を向けて倒れていたアスファルトには、血が少々付いていた。大変な状況の中、巡礼は続けなくてはならないので添乗員は納経所に走り、ツアーの中からベテランだといことで、先達さんの代わりを母が勤めた。その日は松山に宿泊だったが、翌朝その先達さんが亡くなったことを聞かされた。代わりの先達さんは急遽、徳島からきてもらったそうだ。お遍路中に亡くなる人もいるのか・・・と驚きました。職業がら遍路中に倒れたのは、幸せな最後だったのかもしれません。団体バスツアーは結構ハードで、ゆっくりお寺を見てまわる暇もないそうです。勿論、さぬきうどんも、門前の饅頭屋さんも、素通りしなければならず慌しいらしい。バスお遍路さんって気楽でいいなぁ~、と想像していたのですが、話を聞けばおやつを食べるのも全ての札所を回り終えた最後に食べていたそうです。それほど気を遣い、きちんと皆でお経を唱え、たまにはそんなアクシデントも体験しつつ廻っていたなんて。私なんてお腹がすいた時に自由に飲食して、饅頭や餅を見つけては買い食いをし、団体さんの納経に割り込ませてもらってさっさと納経を済ませてアイスクリーム食べていたなぁ。土砂降りの日は、リュックも下ろさずに本堂で自己流の略式お参りしたり。なにか願掛けとか、お礼参りとか重大な理由で巡礼をするのだったら、バスか自家用車で廻るのがいいのではないかと最近思い始めました。そのほうがお参りの際にきちんと願い事が言えるから。歩いているとお願いごとが「最後まで挫折しませぬように」とか「右膝が痛むので、治りますように」とか「○○番(山寺)に登る時は晴れますように」とか「爪がはがれそうなので、なんとかして下さい」とか目先のことばかりをついお願いしてしまう私です。もっと叶えて欲しいこととかあったような気もするのですが、その時は歩く事で精一杯なので切羽詰った身近なお願いになるのですね・・・。