チャーミーがいなくなった日やっと1日も終わりに近づいて きっと普通の明日がやって来る・・・。 こんな普通で穏やかな夜が チャーミーの笑顔を見られる最後の夜になるなんて・・・・・。 『明日授業で使う絵の具が足りないんだ』 娘が夜になって言い出した。 仕方ない。近所のコンビにに歩いて買いに行って来よう~。 『アッ!!』 玄関を開けた瞬間、チャーミーが飛び出してしまった。 “でも心配はいらない” チャーミーはお出かけする私の後をいつもついて歩く子だったから。 そして、数軒先のそこの角を曲がったあたりで いつもおとなしく待っていてくれるの。 心配はいらない・・・・。 この夜もそうだったね。 『待っててね』って声をかけたら 『ニャー』って返事をしてくれたんだよね。 ・・・大丈夫。何も普段と変わらないもの・・・ 買い物を終えて帰り道いつもの角でいつものように 『チャーミー?』って呼んだ。 気配がない。 きっとどこかで遊んでいるんだろう~。 『しょうがないなぁ~』 この時の私はまだチャーミーに起こった最悪の事態に 気づいてあげる事ができなかったんだ。 あの時、どうして私は必死になってチャーミーを探さなかったんだろう・・・・。 どうして見つけ出してあげられなかったんだろう・・・ 『ママ助けて』ってチャーミーは私を呼んだはずなのに・・・。 きっと助けに来てくれるって信じてたはずなのに・・・。 チャーミーはこの夜戻っては来なかった。 少しの不安が頭をよぎる・・・。 チャーミー専用の玄関はリビングの腰高になった窓。 ここに飛び乗って『帰ったよ~』って知らせてくれるの。 だから1階のこの窓の雨戸はチャーミーが帰ってくるまで 閉めない事になっているの。 今日はチャーミーが帰って来るまでずっと起きていよう~。 何度も何度も腰高窓に目をやってチャーミーの姿を探し求めたっけ。 チャーミーが戻らない朝が来た。 もしかしたら又、よそのお家にお邪魔しているのかもしれない。 何しろ過去に2回、よその家でお世話になっていた前科があるからね(笑) 捕まって帰れなくなった・・・ とも言えるけど(笑) 今回もそのうち元気に帰って来るよね?! ~それなのにこの胸騒ぎはどうしてだろう~。 この日も朝から捜索に走る私。 が、てがかりはナシ。 知り合いの所にも片っ端から電話した。 娘達も3回目の捜索願を作ってチャーミーの帰りを待った。 チャーミーがいなくなってから2度目の朝が来た。 『ママ、今日こそチャーミー帰って来るよね♪』 って言葉を残して学校へ行った娘達。 チャーミーの行きそうな場所、草むら、公園を探した。 道ゆく人にもわけを話してお願いした。 そして、私はもうすぐ悲しい事実を知らされる事になる・・・・。 あの日チャーミーと分かれたあたりの家の奥さんが道に出ていた。 『こんにちは。うちの猫知りませんか? おとといの夜からいなくなっちゃったんですよ』 『あら。どんな猫?!』 『エート、縞模様のトラ猫で尻尾が短いんです。 それと、目が大きくて可愛い子です(笑)』 するとその人はあっけらかんとこう言ったのだ。 『昨日の朝、うちの車の下で死んでた猫がいたわよ。 今朝、ゴミの日だったから捨てたけど。 可哀相に毒でも飲まされたんじゃないかしら。 傷は何もなかったからたぶんそうだと思うわ。 猫の死体なんてどうしていいかわからないから袋に入れてさっき出した所なの。 お宅の猫だったのかしら・・・』 瞬間的に思った。 チャーミーだ。 チャーミーが死んだ。 チャーミーがゴミと一緒に捨てられた。 涙がポタポタこぼれて、嗚咽が漏れる・・・。 散歩中の人達が不思議そうな顔で泣きじゃくる私を見ている。 どうやって家に帰ったんだろう~。 チャーミーの無邪気な顔が浮かぶ。 チャーミーが死んじゃった。。。 あんなにいい子が、私の宝物が、ゴミみたいに捨てられちゃったんだ・・・ 号泣!!!!! チャーミーはおばあちゃんなるまできっとうちで幸せに暮らしていくはず。 そして最後は私や娘に看取られて星になる・・・って信じてたから~。 大好きな娘達の腕に抱かれて星になる・・・って信じてたから~。 それなのに、たった7歳でひとりぼっちで逝かせてしまった。 どんなに心細かっただろう。 悲しかっただろう。 抱きしめてあげたかったよ。 初めて出会ったあの時みたいに・・・。 お別れさえできなかったチャーミー、私の宝物。 はっきり確かめよう・・・。 そう思った。 姉に電話してわけを話して来てもらった。 そして例の奥さんにチャーミーの写真を見てもらおう。 私には・・ 自分で確かめるなんて怖くて出来なかった。 それにあの人の顔を見るのもイヤだった。 逆恨み? そう言われればそうかもしれないけれど・・・ 神様!!!!! どうか別猫でありますように・・・神様。 『チャーミーじゃないって!』 『ホント?!』 『うん。全然違うって言ってたよ♪』 “姉とあいつが嘘をついてる” そう思った。 でも、この“優しい嘘”で私の心はどんなに救われたか知れない・・・。 1%でもいい。 チャーミーはいつか帰って来るって思いたい。 ~帰っておいで、チャーミー~ そして、姉と一緒に1%の希望を支えに 夕べ娘達が書いた捜索願を張って歩いた。 娘達にはどんな事があっても今日の事は秘密にしようって誓いながら・・・ 『ただいま~。チャーミーは?』 『まだ帰って来てないよ』 『そう・・・でも大丈夫!きっと帰って来るから。 だってチャーミーの家はここだもん』 娘達の明るい声が悲しかった・・・ 何も知らないこの子達の前で涙は見せられない。 泣いちゃダメ。 お風呂場で泣いた。 食器を洗いながら泣いた。 娘が寝静まってから、声を殺して泣いた・・・ 悲しい夜、寂しい夜、飛んできてそっと寄り添ってくれたチャーミー。 チャーミー? ママはこんなに寂しいよ。 どうして慰めに来てくれないの?! あの日から1年の歳月が流れた。 私は隠れて泣く日々、 娘達は『絶対帰って来る!』って相変わらず言っている。 でも心の中ではそれぞれが少しずつお別れを言っていたのかもしれないね。 誰も口には出さなかったけれど・・・。 公園で捨て猫がいても娘は家に連れて帰らなくなった。 以前はしょっちゅう連れてきて『飼う~』って言って大変だったのに。 ~チャーミーが帰って来た時他の子がいたら悲しむから~ そう言って寂しそうに微笑む。 『もしもだよ~。もしもチャーミーが死んじゃってたとしても 他の子がいたら自分は忘れられちゃったって泣くよね?!』 あぁ、この子達もきっと、私に隠れて何度となく 涙を流していたんだろうな・・・。 |