吉田伸夫の「素粒子論はなぜわかりにくいのか～場の考え方を理解する」（技術評論社、2014年1月）は、物理学の素人で、量子論や素粒子論に興味を持っている、僕のような人間にとっては、絶対に欠かせない本だと思います。

他の入門書と比べてどこが違っているかというと、頭の中で素粒子の世界をイメージできるような説明をしてくれているからです。一般の入門書（ブルーバックスに質の高いものが数冊あります）では、ミクロレベルの現象の説明は、原子から始まって原子を構成する様々な粒子と進みますので、行き着くところはどうしてもツブ（粒）という概念になります。つまり、タマネギの皮をむくように順次小さいものに接近していくので、どうしても実体的なツブを想定しまうんだと、思います。

しかし、量子物理学で明らかになっているように、このツブといわれるものが波の振る舞いをしているのです。更に、ツブが崩壊するとツブを構成したと考えられていた要素じゃないものが出現するのです（ベータ崩壊）。なぜツブが波なのか、なぜツブが崩壊するとその構成要素でないものが出現するのか？というような疑問には、今までの入門書を読んでもイメージできませんでした。そういうものなのだ、と納得するしかなかったのです。

本書は、場の概念から入ります、場がツブ状になったものが粒子と説明してくれます。（素）粒子は「エネルギーを得た場の振動状態」（p.15）というのが本書の立場です。

それじゃ、この場というのはなんだということになりますが、それは喩を使ってイメージするのが一番わかりやすいです。本書では、喩として、液晶モニターが全空間に広がっている状態を挙げています。モニターは画素で埋め尽くされていて、その一つ一つの画素が輝度という値を持っています。モニターの内部には実体はなく、画素の輝度が変化することで、画像の動きが生じるのです。これが場のイメージです（p.30）。場は空間と一体化していて、空間に対して移動はできません。

通常の空間（外部空間）に加えて、場の各点に内部空間が存在します。この内部空間で仮想的な振動子（本書ではバネとして描かれています）の振動が定在波として安定した状態がエネルギー量子で、このエネルギー量子が外部空間で伝搬するのが粒子（ツブ）の移動、と描かれています（p.57、p.68)。各点に存在する内部空間のバネは隣接する内部空間のバネと、これまたバネで繋がっています。

つまり粒子はツブではなく、僕の言葉で表現しますと、シコリのようなものでしょうか。こう考えると、粒子の存在が確定できず存在の確率しか示すことができない、という量子理論の説明もなんとなくわかります。つまり、粒子の実態は波であり、波が粒子のように振舞っているわけです（p.70）。

空間には場がいくつも重なって存在しています（p.22）、電磁場、ヒッグス場、W粒子場、クォーク場、グルーオン場、電子場、などなど。一つ一つの場にそれぞれ粒子が対応しています。それぞれの場にエネルギーを注入すると粒子が生成します。例えば、電磁場にエネルギーを注入すると光子ができます。複数の場がエネルギーをやり取りすることで粒子の消滅・生成が起きます。

第4章（p.86）以降は標準模型の話になり、ゲージ場や対称性の概念が説明されますが、僕にはまだちょっと理解できていません。

以上のように、場の概念から素粒子を説明し直し、さらに標準模型まで行き着くので、今までなんとなく納得いかなかったことが割とイメージできるようになりました。著者には、新潮選書から出ている「光の場、電子の海」という量子理論の発展の歴史を扱ったものもあります。二冊とも、量子論、素粒子論に興味のある方には、お薦めです。