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カテゴリ:横川典視
木曜担当のよこてんです。
前回のこのブログで“次回は根岸ステークスと佐々木竹見カップの模様をお伝えできると考えております”と書いていたんですが、急きょ別なお話を掲載いたします。 既にニュースでご覧になられたように、岩手で唯一の女性騎手だった鈴木麻優騎手の現役引退が発表されました。 昨年9月に落馬負傷した鈴木麻優騎手だったのですが、その後、現役復帰は難しそうだと、引退するよと、そういう話は割と周知のことになっていまして、後は、まあ何というか、免許を返上するのがいつの事になるのかなと、今年はそんな段階になっていたのでした。 なので自分も、じゃあ騎手を辞める前提で話を聞かせてよと、本当に偶然今日、鈴木麻優騎手にお話を聞く時間を取ってもらっておりました。 さて聞いておくのはいいもののどういうタイミングで書こうかな・・・と考えていたところが今日引退が発表されてしまった。ちょっと、いやかなりびっくり。でもまあおかげで、心置きなく聞いて書ける事にはなりました。 鈴木麻優騎手が落馬負傷したのは昨年、2017年9月23日の盛岡第6レースのことでした。クリニャンクール号に騎乗していた鈴木麻優騎手でしたが、3コーナーあたりで馬が鼻出血を発症して転倒。その時に下敷きになる形になってしまいました。 医務室に運ばれてきた鈴木麻優騎手はそれはもう“全身血まみれ”という感じだったのですが、実際はその血は馬の鼻血が飛び散ったもので人間の方には際だって大きな外傷は無かった。ただ外見では見えないところで、背骨の破裂骨折、それも3個分もの骨折をしていたという事が後の検査で分かりました。結果的にはその怪我が引退につながってしまった・・・という事になりました。 ここからはインタビュー形式で進めましょう。 ●落馬事故 -落馬した時の事は覚えている? 鈴木麻「全然覚えてないです。その日のそこまでの記憶が飛んじゃって。何の馬に乗ってたのかも出てこなかったくらいでした。(競馬場の)医務室でけっこう喋っていたとか騒いでいたとか後で聞いたんですけど・・・」 -自分も医務室にいて見てたんだよ。和忍さん(伊藤和忍調教師)もほとんどずっといたし 鈴木麻「ホントですか!?」 -そういうのも覚えてないんだ。確かに“あたし何の馬に乗ってた?どうなった?”って何度も聞いてて、教えてもらってもしばらくしてまたすぐ“何に乗ってた?”って聞いてたな。同じ事を何度も言ったり聞いたりしてた 鈴木麻「その日の事は夜くらいまで全然覚えてないんです。病院で検査を受けている時くらいまで全然。脳しんとうで記憶が飛んじゃったんだろうってお医者さんに言われました。次の日なんかも、本を読んでいたんですが、一行読むと前の行に何を書いてあったか忘れているんですよ」 ●引退を決意・・・後悔はしていないです -その怪我が思った以上に重かったし影響が大きかった・・・という事になるんだね 鈴木麻「そうですね。破裂骨折で、骨で言うと3つ分なんですけど、真ん中のは意外と無事だったんですが上側と下側がほとんど潰れていて。手術でどうにかなる部分じゃなかったから潰れたまま固まるのを待つだけしかできなくて2、3ヶ月はコルセットをしてました。身長もちょっと縮みましたよ。けっこう細かく割れちゃったんでまだ完全に固まってないんです」 -そんな状態でもう一度同じ所を怪我でもしたら危険だから、と? 鈴木麻「それもありますし、それにこれだけ長い期間休んだじゃないですか。また元のコンディションに戻すのは自分では出来ないと。今までは、競馬学校からずっと、ほとんど毎日馬に乗っていたわけで、その積み重ねがあってやってこれたと思うんですけど、そこで怪我をしてしまって、ここから鍛え直すというのが自分では無理だなって。やろうと思えばできるのかもしれないけれど、もうそう思ってしまったから・・・」 -そう思ったから、ここで区切りを付けようと・・・ね。後悔はしていない? 鈴木麻「今は全然してないですね。辞めると決めた時はちょっと悩んで、騎手をやりたいなっていう気持ちの方が多かったけど、それは良い事ばかり、良い時の事ばかり思い出していたからで。そんな良い事ばかりじゃないなって考えたら、“もういいんじゃないかな”って。 いざこういう怪我をしてしまうと大変ですね。車とかは運転できるんですよ。今はコルセット外したからちょっとしんどい。体幹が弱くなっているんでしょう。 日常生活には困らない程度で済んだ事もあって“頑張れば復帰できたのかも・・・”と思ったりもしました。怪我のリスクはあったとしても騎手はそういう危険や困難を乗り越えてやってますからね。騎手はやっぱりそれでもやっていく職業なんだと思います。うん、頑張ればできたのかもしれないけど、自分にはそこまでのメンタルがなかった」 -例えば山本茜(元)騎手のように、しばらく免許を持ったままでいるという選択肢もあったんじゃない? 鈴木麻「そうすると“次”に行きづらいなって思ったんです。騎手免許を持ったままでいるといろいろ中途半端にもなってしまうから、ちゃんと区切りを付けて、そして次の事に進みたいなって。 自分が辞める事で女性騎手が減ってしまうのは寂しいですけど・・・。でも教養センターには今3人、女性候補生がいるそうですし、自分の跡は玲花ちゃん(※関本玲花・・・関本浩司調教師の娘さん。98期生として昨秋入所)が継いでくれるでしょう」 ★2016年5月、JRA・藤田菜七子騎手とのトークショーにて ●いろいろなことをやってみたい -そうなると、その“次”はどんな事をしてみたい? 鈴木麻「今ははっきりとはしていないんですけど、少しでも競馬のお仕事に関われたらいいなっていうのもありますし、それ以外の、いろいろな仕事もしてみたいな。老人ホームに見学に行ったりもしたんですよ。介護や福祉の仕事にも興味があるんです。 高校に1年だけ行って競馬学校に入って騎手になったからアルバイトなんかもしたことがない。何をやるにしても最初からになるので、もうちょっとして落ち着いたらゆっくり考えてみるのもいいかな。 赤見千尋さんみたいになれたらいいなと思ったりもするんですが、それにはもっともっと勉強しないといけないでしょうしね」 -ブログとかツイッターとかで自己アピールはしてきたよね 鈴木麻「そういうのをやっておいた方が良いよってアドバイスしてくれた馬主さんがいて、それでブログとかやっていたんです。今はツイッターで予想とかやってみているんですけど全然当たらなくて!“逆神”とか言われてますよ(笑)」 -そうなると話は戻るけど、免許を持ったままでも良かったんじゃないかなあ。辞めて外の世界を経験してまた戻ってくるのも、何かを掴むきっかけになったのかもしれない 鈴木麻「でも、子供とかできたら多分もう無理ですよ。瞳さん(※宮下瞳騎手)みたいなガッツはないですし。調教して子供の面倒見て・・・とか難しいですよ。馬に関わるにしても騎手は無理かな」 ●一番思い出に残っているレースは・・・ -騎手生活を振り返って、一番思い出に残っているレースを挙げてもらうとすると? 鈴木麻「初騎乗ですかね。願いが叶ったレースでしたから」 ★2014年4月19日の初騎乗 ★そして一ヶ月後、2014年5月19日の初勝利 ★2016年のマーキュリーカップに騎乗 ★2017年9月17日の10R。この勝利が鈴木麻優騎手の最後の勝利になった ●他の女性ジョッキー達へのメッセージ -他の女性ジョッキー達に何かメッセージを残すとしたら・・・? 鈴木麻「やっぱりほら、自分が一番若かったのに一番早く辞めてしまったじゃないですか。真衣さん(※別府真衣騎手)に憧れて騎手になったのだから、真衣さんより長く続けたかったし、真衣さんにも“頑張ってね”って言ってもらっていたから、こういう形で辞めるのは申し訳ない気持ちでいっぱいです。皆さんこれからも各地で活躍し続けてほしいですね」 ★2016年LVR盛岡ラウンドにて ★ラウンド優勝を逃し「私はここで勝たなくちゃいけなかった」と悔しがった ★2015年1月に行われた『レディス&ヤングジョッキー名古屋』で優勝。遠征初勝利も挙げる ●ファンの皆さんへ -ではファンの皆さんに向けて 鈴木麻「いきなり落馬事故を起こして復帰することなく姿を消すことになってしまったんですけど、競馬場に来てたくさん声をかけてもらうととても嬉しかったです。まだ頑張れって思ってくれる人もたくさんいると思うんですけど、ここでひとつ区切りを付けて辞めるので、4年も乗れずに早かったですけど、たくさん応援してもらって感謝の気持ちでいっぱいです」 ●馬には乗りたいなって -とりあえず何をする? 鈴木麻「いつか結婚はしたいですね。子育てとかしてみたい。でももうちょっと自由を楽しみたいかな。ずっと泊まりでどこか行くとかできなかったし、2年くらいは自由に(笑)」 -2年は長いだろ。若いんだからあんまりグダグダするのは時間がもったいない 鈴木麻「長いですかね?じゃあ1年くらいにしようかな。高卒の資格も取りたいなって。高校に1年間行ってるから残りの2年分を通信でとって高卒になれば、将来選べる幅がもっと拡がるかなって思ってます」 -レースは難しいかもしれないけど馬にまたがるくらいは続けたら 鈴木麻「馬に乗るのは好きなので乗りたいなって思いますけど、馬に乗れるレポーターとかできたら面白いかな。でもとりあえず怪我を治してからですね」 ★2013年、候補生時代の鈴木麻優騎手。競馬場実習でやってきた頃の写真 騎手という仕事を辞めると決めてある程度の時間が経っている事もあってか、心の整理というか気持ちの切り替えは済んでいるんだなあ・・・という印象を受ける語り口でありました。 せっかく夢をかなえて騎手になったんだからもうちょっと・・・と、自分なんかも思わないでもないですけど、本人には“夢半ばで・・・”みたいな悲壮感はなく、新しい将来の事を考えていた。それは良かったと、それで良しとすべきなのでしょう。 まだ22歳。いろいろやったことが寄り道になるのかもしれないけれどそれも良いでしょう。なにかを得た新しい麻優になっていくことを楽しみにしています。 さて、既報のように3月25日(日)、春の特別開催中の水沢競馬場で鈴木麻優騎手の引退セレモニーが行われます。詳細は未定。 また、『レディスヴィクトリーラウンド』の残り2カ所、2月7日の高知競馬場、2月20日の佐賀競馬場でのイベントに参加するという事です。 あと『ウイニング競馬』にも呼ばれているという話をしていたんだけど詳細不明。番組をご覧になっている方々はご注目を。 ★故郷の海と麻優騎手/2018年2月1日撮影 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年02月02日 07時19分30秒
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