間もなくカーブに差しかかろうとしていた。
斜め前に座っていた親父が、すくっと立った。一瞬危ない親父かと思い身構えた。拳には無意識に力が入った。私の方に向かってくると思ったが、窓際に駆け寄り、静かに手を合わせた。
ふと、気がつくと、それにつられてか立つ人、座ったままの人それぞれが、何人もが、すっと手を合わせた。
昨日から再開した宝塚線の電車の中で。
梅雨の湿った野蛮な暑さが、音を奪った。
祈りはそこにあった。
夜になり、瞬間的にしか感じなかった夏の予感。
常夏の歯切れの悪さを。区切りの悪さを。
巻き上げて、撒き散らし、破廉恥なやけくそ。でも私はコレを失いたくない。
ボダナード寺院の
マニコルを回しながら、何も考えずに、敷地をグルグルとネパール人チベット人と一緒に時計回りに回る。
仏塔の上にある4つの顔はすべてを見通す仏陀の目。5層構造になっているのは土、水、火、風、空。赤・黄・緑・青・白の旗。
ただ歩くだけ。