むかーしむかし、といっても、そんな昔ではないことであった。
青年は、裏山に芝刈りに行くつもりでフェイントをかけて、キノコ狩りに出かけた。
といっても、本業は散歩で副業はリーマンなので、キノコのプロフェッショナルではなかった。キノコの本は、その善悪を含めて、10冊程度の蔵書はあったのだが、(何故だか、毒キノコのページばかり自動的に開いてしまうのだが)、指南してもらったことはないので、一般にいうところの素人であった。
それでも青年は(正確には20代の好青年)、歯を食いしばり、木の子を摘んだ。
山の空は、非常に明るい憂愁が流れていた。山の端には、カラスが飛んでいった。
スーパーのビニル袋にキノコが満杯になった頃、青年は、食ってもいないのに、笑いがこみ上げてきた。これから、どうやってこの危険と対峙し、どう胃袋が戦っていくのか想像しただけで、怪しい笑いがでてきた。
自宅に戻り、早速、フライパンに油を敷く。シェイクやオムレツにすると本格的ぽいので、取り合えず、図鑑といろいろ照らし合わせながら、毒々しい色を見て、ニヤリとし、青年は意を決して、食った。
「お、俺は食ったぞおお」と自宅の天井に向かって、高らかにお箸を持った手を挙げて、叫んだ。
青年はまだ生きているし、こうやって日記を書いて暮らしている。