・・・・雨が降る。それも酷い雨が日本を覆っている。
18歳という未成年で大学に入学して1ヵ月後、合宿と称した拷問が敢行された。場所は大峰山、荷物は35キロ。ちゃんちゃら受験勉強を終えて体力を消耗してきた1年をものともせず、その前に鍛えた陸上部マラソンランナー魂で、というわけには、筋肉を使う場所が違いので、絞りかすのような体力が頼りであった。おまけに、山といっても景色はなく、永遠につづくブッシュ。精神的に参った。「ちゃんちゃらもてもてボーイになるために大学にはいったのに・・・」野坂如昭はえらいと思った。「早稲田大学に入った理由は?」と質問され「女の子にもてると思ったから」と答え、「じゃあ、早稲田を辞めた理由は?」と質問され、「女の子にもてなかったからだよ」と答えたそんな心意気がうらやましくもさえあった。
やがてくる8時間後のテント場だけが、その日の私の楽しみであった。景色がないだけでない。日本一の降雨量を誇る尾瀬の近くだけあって、毎日雨である。食糧は減っていくはずなのに、水分が染みて、全然、荷物が軽くなっていかないのである。
仲間が1人ばてたため、その日テント場についたのも夜の八時であった。そこから食事を作り、ソレも誰がどう間違えたのか、レトルトではないカレーであり、ニンジンタマネギ切からであり、食事が出来たのは夜半過ぎであった。おまけに大雨で、今ほど良いテントではないので、テントの中にも水が入ってくるので仕方なく、寝袋の両脇を押してくぼみを作り、水の通り場を作った。寝ている顔面の横5センチほどのところを水がちょろちょろ流れる。10センチ先には、汚い野郎の顔が見える。反対向いても、小川と野郎である。
3泊、山篭りを越え、やっと下界に辿り着いたとき、友達がタバコ吸うかと聞いてきた。実際、それまで、数回しかタバコは吸ったことがなく、それもふかしていただけであった。でも、滅茶苦茶に疲れきった体に、肺まで通したこのときのタバコは旨かった。こんなに旨いものとは知らなかった。そうしてその後20年近く続くスモーカーになったのであった。