自分は、昨日の日記で、調子にのってソウルで昼間は一日中寝ていたと嘯いてしまいましたが、1度は、散歩に連れて行ってもらいました。泊めて貰っていた学生の後輩であり、彼女を連れてきており、学校では日本語も勉強しており、日本語を少しばかり話す人でした。名前は伏せておきますが、ドンボーという名前でした。泊めて貰っていた親父に日本語で毎日、「オマエタベル」とか戦中の名残で怖い言葉で更にニコニコしながら片言の日本語を話してくれていたために、ドンボーの日本語は敬語が散りばめられとても優しく感じました。ソウルタワーに行きました。
ドンボーの彼女は日本語と英語が出来なく、自分は英語と韓国語ができないので、ドンボーの彼女はニコニコしているだけでした。そこで、素早くドンボーはニコニコしながら日本語で言いました。
「私の彼女は、あまり、うつくしくありません」
自分は少し顔が引きつり、ドンボーの彼女の顔を見ました。ドンボーの彼女は微笑み返しで、更にニコニコっと笑っていました。
すこし、顔が凍りついた自分に気がついたドンボーは、更に得意の日本語でいいました。
「そのベンチで、アンパン食べましょう」
ドンボーは、誠にオカネのない自分がいうのも何ですが、彼自身も学生の分際でお金の持ち合わせが少なく、自分に食糧を供給するのに苦労していたようです。是非、日本に来られた時には、酒池肉森全漢千席の世界にご招待したいと心から誓ったのでした。
ソウルタワーからの景色のことは、今ではすっかり忘れてしまいましたが、そこで声をかけてきた女性が、今まで会った日本語を話す外国人で最も日本語が流暢な人でした。顔もアジア人なので、日本に紛れ込んでも、絶対にガイコクジンとは分かりません。分かったとしても絶対在日韓国人と思われるぐらいの熟練度でした。
結局、自分は、その帰りに、レコード屋でストーンズの「エモーショナルレスキュー」を買うほどの余裕ブリを発揮しました。700円でした。残りは、300円です。
そんなこんなで、自分は、空港までわざわざ送ってもらい、凱旋帰国を果たしたのでありました。
大阪空港では、自分は、金がないのどうすべきか考えていたのですが、外に出る一番近い税関検査の所に並びました。他人が自動ドアから出て行くのを見ると、自動ドアの向こうに2人の友達が自分なんかの溜めに迎えに来てくれていました。そして、他の列の人々はどんどん税関を抜けていくのに対し、自分は犯罪者被疑者非国民の如く、唾棄されるが如く、目の敵にされるが如く、税関員にあれこれ拷問質問を受け、荷物を事細かにチェックしていただくのでした。他の人々がどんどん出て行き、そのたびに自動ドアが開き、2人は、最初は手を振ってくれていたのですが、そのうち心配そうな顔になり、仕舞いには大笑いしていました。税関員の人も気がついたようです。
「お連れ様ですか?」
そんな自分もようやく、税関無事抜け、2人に再会し、開口一番、帰りのバス代がないことを赤裸々に告白し、韓国ウォンを両替して、その201円を2人に前金として渡すのでありました。