昔、四国の松山の温泉宿に泊まり、そこで、生まれながらにして盲目の按摩師を呼んだ。
失礼ながらも、私は、「目が見えないってどんな感じなんですか」と聞いた。
「まだ、諦めてませんよ。花や月を見てみたいのです」と言っていた。
意味もなく、私は、医者でもないのに、この人のために何とかしてあげたい、この人が見えるようになるまで、私は死ぬ訳にはいかないと思った。
なかなか知り合いのためには死ねないのかも知れないが、見知らぬ人のためなら死ねるのではないかと思う瞬間がある。何故だろう。でも、だからこそ、人間らしいなとも思う。
インドには、方輪の乞食が数多く存在する。バラナシの迷宮の路地入口にも手足のない乞食が、置かれていた。彼は、結構稼いでいる。夜には、出勤時間が終わり彼はいない。ある夕刻、彼を回収する人間をみた。彼は抱きかかえられ、雑踏に消えた。翌朝、彼はまたそこに座り、屈託のない笑顔でいた。私が通ると、急に憐れな顔をするのだが、何故か明るいのであった。豆が1粒、屋台から転がってきて、すかさず彼は、体で転がり、道端に落ちたそれを食べた。屋台の主は何も言わなかった。