サモシール島にいた。
サモシール島は淡路島やシンガポールと同じ程度の大きさで、バタック族というキリスト教が住んでおり、独特の尖塔屋根の家に住んでいる。その島は、トバ湖に浮かんでいる。トバ湖は、琵琶湖の3倍の大きさで、世界一大きいカルデラ湖であるという(2番目はイエローストーン)。
東洋のスイスとか東洋のチロルとか言われているが、それは、東洋のベニスといわれるバンコクと同様、そう大したものではない。しかし、何故だか、宿屋が乱立し、その宿屋も誰も泊まっておらず、おそらくインドネシアで一番安い部類の宿屋である。どこも、100円程度で泊まれるのであった。トバ湖はインドネシアのスマトラ島にある。スマトラは世界で6番目に大きい島だが、7番目に大きい本州の約2倍強の広さがある。本州とグレートブリテンはほぼ同じ大きさ)。
そういうことを頭の中で感じながら、理屈が愉快である。しかし、この島が、淡路島ほどあり、この湖が琵琶湖より大きいということは、入り組んでいるので、分からない。分からないが、特に何もないこの島を3時間歩いたところで、特に何もない。ジープと1回すれ違ったところだ。ボブマーリーのレジェンドを聞きながら歩いている。
8月23日、その日も、ただ散歩だ。島は山で覆われているが、湖の麓は、牧草地が広がる。
1キロ程度先に教会風の学校が見えた。正午で学校が終わったのか、子供たちが出てくるのが見える。
1本道の向こうから、子供たち30人ぐらいが、歩いてくるのが豆粒のように見える。私も歩く。子供たちも歩いてくる。あと10分もすれば、すれ違うのだろう。両脇は、牧草地である。私は、山を見、湖を見、口笛を吹きながら、平均気温20度程度の高原地帯を歩き、時々、子供たちが近づいてくるのを眺める。
10分後、ついに、30人の子供たちとすれ違う。子供たちは、外国人東洋人に興味を示し、「ハロー」という。それぞれの子供たちがはにかみながら「ハロー」という。
私は30回、ハロー、という。
そしてすれ違う。
2時間歩いて一休みしていると、地元の姉妹に声を掛けられた。キリスト教徒なのでなのだろうか、イスラム教徒でないからであろうか、女性が声を掛けてきて、いろいろ話をしていると、夕方になり暗くなってきたので、また2時間歩いて帰ることにした。そこに、おじさんが一人、歩いてきた。私を見て、名前を尋ね、どこにいくのかと訪ねてきた。私は名前をいい、シマニンドに戻るのだと答えると、彼は、はにかみながら笑い、同じ方向だね、一緒に行こうといった。
彼の歩く速度は速かった。
そして、彼は終始無言であった。
真っ暗な舗装されていない、車が1台通れる程度の道を歩いた。
汗は出たが、気温は低く、汗が冷たい。冬の夜にランニングをした高校生の頃を思い出した。虫の音と、湖の波の音と、歩く我々の足音だけが延々に続いた。
2時間が過ぎ、見覚えのある宿屋の辺りに帰ってきた。
彼は、「もう一度名前を」と言った。そして握手をした。そして、別れた。