空港で余ったスペインペセタをマルクに両替する。空港詰銀行マンは「わおっ、君はスペイン人かい?」と派手な反応をするので、「気持ちはね」といった。結局、八時間で出会ったドイツ人で一番陽気な人だった。
イミグレーションの仕組がよく分からない。EC加盟国らしき白人は、どんどん外へ出て行く。気の弱い私は、黄色人種が同じ様に通り過ぎて行くのを確認して、ドキドキしながら外へ出た。「おい、ちょっと待て」なんかゆうなよ、と祈りながら。
そういえば、何かの本で昔読んだ。スイスに入国する時、その人はスタンプを集めていたので、イミグレーションオフィサーに「パスポートにスタンプを押して下さい」と頼むと「そうすれば、私は君に対してこの国での責任をとらなければならなくなるんだよ」といわれて、断られたという。
何か、密入国したような感覚に陥り、足が不自然に速くなる。列車口を探すが改札口がない。自主的に買わなければならないらしい。いい人の私はキセルなどできない。それに、こういったシステムは、見つかれば問答無用に罰金なのだろう。乗り越しという概念はない筈だ。感嘆仕切れぬ良心の呵責だなあ、と思いながら、列車に乗る。
フランクフルト、駅を出ると、どんよりとした天候、ごみくず。何か、ルフトハンザ航空で見たフランクフルトの紹介ビデオ、ファイナンシャルシティとはえらく違い、ちょぼくれている。駅前の安っぽいポルノ小屋やピーピーングルーム、エロビデオセンターなどなどばかりだが、人通りは少なく、呼び込みがジャンパーを羽織って震えている。枯れたソドムの世界。
いきなり駅前から裏街道開始、わびしい欲望の世界、先進国と呼ばれる国での寂しい一面。それら副産物を惜しげもなく顕にしているきつい現実。多少愉しくなってきた。
しかし、私の目指すところは、さらに先だ三百メートルぐらい。ガイドブック「地球の歩き方ヨーロッパ編」のフランクフルトの二ページを千切ったものを見ると、番外に「デンジャラスゾーン、要注意はシラー記念像近く、行っちゃ駄目」と書いてある。「ここだあ」と私は静かに叫んだ。
シラー広場。零度。寒いだけで、人影さえない。寒いだけなのだが、自由の空気が流れている。そして、緊張の空気が流れている。その自由と緊張をどうやって弄ぶかが問題だ。
暖かい季節にここに集まる人々は、今、きっと、先程地下道で見たように、少し暖かい所に移動しているのだろう。次回、交ぜてもらうよ。
意味もなく、ずんずん進み、川沿いの美術館や博物館や記念館を順番に入り、何度か職員に「こんにちわ」と日本語で声をかけられた。やはり、同盟国に共感があるのだろうか。
ヨーロッパでは辺境だからなあ。内面的自由を得てこそ、初めて外面的自由を獲得する。深みが重要である、トーマスマンはいっていたような気がする。そう思いながら、また空港に戻って行った。
旅の余韻は一週間しか続かなかった。一月十七日の地震まで。
2008年イギリス旅行
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