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カテゴリ:映画感想・メール更新
ただただ、静かな映画でした。
「ゲド戦記」をセカイ系というフレームで再構築したような物語。 『新世紀エヴァンゲリオン』で一躍有名になった「セカイ系」という言葉があります。 キミとボクの閉ざされた世界。彼らの個人的な物語が、世界の命運に直結する。主人公達の意思が世界の運命や未来を決定していく。セカイ系で描かれるのはそんな世界。 主要な登場人物は少なく、アレンとテルーの悩み、そして想いが、アースシーの運命や未来を決定していく。 ちょっと調べてみたら、宮崎吾朗監督は『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督と10も離れていないようでして、妙に納得。これは宮崎駿さんだったら、とうてい作れない映画だったんじゃないだろうか。 ことばは沈黙に 光りは闇に 生は死の中にこそあるものなれ 飛翔せるタカの 虚空にこそ輝ける如くに『エアの創造』 太古の言葉が魔法の力を発揮する多島世界・アースシー。その世界を彩るのは、宇宙のそして世界の均衡と意味を等しくする魔法であり、世界は、「真の言葉」によって表される。 己の影に立ち向かい、自分を自分として受け入れる物語。 それにしても、つくづく思うのが タイトルが悪いよ、タイトルが! 「ゲド戦記」って聞けば、ゲドっていう地での世界の覇権を巡る「剣と魔法」の物語だって思っちゃうじゃん。 いやいや、何バカなこと言ってるの?ゲドっていうのはね、人の名前なんだよ? ………ということが分かってたとしても、 タイトルが悪いよ、タイトルが! 「ゲド戦記」って聞けば、ゲドが活躍する話だと思うじゃん! 蓋を開けてみたら、(ハウルみたいく)派手な魔法が炸裂することもなく、ゲドに至っては、ろくに役に立ってないという代物でした。挙句の果てには、映画のCMでさんざん流れた「世界の均衡が崩れている」というフレーズですが、結局、映画が終わっても、世界の均衡は崩れたまんまです。 映画が終わって、皆さんが首を傾げてたのもしょうがないやね。 幸い、私はゲド戦記の1巻(←映画の原作ではないですが)は読んでましたので、「ゲド戦記」というのは血沸き肉踊る派手な物語でもないし、ゲドが圧倒的な魔法力を駆使するキャラクターでもないことを知ってました。なので、静と動で分けるならひたすら「静」なこの映画については、そこまでの違和感は感じませんでした。 まあ、さすがにその壮大な世界観を描写しきれてはいませんでしたが、それなりにゲド戦記の世界観を映像化しようという意気込みが伺えて良かったとも思えるくらい。 ただ、やっぱり欠点は多い。 映画では「真の言葉」の説明が不十分で、何故ゲドが「ハイタカ」と呼ばれるのか、アレンやテルーが「真の名前」を授けあう意味が何であるかが、不透明なものになってしまっています。 「真の言葉」による「真の名」。これを知る、そして知られることは、その人物の全てを支配することに繋がる。 うまくは言えませんが、その辺の重要性が説明不足で残念。 とにかく説明が乏しくて、監督の意図するところが伝わりにくい。 但し、欠点ばかりと言うわけではなく、影には光が必要であり、死を否定することは生を否定することに繋がる。アレンが己の影に怯える姿はそのことを表現しようとしたものであっただろうし、アレンが不安な心に塗りつぶされて父を殺してしまうくだりは、監督の父(宮崎駿)への葛藤が垣間見えるようで感慨深いものがありました。 映像はきれいです。 今までのジブリ作品に比べて作画のレベルが落ちたと感じる方が多いようですが、確かに荒削りな作画だったとはいえ、アレンの表情は宮崎駿には書けないだろうと思われるものが多く、感情をむき出しにした表情や、自分の思いに沈み込む表情なんかは、かなり見ごたえがありました。 そして、一番目につくのが、色の数。もののけ姫やハウルは過剰なくらい色を使用した画面でしたが、「ゲド戦記」に至っては、かなりシンプルです。もののけ姫の3分の1くらいしか使ってないんじゃないかってくらい。 でも、それが華やかではないけれど骨太な印象を与えていて、逆に良かったんじゃないかなあ。イメージは世界名作劇場。 宮崎駿さんの絵に縛られすぎると、良さを見失いかねません。 以下、キャラクターごとの感想(落書きはクリックすると大きくなります。) 【ゲド】 普段は「ハイタカ」と呼ばれる大賢人。真の名が「ゲド」。 ふらふらふらふらそこら辺を歩き回って、昔馴染みの女性(テナー)のところへ押しかけて農作業をし、攫われたテナーを救おうと城へ向ったらあっさり捕まって地下牢へ入れられた挙句に他力本願。 この人、どの辺が「大賢人」ですか?と言わんばかりの活躍っぷりです。ただ、文太さんの渋い演技で、「大賢人」の貫禄だけは感じたけどね。 やっぱ、タイトルが悪いよ、タイトルが。いっそのこと「ゲド戦記」って使わなけりゃ良かったのに。タイトルに名前があるせいで、映画での役立たずっぷりが際立つわけで、そうじゃなけりゃ、主人公アレンの導き手として強い印象を残したに違いないのに。そこんとこが残念でした。 【アレン】 悩みに悩んで、テルーの言葉でふっきれて、その後はそれまでの欝っぷりが嘘の様に剣を振るって大活躍。岡田くんのセンシティブな演技と相まって、なかなか魅力的に描かれてたんじゃないでしょうか。 ただし、前半はひたすらうじうじうじうじしてるので、こんの蛆虫野郎、しゃんとせんかい!と肩をぶんぶん揺さぶりたい、もしくは頭から水をぶっかけたい気持ちにさせられること請負です(笑) 岡田くんの演技ですが、キムタクとは比べ物にならないくらい上手でした。長台詞だと、滑活が気になるとこもほんのちょっぴりありましたが、全体的に発声がよく、感情を押さえた声音も堂に入ってて、さすが演技力に定評があるだけあるなあと素直に感心。 ところで、アレンは17歳とのことでしたが、ぶっちゃけ14歳くらいにしか見えません。テナーとの身長差ありすぎだよ。王子のくせして粗食だったのか? 【テルー】 竜の化身である少女。 色々突っ込みたいところは多々ありますが(アレンが父親を殺したって聞いてもろくにビックリしないし。だって人殺してるんだよ?しかも父親だよ?もっと驚こうよ!ってか最初にあんだけ嫌ってたくせに、その変わり身の速さは何?)、アレンと手に手を取り合うシーンは非常にかわいらしくてよかったです。 さて、声を演じた手島葵さんですが、エンドクレジットで(新人)って付ける意味が分かりません。そこを強調してなんかいいことあるのか? ハッΣ(゚ロ゚〃)、分かった、下手くそでも新人だから大目に見てよねってこと?(←唄は最高にいいんだけど、手島葵ちゃん、長台詞に入ると滑舌が今三つ。) 【テナー】 この人もゲドとどっこいどっこいの役立たず(笑) 風吹ジュンさんの演技がかなりいけてません。やっぱ本職の声優さん使おうよ。 【クモ】 やっぱりツッコミどころが沢山。一番は、最後の最後でなんでテルーを担いで逃げたのか。お荷物になるだけなんだから、とっとと自分だけ魔法つかって逃げりゃあいいのに、等など。 それはさておき、最後、光に駆逐されて闇であるクモは崩れ去っていくわけですが、そこの作画が今までのジブリ作品ではついぞお目にかかれるような代物じゃなかったのにびっくりです。 あそこでいきなり違う作品になったかと思うくらい絵が違ってました。 個人的には、ああいう作画は好きなんですが、いかんせん、前後のシーンと絵的な繋がりがないのでマイナスか。 あ、田中裕子さんは、さすがの一言でした。う~ん、俳優だろうが女優だろうが、上手下手は関係ないってことなのかなあ…… 【ウサギ】 声を聞いてる分にはてっきり千葉繁さんかと思いきや、香川照之さんでございました。 めちゃくちゃ上手い!この映画の中じゃ一番! 結論から言えば、やっぱり失敗作と言えるんでしょう。タイトルとストーリーがかみ合ってないし、そもそもストーリーの起伏に乏しい。敵は倒せても、世界の均衡は崩れたまま。 酷評が多いのも仕方ないかなあ…… 元々が、世界三大ファンタジーの一つとはいえ、指輪物語やナルニアと比べて地味なことから、新人監督が映像化するにはかなり難しい素材だったんでしょうね。 ただ、今までの宮崎駿氏とは一線を画した作画(登場人物の表情)は見応えがありました。 荒削りさが取れたら、かなり魅力的なものになる可能性は十分秘めていると思われます。 そして、世界的にも有名な父(宮崎駿)が最も近い場所にいるが故の宮崎吾朗監督の繊細さ(?)が投影されているかのような、物静かな雰囲気は気に入ってます。まるで、凪いだ海のよう。ゲドとアレンが旅をするシーンが、その最たるものじゃないかな。 個人的には「ハウルの動く城」より好みかも。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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