【月が満ちたら】



広大な屋敷の縁側で、少女は一人空を眺める。
空に浮かんだ月で兎が餅つきをしているのが見える。
薄い雲が前を通り過ぎて、少女の顔にもうっすらとその影が落ちる。
何をするでもなく、ただ屋根を越え、垣根を越え、街を越え、
見えない世界に想いを馳せる。
少女は目を閉じる。そして見るのは今よりも先の世界。
明日の朝の町の様子、新聞の中身。
少女は再び瞼を持ち上げる。
少女が自分の力に気づいたのはいつの頃だったか。
それさえも思い出せない程昔のこと。


見事な庭園と、広大な屋敷と、数え切れないほどの女中達。
少女の為だけに与えられた巨大な部屋。
日が昇れば召使の一人が起こしにやってきて、
何度もの毒見を経た朝餉を食べる。
日が高くなる頃には、
上等な着物に身を包んだお偉方や商人が
札束を手にやってくる。
少女は袴に着替え、目に見える真実を求める者にただ伝える。
それ以外の目的で来る者はいない。
少女が汗をかけば、それを拭うものはすぐ側にいても、
その手に感情は無い。


日が沈めばその日の務めは終り。
身を清め、夕餉を済まし、部屋に戻される。
少女一人のために屋敷中に警備が入る。
少女はいつもと同じように空を眺め、想いにふける。
普通の女の子として生まれることが出来たなら。
未来を変えることが出来るなら。
どれだけ素晴らしいだろう。
そして、一体何度同じ事を考えたことか。
人々の欲望と共に移り行く世界を
常に見てきた少女の目には諦めの念が映し出され、
最近では、滅多なことでは感情を表に出さなくなった。


毎日が同じように過ぎていく中で、少女は夜、
月を見ては一日に一つ、紙に書いた数字を消していく。
数字が十を切った時、少女は両手を開いて
一日に一本ずつ、指をおっていく。
少女の指が一本おれるごとに月は満ち、兎が徐々に姿を現す。
その時にだけ、少女は一人心を躍らす。


警備員も女中も誰も知らない、秘密の時間。


月が満ちたときにだけ、街を越え、垣根を越え、屋根を越え、
一匹の猫が少女に会いに
空の兎を背負ってやってくるのだ。


【完】

ＳＳの中には全然出てこないにも拘わらず、

マスター！全蔵さんのかっこよさが反則レベルです！

と、早速マスター呼ばわりですが、ぽっぽさんのＳＳと「やっぱ戻ってるよジャイアン　でも俺はあの時のお前を忘れない現象」編な第１２４訓を併せて読むと、相乗効果で阿国ちゃんの愛らしさと全蔵さんのかっこよさがえらい（＝すごい）ことになります。確実です。

「全蔵さんは毎週ではなくても、定期的に阿国ちゃんに漫画届けに行ってる気がします。
そして阿国ちゃんはそれを心待ちにしてる気がします。
今や漫画より全蔵さんというお兄さんみたいな存在に会えるのが嬉しいんじゃないかな！！」

あーもう、マスターのメールにもクラクラしちゃうぜ、コンチクショー。
妄想の扉がフルオープンしちゃっていけません。

ぽっぽさんのおかげで、元気一杯、今なら広島を征服できそうな気がします。←待て

ぽっぽさん、ありがとうございました！☆（≧▽≦）☆！

ちなみに、「メゾン・ド・ペンギン」が打ち切りになるかどうか気にしてた阿国ちゃんの一押し漫画は「犬まるだしっ」に違いないと無駄に核心してるってのは内緒です（笑）