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2006/08/10 楽天プロフィール Add to Google XML

さよなら妖精(米澤穂信) ミステリはお好き?(6827)」
[ 読んだ本(ミステリ・日本) ]    

米澤穂信の「さよなら妖精」(2004)

を読んだ。

高校生を主人公とした話ではあるが,同じ著者の「クドリャフカの順番」(日記は,→こちらから)などの古典部シリーズとはやや雰囲気が異なり,あえて言葉にすればこちらのほうが「シリアス」とでもいえるが,マーヤに会う前の守屋行路と古典部に入る前の折木奉太郎には「似た匂い」が感じられる。

話の現在は1992年7月6日。

守屋行路と白河いずるが,ユーゴスラビアからやってきて前年の4月23日~7月6日まで彼ら,大刀洗万知,,文原竹彦(4人とも当時高校3年生)とともに時を過ごした17歳の少女マーヤの思い出をたどりながら,マーヤが帰っていったのはユーゴスラビア(連邦)を構成する6つの共和国(当時)のうちのどこかを推理するという話である。

思い出の部分では,守屋の前年の日記を読むことになるが,日本語をまあまあ話せて,英語は全然わからないマーヤに彼らが藤柴市の案内をする途中で遭遇するいくつかの「日常の謎(手に傘を持ったままささずに走る男性は?etc)」的なものに遭遇するとともに,ふだん「あたりまえ」と思って「流している」ことがらについても新たな視点から考えさせられることになる(「日常の謎」の部分はさらっと読み流したほうが無難な気もする)

そして,その中に入っているマーヤの言葉を手がかりに,後半では,マーヤが帰った国はどこなのかを考えることに……

「時も話も共有した」と思っていた相手から置いていかれてしまったさみしさ,その相手を追おうと決心したその瞬間に,それが不可能であることを知らされたやり場のない悲しさが,なんともほろ苦い味わいを残してくれた。
マーヤに惹かれていく守屋を横で見ているセンドー(大刀洗)の「イタい」気持ちも察しられ,まあ,これが青春の一コマか。


ところで,今年(2006年)の6月(今から約2か月前),日本政府(外務省)は次のような発表をしている。
我が国政府は、6月16日(金曜日)付けでモンテネグロ共和国を承認した。

……なお、モンテネグロの独立により、セルビア・モンテネグロはセルビア共和国に承継されたところ、セルビア共和国に対する我が国の承認は不要。


「さよなら妖精」には「The Seventh Hope」という英語のタイトルがある。

1918年にユーゴスラヴィア(南スラブ)をとして成立した国(連邦)はマーヤにいわせると,
「六つの国があり,……六つの民族は,一つ一つの国を造ろうとすることをやめ,……一つの国で,六つの文化を持つ」
ことになった。

マーヤが目指していたのは,「六つの文化を止揚」して「六つの文化のうちどれか一つにではなく,私たちの文化」に生きることであり,それがユーゴスラヴィアを連邦でなく新しい一つの国にすることにつながり,そのことが,「The Seventh Hope」そのものであった。

皮肉なことに,マーヤのこんな願いを聞いて(1991年6月5日)から1か月もしないうちに,6共和国のうちのスロヴェニアとクロアチアが独立を宣言し,内戦が始まったとのニュースが入る(6月30日)。

連邦軍が敗れ,スロヴェニアが独立が濃厚となった情勢の中でマーヤは帰国するため彼らのもとを去った(7月7日)。

スロヴェニア独立後のユーゴスラヴィアではマケドニア(共和国の1つ)はいつの間にか独立,連邦軍はクロアチアに介入して1992年1月まで戦争状態が続き,その後も散発的な戦闘が見られ,それは3月にボスニア・ヘルツェゴヴィナ(共和国の1つ)に飛び火して7月にいたっても紛争が拡大している。

マーヤが帰ったのが比較的安全な共和国だったのか,否か? 守屋と白河が帰国先を推理しているのは,それを知りたいからでもある。

結論は本を読んでいただくとして,ユーゴスラビアの各共和国について簡単にまとめてみると,
スロヴェニア,マケドニア ← 1991年独立。
クロアチア ← 1991の独立宣言後,1992年に国連加盟,ただし,連邦軍の介入は1995年まで続く。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ ← 1992年独立を宣言するが,民族対立による内戦状態が続いた。

上記以外の地域でユーゴスラヴィアは継続していたが,2003年,国名をセルビア・モンテネグロと改称。

さらに,上述したように2006年6月にモンテネグロが独立(サッカーのワールドカップにはセルビア・モンテネグロとして参加)。

ここに至って,マーヤが望んでいた7つ目の文化のもととなる6つの共和国がすべてバラバラになってしまったのだ(しかも,コソボ自治州を抱えるセルビアや連合国家であるボスニア・ヘルツェゴヴィナなど,紛争の火種が消えたわけではない)。

本を読んだのとモンテネグロの独立が,もちろん偶然ではあるが,計ったようなタイミングであり,その意味でも,印象深い作品だった。

米澤穂信の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (米澤穂信)からごらんください。


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Last updated  2006/08/10 12:49:54 AM

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