食の危機を産業技術で救えるか?「植物工場」に集まる期待度
「食の安全・安心の確保」「食料自給率向上」など、食に関する課題が山積している。そんな中、屋内で農作物を生産する設備「植物工場」に注目が集まっている。「植物工場」とは、空調や蛍光灯、LED照明などによって、温度、湿度、光を人工的に制御する農業設備だ。「工場」という名の通り、天候に左右されることなく、大量の作物を生産できることが利点の一つになっている。 なによりの魅力は作物の安全性の高さにある。屋内で生育するので害虫等の侵入が皆無、したがって無農薬栽培が可能になる。薬品を使わない、養水による水耕栽培といった作物の育成方法をとるので、消費者は生産された野菜を洗わずにそのまま食べることができる。 これまで、キユーピーやカゴメなどの大手食品メーカーのほか、中小の企業など全国で20~30社程度が参入している。すでに、「洗わずにそのまま食べられる」「安全・安心」「日持ちがいい」などをウリにして、百貨店、高級スーパーの野菜売り場、高級レストランなどで売られている。 植物工場の普及には、経済産業省、農水省も積極的な姿勢をみせている。1月には両省庁の垣根を超えて「農商工連携研究会植物工場ワーキンググループ」が発足。法改正、補助金などについて検討が進んでいる。さらに、経済産業省庁舎別館ロビーに植物工場のモデル施設を設置。訪れた人たちに強く存在をアピールしている。「食糧は不況に強いビジネスです。新規プロジェクトとして考えている方も少なくありません。特に、植物工場は外食産業、食品工場などの分野に向いています」(経済産業省 地域経済産業政策課) 植物工場では、一定量を決まった時刻に生産できるので、顧客が望む時刻に必要量の納品が可能になってくる。加えて、植物工場の作物は洗わなくてもよいので、外食チェーンや弁当工場などでは、工数削減や水道代の節約につながることに期待を寄せている。そのほか、今後応用できる事業として、サプリメントの原材料生産といった、今のところ競合が少なく、利益率の高い分野も存在している。 ただし、現状ではコストが高いという大きな課題が残っている。初期投資は小規模のものでも数千万円が必要。一般的には、1億円弱を投資して4~5年で回収するケースが多いようだ。これらの金額はビニールハウスと比べると格段に高い。ランニングコストも一般の農業と比べて1.7倍~2倍程度。最もコストダウンに成功した事例でも、通常の1.3倍かかるのが現状だ。 猛スピードで進む照明の技術開発、補助金など、コストの問題をクリアするであろう材料はいくつか存在している。課題はあるものの、今後ビジネスとしての発展は期待できる。(ダイヤモンド・オンライン2月17日)